書店員が語る「コロナ禍と本屋」。緊急事態宣言中と再開後で変わったこと(前編)
市川淳一『ぼんくら書店員のぼんくRADIO』

ryomiyagi

2020/09/18

「カリスマぼんくら書店員」市川淳一がお気に入りの本や最近関わった本を出発点にして、縦横無尽に(≒脱線だらけで)出版業界やコンテンツを語りつくします。
今回のテーマは「コロナ禍と書店」。緊急事態宣言でお店が閉まっている間も、書店員は働き続けていました。その時、現場は何を考えていたのでしょうか。
そして話は書店再開後にやってきた「夏の文庫フェア」へと移り……?

 

 

市川:みなさんこんにちは。「ぼんくRADIO」のお時間でございます。……お久しぶりです。

 

―お久しぶりです。いやー、いつぶりですか。半年以上?

 

市川:昨年末に矢野隆さんをゲストにお招きした回以来。春くらいにやろうかなと思っていたんですけど、こんな事態になってしまったので。

 

―今回もZOOMなどではなく対面で行っていますが、「密」にならないように広めの部屋でやっています(笑)

 

市川:冒頭から言いますけど、今回は低空飛行です(笑)近況報告も兼ねてということで。どんな感じかわからなくなっちゃってますね。

 

―温かい目で見守っていただけると幸いです。

 

 

緊急事態宣言の間も動き続けていた書店

 

―コロナの影響、緊急事態宣言によって多くの書店が閉まって。市川さんのところも閉まったそうですね。大変だった、今も大変だと思います。休業期間中はどんな感じでしたか?

 

市川:お店は閉まっていても当然荷物は入ってくるので、「見えないお客さんを想定しながら本を入れ替える」みたいな。

 

―そうか、本は常に回していかないと。返品もしなきゃいけないし。お客さんはいない中でやるのはすごく大変そう。

 

市川:達人の領域ですよね(笑)

 

―心眼みたいな(笑)

 

市川:見えないものを見る。特に、僕が持っている(エリア)のは文庫・新書・コミックで、休業期間中に買いに来れないお客さんもいるわけですし、来ないからといって丸ごと全部返品するわけにはいかない。なんて言えばいいのかな、お客さんがいると仮定しながら本を循環させるような。

 

―血の巡りのようなもので、ずっと放置しておくわけにもいかないですしね。いつ(お店が)開けられるようになるのかもわからない中、極端な話「明日、明後日に再開します」となってもいいように。精神的にも大変ですよね。

 

市川:どの職種の方もそうだとは思うんですけど。普段やっていないことなので、かなり疲労というか負担はありましたね。だからその期間、本を全然読まなかったです。ゲームだけ延々とやってました(笑)

 

―本を読むのって単純に時間がある/ないではなくて精神的なエネルギーが必要ですから、そういう作業で疲れちゃうと本を読んでいる場合じゃなくなりますね。

 

市川:Switchのゲームを4本買いました。『ウイニングポスト』と『戦国無双』と『スプラトゥーン2』と『ウィッチャー3』。

 

―いい顧客ですね。

 

市川:家に帰ったらサイレンススズカ血統を残そうと必死に(笑)

 

―ほかの職種の方でも、いくら時間があるからといっても「おうち時間を充実させる」のはある程度余裕のある人だったりするじゃないですか。

 

市川:どちらかといえば僕は「没入」したかった。それこそ『あつまれどうぶつの森』が大ヒットしたりして。

 

―攻略本もめちゃくちゃ(売れました)?

 

市川:すごかった、というか現在進行形でまだすごいですね。

 

―(書店が)閉まる前後で『どうぶつの森』『鬼滅の刃』で長蛇の列が並んだというのはネットの記事なんかで見ました。なんだかんだ、そういうのがあるとお客さんは来る。

 

市川:うちは休業していたんでわからないですけど、たとえば緊急事態宣言中でも空いているベッドタウンのお店なんかは数字が良かったそう。

 

―普段行っていた大きな店が閉まっているから近所の、街の書店に行こうという感じなんですかね。ほかに、休業期間中にやっていたことはありますか?

 

市川:えーっと、『ウイニングポスト』と……

 

―(笑)

 

市川:そうだ、バックナンバーになるんですけど『Number』さんで、玉袋筋太郎さんのプロレス本の書評を書いたりして。

 

 

このラジオにもゲストで来ていただいた寺島さんの経由で。

 

市川:そう。『Number』デビューを飾っています。

 

―『Number』で執筆しているってカッコいい感じがしますね。

 

市川:プロフィールに加えてもらって(笑)

 

―「『Number』などに寄稿。」みたいな(笑)

 

市川:よろしくお願いします。なんだそれ!(笑)

 

夏の文庫フェアにモノ申す!

 

―休業中の話はこれくらいにしておいて。実際問題、予断を許さないけどもう(書店は)開いているので、来ていただくお客さんに色々な本をどんどん売っていくフェーズに入っていると思います。「今こんな本を仕掛けているよ」「お客さんはこんな感じで本を買っているよ」というのはどうですか。

 

市川:お客さんの数は、まだこういう状況なので普通に比べたら減っているとは思いますけど、お一人お一人のお客さんにいつもより数冊(多く)買っていただいている気がします。「目的買い」の本があって、で「ついで買い」の本をもう1,2冊というのはあるんじゃないかな。そういう意味では、単価の低い文庫や新書は今後もうちょっとやることがあるのかなーなんて。シリーズものの第1巻をこの機会に買っていただいて(読者の)分母を増やしていくとか。

 

―コロナでみんな大変だし支援しなきゃという気持ち的な部分だったり、単純に外に出かけられないから家で本でも読もうかという消費だったり。普段は買わない「もう一冊プラスα」に手を出してくれるのであれば、新書や文庫でサッと手に取って「沼」にはまらせていくようなことが必要ですよね。

 

市川:はい。休業期間が終わっていきなり夏の文庫フェアになっちゃったので。

 

―そうか、もうそういう時期ですもんね。

 

市川:だから「え、もう!?段取り全然できてない」という感じで始まりました。

 

―あまりよくわかっていない人もいると思うので、夏の文庫フェアって書店員にとってどういうものなのか教えてもらえますか?

 

市川:夏の文庫フェアとは「新潮文庫の100冊」、集英社さんの「ナツイチ」、それからKADOKAWAさんの「カドフェス」という3社の文庫が約100冊、店頭にずらっと並ぶ。書店業界にとっては風物詩的なイベントです。これ、引っ張ってもいいですか? モノ申したいことがあるので。

 

 

―はい、申してください。

 

市川:今回、エポックメイキングなことが起こりました。元々は3社とも「1冊買うとノベルティが1個つく」イベントだったんですけど、角川文庫さんは今回、ないんですよ。

 

―ノベルティなし?

 

市川:正確に言うと、帯についている応募券をKADOKAWAさんに送ると豪華賞品が当たるので、ノベルティがないわけではないんですけど。

 

―「店頭で買ったらその場で貰えるおまけ」、みたいなものはないということですね。

 

市川:はい。これ、僕はショックでしたね……。

 

―まあ、夏のフェアといえば栞だったりちょっとしたキャラクターのグッズがついてくるのが風物詩でしたからね。

 

市川:これは「ノベルティ問題」として、あえて……

 

―提唱したい?

 

市川:はい(笑)今調べてきて、集英社さんの「ナツイチ」は2006年から2020年まで(今回はブックバンドです)。これね、やっぱり結構な試行錯誤をされているんですよ。

 

 

―毎年違うものに代えないと「今年も同じかよ」となっちゃいますし、コストとかもありますからね。

 

市川:2006年がクリア栞で、2007年から2010年はストラップ。ちなみに、KADOKAWAさんはもう少しストラップで引っ張った気がする。2011年からスタンプに代わって2年続いて、ブックカバー。で、また栞。で、次はパッチンバンド。2016年。パッチンバンドってわかりますか?

 

―パッチンバンド……?

 

市川:縁日とかで「パッチン!」って腕にやるやつ。

 

―「はい」って言ったけどわかりません(笑)実物を見れば。

 

市川:腕に「ポン」ってやるバンド。「くるくるくる~」って。

 

―あ~、グルンって巻き付いて!おもしろーいってなるおもちゃ。これ、わからない人も結構いると思います。

 

市川:注釈をつけておいてください(笑)

 

―パッチンバンドという名称を知らない説も。

 

市川:それはありますね。ガチャガチャもいまだに揉めますから。ガチャなのかガシャなのか。ガシャポンはたしかバンダイだったような。まあいいや。

 

ジョブズが絶滅させた「おまけとしてのストラップ」

 

市川:また独自の「市川理論」が始まるんですけど、これはスマホの功罪なんですよ。

 

―あ~。あれですか、ストラップは携帯につけていたんですか。

 

市川:そうです。ガラケー時代っていうのは版元(出版社)もそうだと思うんですけど、何かキャラクターを作った時にとりあえずストラップにしていたんですよ。

 

―言い方は悪いですけど、とりあえずストラップにしておけば間違いない。鉄板。

 

市川:そんなに嬉しくはないかもしれないけど、嫌じゃない。いっぱいあって困るもんじゃない。で、そこそこかわいいじゃないですか。僕もキン消しとかガンダムのガチャガチャとか集めていて、小物があると嬉しい。童心に帰るというか。

 

―「つけて損はないしね」みたいな。

 

市川:ストラップが鉄板のノベルティだったのに、スマホの普及によって瓦解したんですよ。2007年くらいにiPhoneが出ているんですよ。

 

―初代がそのあたりでしたね。

 

市川:それで、4年間は引っ張っていって2010年にもうスマホがだいぶ普及しちゃったなと思ってスタンプに以降する。

 

―震災前後あたりでシェアもひっくり返ってきて。

 

市川:これはもうジョブズラインですよ。そんな感じしませんか?

 

―この仮説、あるんじゃないですか。多分、社内で「いやー今さ、そもそもみんなガラケー使ってないじゃん?」「ガラケー使ってる?俺もスマホだけどお前もそうでしょ?ストラップつけるとこないじゃん」みたいな話をしたんですよね、きっと。

 

市川:誰か伝手があったらApple社さんに「右上の端に穴を開けてくれ」と言ってください。

 

―いやー、無理ですね。(Appleは)イヤホンジャックすらなくしましたから。

 

市川:スマホリングとかはありますけど、ストラップにはやっぱり敵わないと思うんですよ。根付けの魔力(笑)

 

―ベッキーの携帯がすごい、とかありましたね。でもそういう「デコる」文化自体がなくなってきましたよね。スマホカバーとかリングもあるけど、機能的なものだったりするので。

 

市川:そうそうそう。意味合いがちょっと変わって。シュッとしてきている。

 

―もう見ないですよね。そういう、キーホルダーでもないけど装飾によって差別化する文化が廃れてきてしまっている。

 

市川:だから、いいノベルティないかな~と思って。

 

―やっぱりみんなブックカバーや栞に。コスト的にもそっちのほうが安かったりしますしね。

 

市川:本に紐づいているしそっちのほうが自然ではあるんですけど。

 

―遊び心というか、新しい案が欲しいですね。

 

市川:カドフェスもナツイチも「どのキャラクター(のグッズ)が出るか」を隠していたんですよ。

 

―ほかのキャラクターも欲しいからもう1冊買っちゃうぞ、ということですね。

 

市川:僕もぼんくらだったので、麻雀でいう盲牌的に当てたり。「これは水着を着たハチかな?」なんて。そういう文化もなくなってしまったので、ぜひ新しいものを考えたいなと。今だったらマスクなんですかね?

 

―マスクだと思いますよ。うち(光文社)も「たなみちゃん」というキャラがいまして。文庫の。いわゆる普通のお客さん向けのキャラではなく書店員向けのキャラという謎の位置づけなんですよね。書店へ売れ筋商品を案内する際とかにアイキャッチとして使う、ニッチな所にいるんですけど。「棚を見る」からたなみちゃん。

 

市川:わかってますよ(笑)

 

―で、たなみちゃんの書店用に送るものがマスクなんですよ。

 

市川:あー、じゃあやっぱマスクいいのかな。3社にはたらきかけてみようかな。

 

―夏のフェアって大がかりだから時間もかかるし、マスクがどうこうと(話題に)なる前に決めて資材の手配とかしなきゃいけなかったから、間に合わなかったんじゃないですかね。

 

市川:それこそ来年とか。「どのマスクがいいですか?」ってお客さんに聞いたり。

 

―ちょっとロゴが入っていて、アベノマスクよりも小綺麗な。

 

市川:こないだキン肉マンがマスクを作っていて。アニメ版の時の……わかるかな、わからないですよね。赤いフェイスを。

 

―要はそういう(作品の)文脈というか。

 

市川:そうそう、バズってましたよ。

 

―ファッションブランドとかエンタメ的なところがマスク(製作)に乗り出す流れは、既にあるんでしょうけど加速していきそうですね。

 

市川:リヴァプールのやつとか欲しいですもん。

 

―ちょっとおしゃれな感じの。

 

市川:DAZN入ったから。イブラヒモヴィッチが見たくて。来季やるのかな?まあいいや。

 

―ノベルティ問題。

 

新たなノベルティ候補はこれだ!

 

市川:ピルケースとか?

 

―あー。コストもそんなにかからないで、ちょっとかわいいのが市場にない、無機質なものしかないからキャラものが欲しくて、読者にとっても実用性があって嬉しい……!

 

市川:「どのピルケースがいいですか?」って。

 

―あ~、でも、まだどうなんでしょうね。女性の読者は嬉しいでしょうし……

 

市川:あんまり万人受けしない?

 

―栞とかって誰でも使うというか、色がつかない。

 

市川:万華鏡は?

 

―万華鏡……!? 子供は嬉しい……でも、今の子供って万華鏡を見るんですかね。

 

市川:万華鏡で、(集英社は)今はハチじゃなくて猫のキャラクターなので、それがくるくるって。

 

―遊び心としてはいいですけど……。

 

市川:「どの万華鏡がいいですか?」って。ダメですか?

 

―どちらかというと、時代としては実用性方向にシフトしているんじゃないですか?おもちゃ的なものよりは使えるものというか。

 

市川:えー、じゃあ収納ボックス?ちゃうでしょ(笑)

 

―収納ボックスは(ノベルティにしては)デカいじゃないですか(笑)でも、文脈的には収納ボックスみたいなことなんじゃないですか、ある意味では。

 

市川:ちょっとね、夏の文庫フェア問題についてはまた後日色々と。

 

―憶測ですけど、出版社側も営業担当の人とかが「これがいい」「あれがいい」と(議論している)。KADOKAWAさんが(店頭でのノベルティ配布を)なくしたのも色々な社内事情とかがあってやっている。だからこそ、ちょうどいいノベルティに困っているとは思います。書店さんも面倒くさがらずに配ってくれるような。

 

市川:逆に、またストラップとかもありだと思いますけどね。

 

―あえての。どこにつけるんですか?

 

市川:いや、どこにつけるかって……(笑)

 

―あなた次第。

 

市川:そう、あなた次第。

 

―カバンにつけてもいいし。

 

市川:そうそう。

 

―やっぱり「夏」の「フェス」ですから遊び心が欲しいというのはわかりますね。

 

市川:欲しい欲しい!

 

―明るい色合いでパンフレットがあって、ワクワクするような仕立てではあると思うんですよね、どの会社さんも。そうやっているからこそカラフルでワクワクするようなものがついてくるといいですよね。

 

市川:万華鏡いいと思うんだけどな……。まあいいや(笑)

 

―市川さんの推しは万華鏡ということで。

 

市川:万華鏡でお願いします!夏100問題はまた後日、徹底討論したいと思います。よろしくお願いいたします。

 

 

(後編へ続く)

ボンクラ書店員のぼんくRADIO

ぼんくら書店員・市川

「『竜馬がゆく』と『燃えよ剣』の出版社の違いが分かる」を理由に、自信満々で某チェーンにアルバイトとして入社し10年が経過。光栄のゲームの武将パラメータを眺めながら、歴史小説を読むのが日課のボンクラ書店員。たまに本の帯やポップをデザインしたり、小説の巻末に漫画を描いたりしています。1981年神奈川生まれのAB型。
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