混合教育は定型発達の子にも、自閉圏の子にも負荷が大きい?
岡嶋裕史『大学教授、発達障害の子を育てる』

bw_manami

2019/09/12

 

定型発達の子の集団に、自閉症や境界域の子が入っていくのは、とても大変だ。ぼくは、今で言う境界域にポジショニングされる人間だと思うが、幼稚園、小学校、中学校と人生のどのステージでもやたらと苦労した。

 

以前にも書いたことがあるが、ぼくが自閉的な特徴を持つ子と同じ聞こえ方をしていると仮定して、それは「母語が日本語なのに、他の子たちは英語で話している状態」に近い。英語の教育を受けている場合、友だちの会話を聞き取ったり、そこに割り込んだりすることは不可能ではないけれども、ネイティブに操れる日本語のような快調さではできない。集中していなければならないので、放課後までにはへとへとになる。それがふつうだと思っていたが、いま思えばみんなはそんなにコミュニケーションに苦労しているようには見えなかった。

 

だから、反応は遅れるし、とんちんかんなことを言うし、いいタイミングで切り返しもできない。友だちのほうも気まずい思いをするし、こちらも萎縮する。長じてくると、「こいつはわざとやっているのでは?」という猜疑心も芽生えてくるので、余計に友だちとの関係は緊張感を帯びる。

 

ぼくの時代はまだ自閉症に関する認知も進んでいなかったし、小学校高学年~中学校の子どもたちは、猜疑心や批判的精神は芽生えても、まだ異なった存在に対する包摂を実行するほどには成熟していない。むしろ、異物に対する排斥が最も熱を帯びる年頃だろう。

 

それでいて、テストの成績だけはよかったりすると、健全な友だち関係を維持するのには相当な努力を要する。これは完全にぼくの個人的な体験談なので、一般化するのは危険だが、似たような状況の自閉圏の子は多いと思う。ぼくの場合は、成績の取り方もよくなかった。

 

ふだん、授業で当てられたりしても、うまく答えることができない。それはまあ、そうである。そもそも人の話が耳に入ってきていないのだ。当てられたことに気づくのが、まず僥倖である。で、何を問われたんだっけ?と推理する。当てられたことには気づけても、その内容まで聞き取れることはないし、「もう一度、お願いします」と宣言できるほどには世慣れていない。これまでの授業の流れと、先生の癖から何を聞きそうか推論するしかない。

 

そんなやり方では突拍子もない答えが出てくる。間違えるのならまだいい。でも、「どうしてそうなった」と思うような珍回答が生まれる。仮にうまく正解を引き当てた場合でも、微妙な間が空く。手の焼ける生徒である。

 

そんな奴が、ペーパーテストだと人が変わったかのような点数を稼ぐのである。こちらにも言い訳はある。もともと目から入ってくる情報をさばくのは得意だし、記憶するのも大好きだ。自閉圏特有の性急さで読み飛ばしても、いくらでも前に戻って情報の再摂取ができる。文字は素敵だ。

 

でも、ふだん授業を聞いていない(ように見える)のに、友だちのことも無視している(ように見える)のに、ペーパーテストだけ点がいいというのは、友だちコミュニティの中での立場を危うくする。先生でさえ嫌みを言いたくなるくらいなのだから。

 

だからこそ、先生や生徒に、自分たちとは違う存在の知識をつけてもらっての社会的包摂やダイバシティや混合教育、共生社会なのだろうけど、それでなくても自分のことでいっぱいいっぱいの学童期、思春期の児童、生徒たちに、それを軽やかに実行しろというのは荷が重いのではないかと思う。それこそ個人的な体験だけれども、混合教育のなかで障害のある子のお世話役(それが任命の形をとったにせよ、自然発生的にそうなったにせよ)のポジションになった子が疲弊したケースも見た。

 

混合教育は、理念としてはとても美しいし、将来的な社会のあるべき姿なのかもしれない。ただ、障害者を隔離して、まるで存在していないかのように振る舞う教育は論外としても、現時点では完全な混合教育は定型発達の子にも、自閉圏の子にも負荷が大きいかなと考えている。適切な区分、ある程度の区分は必要だと。自分のまわりの、あくまで極小の事例ではあるけれど、少し距離があった方がお互いに尊重できているように見えるのだ。

 

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大学の先生、発達障害の子を育てる

岡嶋裕史(おかじまゆうし)

1972年東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。富士総合研究所勤務、関東学院大学准教授・情報科学センター所長を経て、現在、中央大学国際情報学部教授、学部長補佐。『ジオン軍の失敗』(アフタヌーン新書)、『ポスト・モバイル』(新潮新書)、『ハッカーの手口』(PHP新書)、『数式を使わないデータマイニング入門』『アップル、グーグル、マイクロソフト』『個人情報ダダ漏れです!』(以上、光文社新書)など著書多数。
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