真面目にやっているつもりでも、不真面目に思われる――知覚過敏2
岡嶋裕史『大学教授、発達障害の子を育てる』

bw_manami

2019/08/22

 

ぼくの聴覚的な世界では、社会生活にとってどうでもいい音も、先生の声といった重要な情報も、かなり等しく聞こえる。人の声が耳に入らないほどではないが、けっこう集中していないと話を聞き逃す。英語が苦手な人が、英語の会話を頑張って追っかけている状態と言えば、おわかりいただけるだろうか。

 

特に、雑踏や人の集まる場所での会話は弱い。相当な確率で聞き返す。子どもの頃はあまり気にしていなかったけれど、長じて周囲を見回していると、みんなパーティだろうがクラブだろうが駅ナカであろうが、なんの遅滞もなくコミュニケーションしているではないか!それと比べると、自分のコミュニケーションはどれだけ遅滞しているだろう!そりゃあ、先生は反抗期だと思うし、友だちはふざけてると思うはずである。

 

そういえば、大学生のときに一級船舶の免許を取りに(ライセンスマニアだったのだ)行ったら、実技試験の所見欄のところに「難聴」と書かれた。実技で聴力検査はなかったはずなので「なんだろう?」と思っていたが、きっと何か聞き逃していたのだろう。

 

そう、この特性で、あまり不自由した経験はないのだが(ぼくが鈍感なだけかもしれない。広く敷衍できる話ではない)、ネックになる部分があるとしたらここである。発達障害の子は、本人は真面目にやっているつもりでも、先生から不真面目だと思われたり、友だちから馬鹿にしていると思われたりすることがままある。

 

先生や友だちを責めるのも、なんだかなあという気はする。ダイバシティとかソーシャルインクルージョンとかこれだけ言われているのだから、発達障害の特性くらい知っておこうよ、というのは、正論と言えば正論なのかもしれないけれど、あまり周囲を幸せにしないたぐいの正論かもしれない。

 

健常児には健常児の、定型発達の子には定型発達の子の悩みや葛藤があって、みんな自分の世話をするので精一杯である。障害児などという現実は、それが家族にでも起きない限りどこまでも人ごとであるというのが、自然な捉え方であって、健常児も障害のある子の特性を知って手を差し伸べようというのは、特に今のような経済的にも余裕のない高ストレス社会では画餅にしかならないだろう。

 

そんな中で、障害の可視化は有効かなと思う。

 

発達障害はぱっと見、定型発達にも見えるのに、その子が思った通りの行動をしないことで周囲との軋轢が起こる。周りの人がその子に対して抱く期待値と、実際の行動のギャップがトラブルのタネである。

 

だから、周囲にあらかじめ期待値を下げておいてもらう。ただ、みんなに「ぼくは障害があって」と言って回るのも迷惑だし、自分も疲れるし勇気もないし、スマートでもないので、もうちょっとさらっと伝えたい。地域や置かれている環境によっても違うと思うけれど、ぼくの住んでいるところでは、ヘルプマークがだいぶ浸透してきたので、あれを使っている。

 

セキュリティ面では、却って犯罪のターゲットになるリスクを大きくする側面もあるのだけれど、それを上回るメリットが(ぼくの子のケースでは)今のところある。

 

ぼくの子といえば、知覚過敏の度合いはぼくよりも圧倒的に高い。

 

トイレのハンドドライヤーは自分が使うのはもちろん、他の人が遠くで使っても耳を塞いで逃げ出した。

 

コンサートも無理だった。そもそもどこにも出かけなければいいのだけれど、経験からでないとなかなか学べないたぐいの子から、さらに経験の機会を奪ってしまうし、うちにずっといるのも間が持たない。というか、ぼくがクラシック好きなのだ。

 

小学生になると入場できる東京フィルの定期演奏会とか(主に自分のために)すごく楽しみにしていて、うきうきしながら一緒に行ったのだが、演奏が始まる以前の段階で、暗くなった瞬間に目を塞ぎ、音が鳴り始めると耳を塞いで(目からは手が離れた)会場外へ駆けだした。まあ、そんなこともあろうかと、一番後ろの2人掛けの席にしておいたんだけど。

 

しかし、それから5年経った今は、定期演奏会に毎回行けている。知覚過敏はまだありそうだが、慣れというのはすごい。だから、お子さんがいま知覚過敏でつらい状況にあるご家庭も、あまり思い詰めないで欲しい。

 

ただまあ、うちの子はコンサート自体はたいして聴いていない。プログラムに記された作曲家の家紋(好きなのだ)を創るのに腐心している。その姿はやっぱりちょっと変だ。

 

発達障害に関する読者の皆さんのご質問に岡嶋先生がお答えします
下記よりお送りください。

 

大学の先生、発達障害の子を育てる

岡嶋裕史(おかじまゆうし)

1972年東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。富士総合研究所勤務、関東学院大学准教授・情報科学センター所長を経て、現在、中央大学国際情報学部教授、学部長補佐。『ジオン軍の失敗』(アフタヌーン新書)、『ポスト・モバイル』(新潮新書)、『ハッカーの手口』(PHP新書)、『数式を使わないデータマイニング入門』『アップル、グーグル、マイクロソフト』『個人情報ダダ漏れです!』(以上、光文社新書)など著書多数。
関連記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を

RANKINGランキング