従わない者には制裁! ジャマイカのいびつな平等主義【第4回】丸山ゴンザレス
丸山ゴンザレス『世界の危険思想~ヤバイ奴らの頭の中~』

bw_manami

2019/02/04

スラムの子どももこのぐらいの年齢までは可愛い。

 

スラムは安全で住みやすい

 

今回は、“スラム街に暮らす人々”が何を考えているのか、頭の中に迫ってみたい。

 

まず、前提として、よくある誤解を解いておきたい。スラム=危険地帯と思う人がいるのだが(もちろん危ない部分もなくはない)、スラムは決して危険なだけの場所ではない。そこでは普通の人々の暮らしがある。

 

「大都市部で形成される低所得者層の密集住宅地で、不法占拠によって生まれることがある」とかは、わりとしっかりとしたスラムの定義になるのだろうが、私は「貧しい人たちや、問題のある人達が密集して住んでいるエリア」ぐらいに考えている。細かな定義などは、多くの人達が集まって暮らすことで生まれる圧倒的な存在感の前にはどうでもいいことだと思っている。枠組みをどう定義するのかよりも、むしろそういった場所に暮らしている人たちの現状を知りたいだけだからだ。

 

話を戻すと、「スラムは危なくない」という私の主張の根底にあるのは、「スラムが暮らしの営まれている場所である」という事実だ。スラムには、家族を最小の単位として、それより大きな単位としてコミュニティ(共同体)がある。日本のように核家族や一人暮らしが一般化しているほうが珍しいと思う。

 

大きなコミュニティが維持されるということは、水道や電気など行政が主導するライフラインのほか治安もある程度は確保されていることになる。そのため、取材で住人に対して「ここは安全ですか?」や「住みやすいですか?」などと問いかけても、「安全で住みやすい」と返事される。

 

「でも、スラムって犯罪が起きるよね?」

 

そんな疑問を抱く人もいるだろう。それは間違ってはいない。さきほどの回答には「ただし」で始まる続きがあるのだ。たとえば東南アジアやアフリカのスラムでは、「住人だったら(襲われない)」や「昼間だったら(大丈夫)」という条件が加わる。

 

襲う側は近所の住人を相手にしない。金が無いこともあるし、あとから復讐されないとも限らない。また、安全なのが昼間に限定されるのも、夜になるとスラムに出入りしている、よそ者が入り込んでくるからだ。スラムの住人ばかりが犯罪をするわけではないという意味が含まれている。

 

限定的ではあるが、ある程度の治安が確保されているのがスラムなのだ。暮らしがあるということは、そこにルールが存在しているということだ。明文化されていないルールは、人々の習慣として基本的な考え方にかなり強く根ざしていることが多い。

 

スラムのルール:富の再分配

 

こうした住環境は、どこのスラムでも似ていることが多い。そのせいだろうが、共通していたり、どこでも見受けられる考え方がある。それは、「富の再分配」がもたらす平等主義という考え方だ。簡単に言えば「ジャイアンの思想」のアレンジである。

 

一応説明すると、ジャイアンは立ち位置としては番長。自分のものだけじゃなく、周りの人の持ち物も所有物にしてしまう。それだとスラムライフでは角が立つので、「お前のものは俺のもの、俺のものは俺のもの。だけど、それだと君が怒るから、少しは俺のものあげるよ」といった感じにアレンジされるのだ。

 

私がジャマイカを取材で遭遇したのは、まさにこの考え方だった。

 

スラムで道案内を頼んだ住人に謝礼を渡した。それまで案内を頼んでもいないほかの住人がぞろぞろと着いてくることがうっとうしかったのだが、案内人は取り巻いている住人たちに酒を奢りだした。はじめはその意味がわからなかったのだが、自分がお金をもらったので、「みなさんもどうぞ」的な意識が働いているようだった。

 

このことを在住歴の長い友人に確認したところ、「ジャマイカではよくある習慣」と教えられた。彼らは総じて貧しく、普段から助け合いの精神が当たり前にあって、意識することもないぐらいだという。外出用に使える一枚のシャツを共有したりするほどだ。

 

そのため、収入があったら、お金を持っている人が持っていない人に何かを買ってあげたり、ご馳走するのが当たり前なのだ。

 

トレンチタウンというスラムの風景。

 

遺産で贅沢をした男が受けた”処罰”

 

一見すると理想的な助け合いのある関係性に思える。だが、ここに落とし穴がある。

 

当たり前のことを実行しないやつは、コミュニティから爪弾きにされるのだ。スラムに長く住んでいるある外国人がいた。もちろん、この習慣は知っていたし、住人たちに助けられて暮らしていた。ある日、その外国人のもとに本国の親戚の遺産が転がり込んだ。するとその人は、コミュニティに還元することなく、自分の家の家具を新しくしたり、自分の贅沢をすることにだけ浪費した。結果、その家は集団強盗に襲われることになった。犯人は地域住人である。

 

どうしても自分だけで使いたかったなら、遺産をもらった時点で、せめて引っ越すべきだった。同じ地域にとどまっていたら、このような結末は火を見るより明らかだ、と友人は教えてくれた。

 

成功したジャマイカのアーティストがたいていアメリカに移住するのは、こうした習慣がうっとうしいから、などこの国の「平等主義」にまつわるいろんな話を聞く。いずれにせよ底辺なりの助け合いに見える習慣もちょっと視点を変えるだけで、裏切りを許さない危険な考え方にもなりうるということなのだ。

世界危険思想

丸山ゴンザレス(まるやま・ごんざれす)

1977年、宮城県生まれ。考古学者崩れのジャーナリスト・編集者。無職、日雇労働、出版社勤務を経て、独立。著書に『アジア「罰当たり」旅行』(彩図社)、『世界の混沌を歩くダークツーリスト』(講談社)などがある。人気番組「クレイジージャーニー」(TBS系)に危険地帯ジャーナリストとして出演中。
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