家にあるもので、ちょっといいおにぎりたちを
細川芙美『#深夜のひとりじめ飯』

episode2
マキ(会社員・28歳)の「#ひとりじめ飯」

17時。雨が降っている。休みの日だというのにじめじめとして湿気のせいで外に出るのが億劫だった。次回更新で6年目を迎える1DKのこのマンションも、たぶんこの雨続きの週末を疎ましく思っていると思う。窓をつたう雫をぼーっと見るだけで時間は過ぎていく。

 

19時。急に今日が日曜で、明日は仕事だという現実を思い出してしまった。丸1日引きこもりっぱなしで十分寝たし、体力もめちゃくちゃ残ってるはずなのに雨のせいで動きたくない。今日、夕飯はどうしようか。今家を出れば、近所のスーパーがやっている時間にギリギリ間に合うのに。

 

22時。結局、外には出なかった。空気も気分もじめっとした日曜日。どうにかして自分のテンションをあげなければと重い腰を上げ、キッチンへ向かう。何かサクッとでもお腹に入れないとダメだ、元気が出ない。

 

「冷蔵庫、なんかあったっけな」小さくても使いやすいこの1人暮らし用の冷蔵庫を私はとても気に入っていた。料理は君がいないと始まらないからね。相棒の中をゴソゴソとさぐると、瓶に入った冷たいラタトゥイユが出てきた。そっか、金曜日に作りおきしといたんだっけ。相棒、ラタトゥイユの作りおきをストックしておくなんて、なかなかやるじゃないか!

 

23時。見てみたら意外と調子のよかった冷蔵庫を自画自賛しつつ、やっとキッチンに立とうと思った。こんな雨の日だからこそ、こんな時間だからこそ、いつもよりもかわいいものを作ってテンションを上げたい。どんよりした雨の空気感をかっ飛ばせるようなカラフルな料理を。簡単でめいっぱい満足できるものを。そうだ、お米を炊いたら、気分が上がるかも。具材もあるし、おにぎりにしよう。炊きたてごはんの香りのことを想像すると、口の中がよだれであふれた。

 

冷蔵庫には分厚めのベーコンが残っていた。1cmくらいの角切りにし、フライパンでカリカリに焼いていく。サラダ油を入れずにベーコンから出た油だけで炒めると、ベーコンの香ばしさが一気に出る。ピンク色のベーコンには緑色を添えたい。優しい緑色が入ると色とりどりになるし、緑はないとやっぱり寂しいから。冷凍庫を開けると、やっぱりあった! 使いやすい冷凍のグリーンピースはここぞというときに便利だよね。豆皿1つ分くらいのグリーンピースを出しておく。

 

あれ、コーン缶もなかったっけか。棚をゴソゴソと漁ると、ああやっぱり! 王道のバターコーンおにぎりにすることを瞬時に思いつくと、窓際で育てていたパセリをひとちぎり。みじん切りにしてごはんが炊けるのをそわそわと待つ。買い出しに行ってない割には、なかなか調子のいいメンツが我が家には揃っていたな。早く、早くごはん炊けないかな。

 

「ピー」と鳴った炊飯器の蓋を即座に開ける。ふわっとした香りとあったかい湯気が顔を覆って、一気に気分が高揚した。さて、準備は整った。贅沢な3種のおにぎりを作ってやろうじゃないか!

 

まずはラタトゥイユのおにぎりの土台から。おにぎりひとつ分の白米をボウルに移して塩と黒胡椒をふる。全体を混ぜたら、四角い型に押し込んで正方形に型取った。大きめのスプーンの上に作りおきのラタトゥイユを乗せてかたちをつくっておき、そっとスプーンを抜き取る。うん、いいバランスでごはんに乗せられた。

 

次に、グリーンピースとベーコン、ごはんを混ぜる。楕円型の型に入れて型取ると、「あ、やっぱりかわいい!」 これ、残ったグリーンピースとベーコンの具を上からかけたらかわいいんじゃない? 素晴らしい思いつきに徐々に自分のテンションが上がっていくのを感じながら、ピンクと緑のその具材たちをどさっとおにぎりの上に雪崩させる。

 

最後にコーンバターのおにぎり。ボウルに白米と軽く水気を切ったコーン、バターをひとかけ入れて混ぜる。暖かい白米の温度でしゅわ~っとバターが溶けていく瞬間はいつ見てもたまんない。みじん切りにしたイタリアンパセリと塩、白胡椒を少々も入れて混ぜ、丸い形に型取ったおにぎりに。これも上からコーンをどっさりかけちゃおう。

 

トマトときゅうり、セロリのピクルスが冷蔵庫にあったことを思い出し、お皿に添えた。仕上げにコーンおにぎりの上にみじん切りのパセリを。ラタトゥイユおにぎりの上にはイタリアンパセリをひとちぎり乗せた。うん、買い出しに行ってないのに、なかなかいいもん作れたんじゃない? すかさず、スマホで写真を撮り、Instagramにアップした。

 

 

ラタトゥイユは冷えたあともうまい。より一層、野菜のうまみを感じた。この作りおきが冷蔵庫になきゃ、始まらなかったもんね。鮮やかなベーコンとグリーンピースのおにぎりは、ベーコンの香ばしさに黒胡椒が効いている。厚切りベーコンも肉々しくて合格! そして、やっぱりコーンとバターの王道の組み合わせはやっぱり私を裏切らなかったなあ。最後に雪崩のようにどさっと具材を乗せたことで、3種の具材がお皿の上で混ざり合い、味の変化も楽しめる。プレートの上で混ざり合うのもまたいいよね。

 

ラタトゥイユづくし、ベーコンづくし、コーンづくし…。贅沢なおにぎりを堪能しているうちに、「明日もがんばるか」と前向きな気分になっていた。憂鬱だった日曜日のラストを飾った私だけの「#ひとりじめ飯」。私はひとり、満足している。外を見ると、雨が上がっていた。

#深夜のひとりじめ飯

撮影/細川芙美  文/宮本香菜

細川芙美
調理師学校卒業後、フレンチレストラン、料理家のアシスタント、料理教室などを経て、2015年に独立。フードデザイナーとして、木箱をつかった標本型のケータリングや、星替わりのロケ弁などを「collection humi hosokawa」の名で展開。その他、石垣島の食材を使ったアンテナレストラン「離島24°」のメニュー監修、スタイルブレッドの新ブランド‎Pan&(パンド)のパンに合うレシピの監修などを行う。
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