発達障害とモテ、オタクとの親和性
岡嶋裕史『大学教授、発達障害の子を育てる』

 

ところで、自閉症の子は異性にもてない。

 

当たり前といえば当たり前である。恋愛などというものは、コミュニケーションの極北であって、定型発達の子であっても悩んだり苦しんだりするものである。

 

4月に入学したばかりの大学生が、もうこの時期に恋愛の悩みで学校にこなくなっている。うん、たださぼっているだけかもしれないけど。

 

他人に興味や視点がいかないので、恋愛の相手としてこの上なく不適切である。お見合いの最中に、食事の匂いでそわそわしだして、相手をおいてけぼりにして様子を見に行ってしまったのはシューベルトだっただろうか。とにかく、そんな事件が頻発するのは請け合いである。

 

ぼくの子も、まったくもてない。

 

たぶん異性に、外見ではねられているわけではない。幸か不幸かぼくの子は家族の誰にも似ておらず、街を歩いているときにモデル事務所に何度も声をかけられた前科がある。黙っていたら、そこそこもてそうな感じなのである。古い文献で(科学的根拠には乏しいと思う)自閉症の特徴として、「哲学者のような風貌」とか「いつまでも若く見える」などと記したものがあるが、それに当てはまる感じだ。

 

でも、ちょっと会話の弾みで「セアカゴケグモが・・・・・・」でも言ってしまおうものなら(しまったと思ったときには、もう遅いのだ)、「節足動物門クモ綱クモ目ヒメグモ科のセアカゴケグモだよね? メスはオスの二倍あって、特定外来生物で・・・・・・」と30分は聞かされる羽目になる。そんな相手とはデートどころか、朝の挨拶だってしたくはないだろう。

 

もっとも、自閉症の子はそれが男の子でも、女の子でも(自閉症は圧倒的に男の子に発現する障害である。そもそも、人の話を聞かなかったり、自分の好きなことだけに熱中したり、相手の気持ちを慮れなかったりと、なんだか男性にとって耳の痛い症状が特徴的な障害である。男の子に親和性が高いのもうなずける)、興味の対象が限局されているので、異性にまったく関心がない子も多い。関心がなければもてなくてもまったく苦にならないだろうから、それが不幸せかどうかはわからない。

 

むしろ、変に人と関わりを持つ機会が減って喜ぶ子すらいるだろう。

 

私自身、異性としての二次元女子は好きだが、リアル女子には関心がない。オタクと発達障害の親和性については、いつか必ず書こうと思っているが、それは別の機会に譲るとして、芯から二次元女子が好きなオタク(男性の。女性のことはよくわからない)は多いと思う。よく、「リアル女子に相手にされないから、代用品として二次元女子に流れてるんでしょ?」と言われるが、そうではなくて単純に二次元女子>リアル女子なのである。

 

自閉症の子は空間認識能力が低いことがあるので、リアル女子のような複雑な形状は手に余るのかもしれない(この仮説はいつか検証してみようと思う)。二次元女子の美しさは理解可能なのだが。

 

発達障害を発現する子が増加傾向にあるいま、このトレンドは続くかもしれない。私自身は前から「恋愛市場において、リアル女子はそのうち本気で二次元女子と戦わなければならなくなる」だの、政治家に会う仕事があると「人口は今後ずっと減っていくでしょうが、二次元女子との婚姻をオタクに認めてそのぶん住民税を徴収すれば納税人口は増やせますよ」だの言ってきたので、トレンドの構築に加担している側である。それは極端にしても、LGBTと同列くらいのイメージで二次元キャラクタを愛情の対象とする人の認知が進むかもしれない。
とはいうものの、ふつうに体温を持った人間を好きになる自閉症児もたくさんいるし、傾向として二次元キャラクタや動物やモノを愛する子でも(そういえば、世界にはペットと結婚した人や、壁と結婚した人もいた。あれは自閉症ではなさそうだけれども)、何かの弾みで異性や(別に同性でもいいのか)を好きになるかもしれない。

 

そもそも自閉症児は定型発達の子よりも楽しみが少なかったりするので(重い子だと食事だけが楽しみという子もいる。だから重度の子を持つご家庭は、せめて食事だけでも摂れるように偏食回避の訓練などに注力する。自閉症はこだわりや知覚過敏が強いから、極端な偏食になる子も多いのである)、その恋愛の記憶が、たとえ成就しなくても、よい想い出になるといいなあと思うのである。

 

ぼくも一度だけ、ちゃんとした人間の女の子を好きになったことがある。

 

あのときほどイケメンを羨ましく思ったことはない。ぼくは残念ながら哲学者のような風貌どころか、典型的なちびでぶコミュ障だったので、クリスマスもバレンタインデーもすべて他人事か絵空事のように思っていたし、それでまったく構わなかったのだが、あの一瞬だけは自分がまともな外見や性格を持つ人間だったらなあと、切に思ったのである。

大学の先生、発達障害の子を育てる

岡嶋裕史(おかじまゆうし)

1972年東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。富士総合研究所勤務、関東学院大学准教授・情報科学センター所長を経て、現在、中央大学国際情報学部教授、学部長補佐。『ジオン軍の失敗』(アフタヌーン新書)、『ポスト・モバイル』(新潮新書)、『ハッカーの手口』(PHP新書)、『数式を使わないデータマイニング入門』『アップル、グーグル、マイクロソフト』『個人情報ダダ漏れです!』(以上、光文社新書)など著書多数。
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