黙読派か? 音読派か?
岡嶋裕史『大学教授、発達障害の子を育てる』

 

ガンダムの偽歴史書を書いたことがある。

 

解説書のたぐいはさんざ出版されているコンテンツなので、単に技術解説を書いたりしてもつまらないと思って偽歴史書にしたのだ。

 

ガンダムは歴史絵巻だが、人気があるのは宇宙世紀0079~0105年あたりの話である。だから、宇宙世紀0200年くらいから過去を振り返ったていで書き起こした。そうすると、たとえば設定がそこまで考えられていない箇所は、「なにぶん旧い紛争であるし、当時の記録を収めた資料も散逸が激しく定説をみない」などとやれるし、「わずかに残存している映像資料(アニメのことだ)を確認すると……」と書ける。あれは楽しい仕事だった。

 

そのときに、「兵装の数値や登場人物のセリフとか、調べて書くのは大変でしょう」とねぎらってもらった。でも、すみません、ほぼ暗記してるので、あまり資料を見ていません(校正のときは確認するけど)。だから、気遣ってもらうほどには、手間がかかっていなかったりする。

 

じゃあ、入試のときなんかは楽ができたでしょうと言われると、そうでもない。単純暗記は得意だけど、思考力を試される問題はちゃんと練習して鍛えなければならないからだ。この傾向は自閉スペクトラムの子にはわりと敷衍できるのかなと思っている。

 

高機能型の(知的障害のない)自閉症スペクトラム障害のお子さんは、かなり大学入試を突破する。たぶん、幼稚園や小学校で療育の現場にかかわる人の想定を超えてそうである。

 

ただ、(ここから先は、超個人的な印象です。エビデンスがあるわけでもありません)突破できる入試区分に偏りがあるように思う。入試区分によって(同じ大学でも)記憶力を試される割合が高かったり、思考力を試される割合が高かったりする。記憶力を試される割合の高い入試区分は突破しやすいと思うのだ。

 

自閉スペクトラムの子が大学受験をする場合は、学力指標だけでなく、入試区分別にどんな力が試されるかもよく考えるといいかもしれない。もちろん、むやみに進学を進めているわけではない。入学したあとは思考力の発揮を要求されるので、本人が困ることがあるし、自分にあった環境に身を置くのが一番だと思う。

 

ぼくは艦艇のスペックや映画のセリフを覚えるときに黙読するタイプだったけれども、ぼくの子は読み上げないと記憶ができないタイプである。そもそも、「この子は一生発語がないのか?」と危ぶまれる子だったので、しゃべってくれてるだけで御の字だしありがたいのだが、慣れてくると有難みも薄れてうるさく感じるようになってくる。

 

ぼく自身が好きなので海軍艦艇や艦上機のスペックを読み上げられるぶんには別にいいのだ(よくないけど)。なんなら自分の復習になるくらいの心持ちである。でも、映画のセリフをいちいちリピートされるとだいぶうるさい。

 

「黙読とかさ、やれるようになったほうがいいよ。間違えて外でやると、周りのひとに悪いし、場合によっては事案になるよ」
「……」

 

 いちおう本人も努力しようとは思うらしいのだが、長くは続かずまた読み上げが戻ってくる。

 

「金星62型、20mm機関砲2門、13mm機銃2門……」ぶっそうだなおい。それが、零戦の54型だとピンときて生暖かく見守ってくれる人は決して多くない。あと、海軍は20mmでも機関砲じゃなくて機銃って言うぞ。

 

「君を確実に破滅させることができれば、公共の利益のために、僕は喜んで死を受け入れよう」ホームズは嫌いじゃないけど、電車のなかとかで言わないほうがいい。

 

そんなわけで、リビングはいつも危険なセリフで満ちている。いくらふたごの片割れといっても、姉もつらいだろうと思って「防音壁でもつくる?」と聞いたら、「あのままの弟が好きだから、べつに今のままでいいよ」と言われた。

 

おー、姉弟の絆ってすごいなと感激したが、その優しさが1/1000でもいいから父に向けばいいのにとも思った。

 

 

発達障害に関する読者の皆さんのご質問に岡嶋先生がお答えします。
下記よりお送りください。

 

大学の先生、発達障害の子を育てる

岡嶋裕史(おかじまゆうし)

1972年東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。富士総合研究所勤務、関東学院大学准教授・情報科学センター所長を経て、現在、中央大学国際情報学部教授、学部長補佐。『ジオン軍の失敗』(アフタヌーン新書)、『ポスト・モバイル』(新潮新書)、『ハッカーの手口』(PHP新書)、『数式を使わないデータマイニング入門』『アップル、グーグル、マイクロソフト』『個人情報ダダ漏れです!』(以上、光文社新書)など著書多数。
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