カナー型の自閉症――様々な自閉症(1)
岡嶋裕史『大学教授、発達障害の子を育てる』

 

一口に自閉症と言っても、いろいろなタイプがある。

 

特に障害を自覚して初期の段階では、我が子がどの類型に属するのだろうか、将来どこまで能力値が伸び、どの程度社会に関われるのだろうかといった事柄は重大な関心事であり、書籍などで示される類型に子どもを当てはめて一喜一憂することも多いと思う。

 

ものの本を(しかもちょっと古めのやつ)を読むとよく出てくるのは、カナー型とアスペルガーだが、これはざっくりし過ぎていて、あまり実用的ではないと思う。

 

カナーは人の名前で、研究者であり医師であった人だ。初期の自閉症研究に多大な功績があった。自閉症(autism)と名付けたのも彼である。ただ、この障害を表すのに「自閉」という言葉が適切かどうかについては、私も含めて「どうだろう?」と思っている人がたくさんいて、カナーも後年になって「違う名称がよかった」と悔やんでいたとする文献もある。

 

そこにつけられたラベル、レッテルが全体のイメージに及ぼす影響は絶大なので、確かにもうちょっと考えてくれたらよかったのにとは思う。でも、本人もこんなに巷間に膾炙する言葉になるとは思わなかっただろうし、仕方のないところではある。ぼくらの業界だって、1年もてば十分だと思っていたシステムが30年使われて、2000年問題などを引き起こすことはままある。

 

カナーはたぶんご本人もだいぶ頑固な人で、それが自閉症の研究を進めることにもなったし、阻害したり認識を歪めたりすることもあったと思う。まあ、それはともかくとして、カナー型の自閉症というのは障害を自閉と知的障害の二軸で捉え、そのどちらもが重めの子を分類したものである。狭義の自閉症とか、古典的自閉症とも呼ばれる。昔は自閉症といえば、この群の子たちを指したのだ。

 

近年、自閉症の軽症化、大量化が進む中で、自閉症の意味合いがかなりライトになってきているが、会話の齟齬などをなくすためには、自閉症をどの意味で使っているか、合意を得ておくことは重要だと思う。

 

その後、知的障害がない(IQ70以上)子であっても、自閉的症状で困っていることが多々あるぞとわかってきたので、ここから派生して自閉度重め、知的障害なしのグループを高機能自閉症と呼ぶようになった。

 

さらに自閉度が軽いケースは(診断基準上、自閉と呼べないので)広汎性発達障害とくくり、その中でも知的障害がないと高機能広汎性発達障害になる。

大学の先生、発達障害の子を育てる

岡嶋裕史(おかじまゆうし)

1972年東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。富士総合研究所勤務、関東学院大学准教授・情報科学センター所長を経て、現在、中央大学国際情報学部教授、学部長補佐。『ジオン軍の失敗』(アフタヌーン新書)、『ポスト・モバイル』(新潮新書)、『ハッカーの手口』(PHP新書)、『数式を使わないデータマイニング入門』『アップル、グーグル、マイクロソフト』『個人情報ダダ漏れです!』(以上、光文社新書)など著書多数。
関連記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を