アスペルガー症候群――様々な自閉症(2)
岡嶋裕史『大学教授、発達障害の子を育てる』

bw_manami

2019/05/30

 

アスペルガーは、このくくりとはやや位相を異にしている。言語の発達を軸に加えているのだ。言語的な遅れがない自閉症をアスペルガー症候群と呼ぶ。知的な能力が高ければ、概ね言語能力も高い傾向にあるので、アスペルガー症候群と高機能自閉症を同じものと捉える文献もある。

 

でも、生活実感だとIQが低くて簡単な四則演算もできないけれど、ぺらぺら日常会話ができる子や、ものすごい記憶力を持っているけれども(記憶力は知的能力の重要な一要素だ)言葉が出にくい子にはまま遭遇するので、アスペルガー症候群を分別することには意味があったのかなと思う。

 

実際、自閉の度合いや知的能力の度合いよりも、言葉がちゃんと出ているか、そうでないかは本人や家族の生活に大きな影響を及ぼすことがある。たとえば、定型発達の子が集まる場所に行って人間扱いしてもらえるかどうかは、言葉がどのくらい出るかにかかっていることが多い。だから、今はなくなってしまった分類だけれども、我が子がアスペルガーかそうでないかを保護者や家族が気にするのは当たり前だと思う。

 

アスペルガー症候群は歴史的にもその位置づけが二転三転した。まずこの症状を発見したアスペルガーの書いた論文がドイツ語で、あんまり読んでもらえなかったのだ。業績を英語で発信しておくことって、やはり重要なのだなと思う。たいして違わない時期に同じような症状を研究して名声を博していたカナーとは天地の開きがある。アスペルガーの業績がもう少し早く世に知られていたら、自閉症の印象はもっと違ったものになっていたかもしれない。

 

埋もれそうだったアスペルガーの業績を発掘して広めたのは、イギリスのローナ・ウィングで、アスペルガー症候群という名前もこのときつけられた。ウィングの3つ組という言葉を目にしたことはないだろうか。自閉症診断の根幹になっている社会性、コミュニケーション、想像力の障害の3点のことを言っていて、これもウィングの業績だ。

 

すでに連載でも述べたように、アスペルガーの考え方は診断基準(DSM-IV)でも採用されたが、これらをきりきり分けることにあまり意味はなく、すべての症状は連続体(スペクトラム)としてつながっているという考え方がとられて、現在の診断基準(DSM-5)では記述が削除されている。

 

なお、アスペルガー症候群は、「言語の発達に遅れがない」という表現がとられるが、これは定型発達の子と同等の言語能力を保証する意味ではない。やはり、ちょっとヘンではあるのだ。たとえば、自閉症の子は厳密な定義や厳密な分類に執着することが多いが、会話でも意味の厳密さを優先させるのか、ここでそれはないでしょうという表現を多用する子などがいる。

 

療育の教室に行って、「本日は日の出前から快晴の空が広がっていて、これが開雲見日というものでしょうか」などと挨拶されると、おお言語能力の高い子だと感激するけど、じゃあクラスの中でふつうにふるまえるかというと、ちょっと想像しにくい。

 

我が子の立ち位置を求めたいならば、カナーとかアスペルガーよりも、大島分類表のほうが使いやすいかもしれない。言語の能力が換算されていないのだが、就学時にどのくらいの手当をしなければならないかとか、医療への出費がどのくらいになりそうだとか、主に親の覚悟を後押しするのに役立つ。

 

 

図 大島分類表、出典:
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%A5%E7%9A%84%E9%9A%9C%E5%AE%B3

大学の先生、発達障害の子を育てる

岡嶋裕史(おかじまゆうし)

1972年東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。富士総合研究所勤務、関東学院大学准教授・情報科学センター所長を経て、現在、中央大学国際情報学部教授、学部長補佐。『ジオン軍の失敗』(アフタヌーン新書)、『ポスト・モバイル』(新潮新書)、『ハッカーの手口』(PHP新書)、『数式を使わないデータマイニング入門』『アップル、グーグル、マイクロソフト』『個人情報ダダ漏れです!』(以上、光文社新書)など著書多数。
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