裏社会コミュニティの人たち<後編>【第7回】丸山ゴンザレス
丸山ゴンザレス『世界の危険思想~ヤバイ奴らの頭の中~』

bw_manami

2019/02/25

犯罪者を一斉摘発する作戦中の軍隊。

 

裏社会流・忠誠心の植え付け方

前回は、裏社会に共通する考え方として、「縄張り」「ボスへの忠誠(裏切りの禁止)」「アンチ警察」があり、「縄張り」について述べた。今回は残り2つについて説明しよう。

 

まず、「ボスへの忠誠(裏切りの禁止)」についてだ。これは、縄張り意識よりもっと内向きに対する考え方である。ドメスティックでセンシティブでデンジャラスである。カタカナ英語でごまかしている感はあるのだが、つまり、とにかく面倒で危ない考え方なのだ。そのあたりの説明を兼ねて、悪い奴らがどのように考えているのかを紹介しよう。

 

忠誠心であり、裏切りの禁止。これは表裏の関係である。裏切られないような関係性は、そのまま忠誠心のある上下関係になるからだ。

 

どんな組織でも忠誠心の植え付け方はふた通りある。ゆっくり植え付けるか、強烈に植え付けるかだ。

 

ゆっくりのほうは、「餌付け」である。スラムで仕事にも就けず、学校にも行けない子どもたちのなかで、見どころがありそうな奴らに食事や仕事を世話する。仕事といってもちょっとした小間使い程度である。タバコを買ってくるとか、飲み物を買いに走るとか、少し大きな子になるとメッセンジャーぐらいのことはするだろう。そうした労働の対価にお金が支払われる。徐々に仕事のランクも上がっていき、兵士(ソルジャー)になっていく。 

 

女性による男の操縦法ではないが、胃袋と巾着袋(財布)を掴まれると、人間は「大変お世話になった相手。恩人」と認識する。そのため、その人=ボスの支配下に入ってしまうのだ。幼少期から思春期に至るまで長い時間をかけて餌付けされたことで、ボスに対して絶対の忠誠を示すようになる。

 

よく誤解されるのだが、ギャングとマフィアは重なるところもあるが根本的に違う。アメリカではイタリア系の移民により組織されている。マフィアのメンバーは表立って顔を晒すようなことはなく、秘密結社的なところがある。入会するのも簡単ではなく、血筋を重視して、選ばれたものだけが受けられる入会の儀式がある。一方、スラム街を仕切るようなギャングは不良やアウトローの要素が強く、徒党を組んで人数も多い。入会の儀式めいたものがあるところもあるが、子供の頃から出入りしていていれば自然と組織のメンバーとなっている。本人たちには選択肢があるようでない。ある意味、体育会系な感じである。それがギャングは縦社会なのである。

 

無数の弾痕。ちなみにほとんどが貫通していた。

 
話を戻す。忠誠心を強烈に植え付けさせるには、決して裏切らせないような通過儀礼を経験させる。具体的には殺人やその手伝いである。単独ではなく組織の先輩が手伝ったり、若手のグループで実行させる。とどめを刺させたり、遺体の処理を手伝わせることで共犯意識を生み出し、裏切りを防止するのだ。特にこの殺人が組織の裏切り者に対しておこなわれたときには、「裏切ったらこうなる」という現実を突きつけ、恐怖心を植え付けることになる。この恐怖による支配は、日本のヤクザも殺人ではなくリンチや犯罪行為などで同じ手法をとることが多いので、裏社会的にはポピュラーなやり方だと思っていただいていいだろう。

 

組織が警察より力を持ったら

最後の「アンチ警察」だが、これは完全に共通しているというよりも、比較的そういうところが多い、というのにとどまる。というのも警察そのものが裏社会に近かったり、権力を握っていたりすることがあるからだ。

 

警察との力関係は裏社会の発展段階に比例する。小規模な集団が組織化していき組織が結びついて大きな連合体になる。こうした裏社会の成長が起きるのは資本主義経済の国においてだ。こうした国だと組織が大きくなると警察との結びつきが強くなっていく傾向にある。やがて政府の力が強くなると裏社会が一斉に取り締まられる。日本はこの段階にあると筆者は見ている。

 

独裁国家や軍事国家では、警察権力や軍の力が強すぎて、裏社会的な勢力は極めて脆弱。アンダーグラウンド・マーケットのブローカー的な連中が大半になってくる。そうなると政府側の組織の一部は、警察が主体となって裏社会的な機能を果たすようになるのだ。ギャング的な連中は警察の下働きの扱いになる。

 

さて、本稿で紹介しているようなスラムを根城にするギャングは、おおむね資本主義国の小規模なギャング集団である。彼らは力のないときは、警察を避けて活動する。警察の力が強いケニアで出会った強盗団のメンバーは「警察が嫌いだけど、やつらは権力があるので逆らえない」と言っていた。日本でも警察と敵対するようなことはない。警察の力が強い段階にあるからだが、内心では「邪魔だ」と思っている。

 

では、警察より力をつけた裏社会が生まれた場合はどうなるのか。それがメキシコ麻薬戦争だったり、ブラジルのファベイラにいるギャングたちである。彼らは警察を恐れない。自分たちの武装と人数と組織力に絶対の自信を持っているからだ。

 

警察が犯罪者から押収した銃。殺傷力が高い種類。

 

ブラジルでは組織の仕事(=殺人)を請け負うと、組織から報酬が出る。ターゲットに応じて支払われるのだが、警察については1リアルも出ない。

 

「警察を殺すことは当然のことだから」。そういうことらしい。このようにどの段階にあるにせよ、裏社会と警察というのは、最終的には相容れない。日本でも、第二次世界大戦後の闇市でヤクザと警察が共闘関係にあったという闇の歴史がある。ある時期共闘関係があったとしても、最終的に相容れないのは、現代日本のヤクザと警察の関係を見ればあきらかだろう。矛盾と非論理的な関係性を繰り返したりするのも現実として起こりうるのだ。

 

裏社会を見る側も、頭の中を論理的にしてしまうと、混乱してしまう。犯罪を生業とする連中や、そこで起きていることは、それほど非論理的なのだ。

 

最後にこうした裏社会でありがちなことだが、もっとも恐ろしいのは、彼らが思考停止状態にあることだろう。「なぜ争っているのかわからない。上の世代が争っていたから自分たちも抗争する」。ロサンゼルスのフロレンシア13というグループに所属していたギャングが言っていたことだ。

 

彼らの行動原理の根本を探っていくと、このように「なにもない」ということも珍しくない。そのこと事態、彼ら自身が一番良くわかっている。だから、そこを深く追求することはしないのだ。そうなると現状を打破するとか、ギャングの一掃など簡単にできることではないというのがよくわかるだろう。当事者たちですらわかっていないのだから。

世界危険思想

丸山ゴンザレス(まるやま・ごんざれす)

1977年、宮城県生まれ。考古学者崩れのジャーナリスト・編集者。無職、日雇労働、出版社勤務を経て、独立。著書に『アジア「罰当たり」旅行』(彩図社)、『世界の混沌を歩くダークツーリスト』(講談社)などがある。人気番組「クレイジージャーニー」(TBS系)に危険地帯ジャーナリストとして出演中。
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