誰も「個性的なアイドル」など求めていない【第10回】岡嶋裕史
岡嶋裕史『インターネットの腐海は浄化できるのか?』

かつてインターネットがユートピアのように語られた時代があった。そこは誰もが公平に扱われ、対等な立場で建設的な議論ができる場のはずだった。しかし現在、そんな戯言を信じる者はいない。ネットは日々至る所で炎上し、人を騙そうという輩が跋扈し、嘘の情報であふれている。黎明期から知る人間は誰もが思うはずだ、「こんなはずではなかった……」。ネットはいつから汚染された掃き溜めのような場所になってしまったのか? それとも、そもそも人間が作り、人間が関わる以上、こうなることは約束されていたのか? 黎明期からネットの世界にどっぷりハマってきた、情報セキュリティの専門家である中央大学国際情報学部開設準備室副室長の岡嶋裕史氏が、ネットの現在と未来を多角的に分析・解説する。

 

 

アイドルも近いうちに二次元キャラクタで実装できるようになるだろう。

 

萌芽は以前からあった。

 

たとえば、1989年の1年間を支配したユニット「Wink」は、二次元的な意匠に満ちていた。陰影を付けないメイク、極端に抑えられた表情、喋らないキャラクタ。

 

特徴点を抽出した二次元的なデザインはわかりやすく、感情に訴求しやすいのは先に示したとおりだが、アイドルとはそもそも自分の妄想を載せる器である。であるならば、器はできるだけ無色透明で色がついていない方がいい。

 

Winkは生身の人間が演じることができるぎりぎりのラインを狙ったユニットだった。その方向性を突き詰めていくのであれば、あとは本物の二次元キャラにするしかない。実際、Winkに続く時期にホリプロは、伊達杏子という仮想アイドルをデビューさせている。

 

個性的なアイドル、というのはテンプレートとしての、妄想の基盤としての個性のことを言っているのであって、本物の個性など誰も求めていない。入社試験で「個性と多様性を求める」という企業が、本当に個性的な人物を取りはしないのと同じ理屈である。

 

リアルな人間は、どんなに身辺をクリーニングしても、どこかには妄想を台無しにするような過去や要素を持っているし、加齢や引退、業務ドメインの変更もある。その点、二次元キャラは、いつでも同じパフォーマンスを発揮し、世界観を崩す要素は少なく、経年変化も最小限に抑えることができる。

インターネットの腐海は浄化できるのか?

岡嶋裕史(おかじまゆうし)

1972年東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。富士総合研究所勤務、関東学院大学准教授・情報科学センター所長を経て、現在、中央大学国際情報学部教授、学部長補佐。『ジオン軍の失敗』(アフタヌーン新書)、『ポスト・モバイル』(新潮新書)、『ハッカーの手口』(PHP新書)、『数式を使わないデータマイニング入門』『アップル、グーグル、マイクロソフト』『個人情報ダダ漏れです!』(以上、光文社新書)など著書多数。
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