広汎性発達障害とアスペルガー障害の関係
岡嶋裕史『大学教授、発達障害の子を育てる』

 

 広汎性発達障害は、とても個人的な印象を書いてしまうと、取りあえずよくわからない障害をまとめてぶちこんだようなカテゴリである。

 

DSM-Ⅳでは、【広汎性発達障害】の中に、さらに5つのサブカテゴリがあった。

 

・自閉性障害
・レット障害
・小児期崩壊性障害
・アスペルガー障害
・特定不能の広汎性発達障害

 

 このうち、ほとんどは自閉性障害、いわゆる自閉症である。特定不能の広汎性発達障害は、定義はともかく、実際の診断の現場では、自閉症の軽症例につけられることが多かったと思う。自閉症の診断基準はそれなりに厳しいのだが、ややそれを満たさない(でも、生活していくうえでは確かに困難がある)子に、特定不能の広汎性発達障害を冠するのである。

 

 では自閉症とはなんなのかという話になるが、これは長くなるので次回に譲ろう。ここでは社会との関わりに困難がある子、くらいに理解しておいてもらえればよい。具体的には、先生の言うことを聞かなくてはならない状況で歩き回ってしまったり、目的の駅を5回やり過ごさないとどうしても学校に行けない朝の儀式を持っている、といった困難がある。

 

 敢えて批判を承知で、コンピュータ屋としての拙い理解を示せば、知的障害はCPU(中央処理装置)がトラブルを抱えている状況であり、発達障害は入出力装置(コミュニケーション装置)がトラブルを抱えている状況であると思う。

 

 CPUといえば、コンピュータの中核機能であるため、「ああ、おたくの子は発達障害でよかったね」などと言われることもあるが、そんなにいいものではない。

 

 CPUの機能に問題を抱えていたり、性能が低かったりしても、そのコンピュータを満足に動かす技術はいくつも存在する。そもそも、あまり高いCPU性能を必要としていない用途に用いられるコンピュータも多いのである。

 

 一方で、ディスプレイやマウス、キーボード、タッチパネルといった入出力装置に問題のあるコンピュータは、とてもとてもとても使いにくい。どんなに内蔵されているCPUが高性能だったとしても、である。だから、知的障害より発達障害の方が軽いという話ではないし、両者を併発している子も多い。もちろん、併発している子のほうが、人生で抱える困難は大きくなる。

 

 アスペルガー障害は、自閉症の軽症例と言われる。後述するDSM-5では消えてしまい、自閉症スペクトラム障害の中に含められてしまった。

 

 自閉症のなかで、知的な遅れがなく(知能指数70以上)、言語運用能力にも遅れが見られないケースで診断される。似た言葉に高機能自閉症があるが、こちらは知的な遅れがない(知能指数70以上)が条件である。高機能と言われると、なんだか頭が良さそうなイメージになるが、ここでいう高機能は「知的障害がない」という意味なので、注意したい。アスペルガー障害にしても、言葉が流暢といった意味ではない。あくまで「遅れがない」のである。

 

 アスペルガーは一時、褒め言葉のようになった。卑下の形を取りつつ、自分の配偶者や子を自慢するような状況で、「うちの子はアスペで~」などという用法が取られた。なんだかちょっと行動が変なのだが、妙に記憶力が良かったり計算が得意だったりすることを表現するときに多用される。

 

障害者を世間に認知させることや、障害者のイメージ向上のために便利な言葉になりつつあったので、医師の中にすらDSM-5でアスペルガー障害の分類が消えて自閉症スペクトラム障害に統合されたことを残念がる者がいた。

 

 次回はその新版の診断マニュアルであるところのDSM-5で何が変わったのかと、自閉症の詳細について話をしよう。

大学の先生、発達障害の子を育てる

岡嶋裕史(おかじまゆうし)

1972年東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。富士総合研究所勤務、関東学院大学准教授・情報科学センター所長を経て、現在、中央大学国際情報学部教授、学部長補佐。『ジオン軍の失敗』(アフタヌーン新書)、『ポスト・モバイル』(新潮新書)、『ハッカーの手口』(PHP新書)、『数式を使わないデータマイニング入門』『アップル、グーグル、マイクロソフト』『個人情報ダダ漏れです!』(以上、光文社新書)など著書多数。
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