二次元女子と結婚する権利【第7回】岡嶋裕史
岡嶋裕史『インターネットの腐海は浄化できるのか?』

かつてインターネットがユートピアのように語られた時代があった。そこは誰もが公平に扱われ、対等な立場で建設的な議論ができる場のはずだった。しかし現在、そんな戯言を信じる者はいない。ネットは日々至る所で炎上し、人を騙そうという輩が跋扈し、嘘の情報であふれている。黎明期から知る人間は誰もが思うはずだ、「こんなはずではなかった……」。ネットはいつから汚染された掃き溜めのような場所になってしまったのか? それとも、そもそも人間が作り、人間が関わる以上、こうなることは約束されていたのか? 黎明期からネットの世界にどっぷりハマってきた、情報セキュリティの専門家である中央大学国際情報学部開設準備室副室長の岡嶋裕史氏が、ネットの現在と未来を多角的に分析・解説する。

 

 

こう話すと、必ず「オタクはリアル女子に相手にされないから、二次元女子に逃げ込んで大変だね」と同情される。

 

しかし、そうではないのだ。リアル女子に相手にされないのは間違いないのだが、オルタナティブとして二次元女子が好きなのではない。仮に「リアル女子と二次元女子、どちらともお付き合いできますよ?」などという状況が生じたとしても、迷わず二次元女子を選ぶのがオタクである。二次元女子は代替物ではない。単に二次元女子の方が好きなのだ。

 

堅気の人にはちょっと理解しがたい感情かもしれないが、たとえば『マトリックス』(古い映画で恐縮である)という作品があった。

 

ものすごくざっくり言えば、『マトリックス』は電脳世界(二次元の楽園だ)に接続された人間がシステムに搾取されていて、主人公のネオ(キアヌ・リーブス。やせてた頃で超かっこいい)がそれを救いに(起こしに)くるお話である。

 

もちろん、ネオは救世主として描かれているのだが、映画館で鑑賞していた私は、冗談じゃないぞと思った。だって電脳世界、超たのしそうなのだ。搾取されたっていいじゃん。システムに支配されてまどろみながら、桃源郷で遊んでいる方がずっといい。ネオは何を勘違いして、幸せな夢を邪魔しに来るのか。苦難に満ちた現実に戻って、何かいいことでもあるのか。

 

そう主張すると、気の毒そうな目で「ファンタジーに浸って生きていけるのは、若いうちだけだよ」と諭してくれる親切な人まで現れることがあるが、そうなのだろうか。そもそも私は、初老になった今も二次元女子しか好きではないし、いい歳をしたおじさんが「日本のものづくりは素晴らしい」といったファンタジーに浸っているのをよく見かけるが、あまり批判されている気配はない。たぶんファンタジーの種類の問題なのだろう。

 

二次元女子との間には子供が作れないから、社会に貢献できないよ、という文脈で諭してくる人もいる。まあ、確かにそうなのだが、いまLGBTの人にそんなことを言ったら大変なことになるだろう(実際に大変なことになった。この元原稿は、杉田水脈氏の騒動のだいぶ前に書いた)。そういえば、私が子供のころには、LGBTの人はさんざんなことを言われていた。オタクもあと30年もすれば、二次元女子と恋愛したり結婚したりする権利を得られるかもしれない。

インターネットの腐海は浄化できるのか?

岡嶋裕史(おかじまゆうし)

1972年東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。富士総合研究所勤務、関東学院大学准教授・情報科学センター所長を経て、現在、中央大学国際情報学部教授、学部長補佐。『ジオン軍の失敗』(アフタヌーン新書)、『ポスト・モバイル』(新潮新書)、『ハッカーの手口』(PHP新書)、『数式を使わないデータマイニング入門』『アップル、グーグル、マイクロソフト』『個人情報ダダ漏れです!』(以上、光文社新書)など著書多数。
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