習い事をどうするか?--読者の質問にお答えします(1)
岡嶋裕史『大学教授、発達障害の子を育てる』

 

Q 習い事をどうするか?
A 好きなものを、気長に探したいです。

 

記事をお読みいただいた方からご質問を受け付け、回答する回をやっと実現することができました。

 

自閉症の専門家でもない私の記事を読んでくださって、かつ質問まで考えてくださった皆さまには厚く御礼申し上げます。質問を考えるのって、相当に手間と時間がかかります。そのためにお時間を割いてくださって、ありがとうございます。

 

習い事が心配になるというのは、ある意味でとても幸せなことかと思います。障害児向けのプログラムに参加するにしろ、定型発達のお子さん向けのプログラムに参加するにしろ、ある程度の思考力や判断力、コミュニケーション能力がなければ、習い事をさせようとは思いつかないからです。

 

たとえば、発達障害の度合いの重い子は、外界とのアクセスに乏しそうに、つまらなそうに見えることがあります(彼ら/彼女らなりに楽しんでいるのかもしれないので、あくまで外部からそう見えるだけですが)。

 

せっかく生まれてきたのだから、少しでも人生が楽しくなるといいと思って、看護師さんが必死に食事のおいしさ、楽しさを伝えようとしている場面に遭遇したことがあります。その子の人生はきっと食事によって、より彩りを増したことと思います。それが習い事ともなれば、人生の可能性や選択肢はもっと広がることでしょう。

 

定型発達の子に比べると、どうしてもできることが少なくなってしまったり、制限がかかってしまったりする自閉症の子たちですから、機会を捉えて夢中になったり、打ち込んだりできる趣味やアクティビティを見つけるのは、とても価値のあることだと思います。

 

それから、身も蓋もなく聞こえるかもしれませんが、習い事のあいだ、お子さんを誰かに預けておけるというのも、見逃せない効用かと思います。発達障害の子の相手をするのは、生半可ではありません。

 

私は情報技術が専門なので、職業柄SNSなどをよく観察しますが、病気の人の家族がふつうに暮らしているといって叩かれているツイートを見かけます。そりゃあ、見舞客は泣けるでしょうし、胸が詰まって食事が取れなくても問題ないでしょう。彼らには帰って行くべき平穏な日常があります。でも、看病に立ち向かう家族は泣いてばかりもいられませんし、きちんと食事もしなければ看病を続けることすらできません。

 

発達障害の親も同様で、わが子可愛さばかりで何年も身体が保つものではありません。障害の重さなどにかかわらず、一人になる時間は絶対的に重要です。デイサービスなどの施策は10年前とは比べものにならないほど充実しましたが、いまだ全員が享受できるサービスではなく、そうしたサービスに子どもを預けることに罪悪感を覚える親御さんもおられます。

 

その中で、「習い事に行っているあいだ」は貴重な「一人の時間」になるかもしれません。金銭的な負担はありますし、結局心配でアテンドしたりして全然休まらなかったりもしますが、親にとっても日常のルーティンから抜けて、違う景色を見、異なる時間を持つことはだいじだと思います。子どものできることが少し増えただけでも、0歳児のころの育児の新鮮さにまた触れたような喜びがあります。

 

このような背景を持つからこそ、自閉症の子の習い事は、本当に好きなことをさせてあげたいなあと思います。習い事をする理由は色々あって、学生などを見ていても、なんだかんだ言って勉強や内申書の役に立つものだったり、将来お金を得られそうなものだったり、異性とたくさん巡り会えそうなものだったりと、本当に様々な動機がその選択の陰に存在します。

 

どんな理由で選んだっていいと思うのですが、将来に向かって戦略的に選ぶというよりは、いま楽しめるもののほうが、笑顔の時間が増えたり、自信がついたりといった、自閉症児にとって喫緊の課題に対する効果が大きそうです。焦って、あまり好きでないものを押しつけてしまうよりは、時間がかかっても本人がしっくりくるものを見つけられるといいなあと思います。

 

私の子はギターを習っていて、なかなか上手です。言葉が苦手で、歌わせるとジャイアンリサイタルみたいになるので、それは慎重に回避しなければなりません。私は楽器はからっきしで、DTM(コンピュータによる自動演奏)とVOCALOIDばかりやってきたので、私より上手なものができて嬉しそうです。

 

プログラミングは私自身が教えて、だいぶ上達しました。まだ、私よりは下手ですが。

 

以前の記事にも書いたように、自閉症の子とプログラミング技術の親和性は高そうなので、本当は自分が関わっているプログラミング教室で自閉症クラスが開講できたらなあと願っています。

 

ただ、これには弊害があって、たいていの子ども向けプログラミング教室のカリキュラムでは、導入部でゲーム的なツールを用います。飽きやすい子の関心を得るためです。自閉症の子はただでさえ常同性を帯びやすいので、ここで引っかかって変なはまり方をすると、何時間でもやり続けてしまう子に仕上がってしまうことがあります。

 

超大作のRPGなどは、エンディングを見るまで数十時間かかることも珍しくありませんが、私自身も一度プレイを始めるとエンディングまでは一切の食べ物を口にしない子でした。そうはしたくないんですよね。

 

なので、是非実施してみたいと思いつつ、いまだ実現させられずにいます。近いうちに、実験的なものをやってみたいです。

 

発達障害に関する読者の皆さんのご質問に岡嶋先生がお答えします
下記よりお送りください。

 

大学の先生、発達障害の子を育てる

岡嶋裕史(おかじまゆうし)

1972年東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。富士総合研究所勤務、関東学院大学准教授・情報科学センター所長を経て、現在、中央大学国際情報学部教授、学部長補佐。『ジオン軍の失敗』(アフタヌーン新書)、『ポスト・モバイル』(新潮新書)、『ハッカーの手口』(PHP新書)、『数式を使わないデータマイニング入門』『アップル、グーグル、マイクロソフト』『個人情報ダダ漏れです!』(以上、光文社新書)など著書多数。
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