小説家・矢野隆が語るゲームと小説の交差点(前編) ゲームウォッチ、バーチャ2、メタルギア、ドラクエ5はどこかで創作につながっているのか?
市川淳一『ぼんくら書店員のぼんくRADIO』

ryomiyagi

2020/02/20

 

■堀井雄二の「描かない、余白」のすごさ

 

市川:ドラクエ4、ファミコン版だとデスピサロを倒して終わる話なんですけど、都市伝説的に「本当は堀井雄二さんがもうちょっと話を付け加えたかったらしい」みたいな話が出てたんですよ。

 

結構前にDS版で、そのストーリーが加わったヴァージョンが出たんですよ。それがどういう話かというと、デスピサロを倒すんだけど、実は側近だったあるボスが悪の権化で、そいつと対峙することになる。そいつをデスピサロと一緒に協力して倒そうとする中で「せかいじゅのはな」っていうアイテムが出てきて……。

 

―私は最初にプレイしたのがDS版なので、わかります。

 

市川:「せかいじゅのはな」をデスピサロが恋人のロザリーに使ってよみがえらせるんですよ。主人公はラスボスを倒して、自分の故郷に帰ってエンドロールが流れる。

 

物語の冒頭で、主人公の恋人のシンシアって人が魔物に殺されているんですよ。だから、物語の中では描かれないんだけど、主人公は「ロザリーかシンシアか、どっちかを生き返らせる」という選択肢がある。でも、物語は敵役の恋人であるロザリーを生き返らせる方向に収斂していく。そこが、本当にすごいなと……!!

 

矢野さん:堀井雄二は悪を悪として描かないというか。「クロノトリガー」でも、魔王は……。本当に倒すべきものはまた違うところにいるわけじゃないですか。プレイしていない方にプレイしていただきたいので、これ以上は言いませんが。

 

―ジールとジャキが……。

 

市川:僕はドラクエ4のことだいぶ言っちゃいましたけど(笑)

 

矢野さん:ラストのあの設定は「悪」というよりは「命とはどこへ向かっていくのか」という……。

 

―色々なひずみから生まれるね……。

 

矢野さん:そういうことを小学生ぐらいの子にやらせようとしてたっていうのは、堀井雄二はものすごいですね。

 

市川:ドラクエ4なんて、(主人公の)恋人のシンシアが魔物に倒された時に「はねぼうし」を落とすんですけど、はねぼうしって普通に売ってるんですよ。だから、シンシアのはねぼうしを持った状態ではねぼうしを宝箱なんかから取ると、どのはねぼうしかわからなくなる(笑)

 

はねぼうしははねぼうしだから。シンシアのはねぼうしだけこの場所に置くってみんな決めとかないと。アリーナのはねぼうしかもしれないし。

 

菅さん:その設定は正解なんですか?(笑)

 

市川:正解正解!描かれない部分は自分の想像で、思い入れで補ってくださいよっていう。余白があるんですよ。それが素晴らしい。

 

■矢野さんが描く敵役は、ラオウみたいにカッコいい

 

―前の収録に話を戻すと、まさに『鬼神』の「デスピサロに近い」という話がありましたよね。実際、キャラクター造形の際に意識的・無意識的にそういうの(モデルの設定)はあったりするんですか?

 

矢野さん:明確に(キャラクターのモデルが)あって描くのとは違うところで。ゲームだけじゃなく色んなエンターテインメントに触れてきたので、どうしてもそれがどこかには入り込むだろうし。それだけじゃなく、僕の人生経験だったりいろんなものが。

 

逆に、ゲームの影響が一切ないなんてことはありえないわけで、それは僕の血肉なので。
具体的に「このキャラを」というのはなかなかないですね。それでも、よぎるというか。「これ、こういう流れは俺がこの作品が好きだからだな」とか。

 

―深いところで通底している。

 

市川:『鬼神』と、後で紹介する最新刊の『源匣記』に通じるのは、敵役がカッコいい。

 

矢野さん:それは『北斗の拳』とかの影響が大きかったりするのかもな、僕の中では。ラオウとかですね。あれも子供の頃に読んだんですけど、「悪いやつが悪いやつじゃないんだぞ」っていう、原作者の武論尊が畳みかけてくるような……。なるほどなと。それは大きいですね。敵役はどうしても(そうなってくる)。やっぱり、敵が強くないとカッコよくないというか。

 

―器の大きさを感じますね。

ボンクラ書店員のぼんくRADIO

ぼんくら書店員・市川

「『竜馬がゆく』と『燃えよ剣』の出版社の違いが分かる」を理由に、自信満々で某チェーンにアルバイトとして入社し10年が経過。光栄のゲームの武将パラメータを眺めながら、歴史小説を読むのが日課のボンクラ書店員。たまに本の帯やポップをデザインしたり、小説の巻末に漫画を描いたりしています。1981年神奈川生まれのAB型。
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