シリア難民の集まる国境沿いにあった売春街(前編)【書籍発売記念特別公開】丸山ゴンザレス
丸山ゴンザレス『世界の危険思想~ヤバイ奴らの頭の中~』

殺人犯、殺し屋、強盗、武器商人、マフィア……。世界には、様々な「悪いやつら」が確かに存在する。仕事だから作業のように人を殺す。縄張りに入った奴はすべて排除する。一般的に言われる「常識」とは相容れない生活を続ける彼らの頭の中とは、一体どうなっているのだろうか? そんな疑問に、日本や海外の裏社会、スラム街などの危険地帯を10年以上取材し続けてきたジャーナリスト・丸山ゴンザレス氏が迫ってきた当サイトでの連載が、さらに新たな「危険思想」エピソードを加え、光文社新書『世界の危険思想~悪いやつらの頭の中~』として2019年5月に出版されました! それを記念して、加筆部分の一部を特別公開。まだ私たちの知らない世界との出会いがここにあります。

 

 

売春を取材する理由

 

世界の人たちの考えていることや頭の中にあるヤバイことを集めていくなかで、わりと簡単に集まるだろうと思っていたのが性にまつわることだ。

 

「人の性は悪だ」

 

私の愛読する漫画『軍鶏』(シャモ)の主人公・鳴嶋亮(親殺しの殺人犯)が、少年院でほかの少年たちにレイプされた際、モノローグとして描かれた言葉で、私のなかでずっと引っかかっていた。

 

この言葉に集約されるように、セックスとは深く相手を傷つける凶器になる。その一方で人が人として子孫をつなぐための“聖なる”営みでもある。

 

セックスは多面体。見方、使い方によって様々な顔を見せてくれるということなのだ。

 

そこには、性をビジネスにする人もいれば、日本人のセックス常識とはかけ離れたものもある。なかには、『軍鶏』の例ではないが、「やべえな! おい!」と言いたくなるようなこともある。

 

ここからは、性にまつわる世界の人たちの危ない考え方について紹介していきたい。

 

一般的には、食欲、睡眠欲、性欲が「人間の三大欲求」とされている。このなかで、事件、トラブルに発展する可能性を孕んでいるのが性欲なのだと思う。

 

人間が生きるために必要な欲求ではあるが、性欲はもっともビジネスになりやすい。ビジネスとしての目線でセックスを見ると、えげつないものが見えてくる。

 

私が海外を取材する際に必ずチェックするのが、ドラッグ、そして売春である。売春はその土地の裏社会を見るためには欠かすことのできない要素だからだ。

 

売春にも種類がある。

 

世界には売春が合法化されている国や地域がある。そういったところでは業者は税金を納めているし、管理売春が徹底されている。

 

一方でグレーゾーンに置かれている国もある。法律的に売春は禁止されているが、それを素人同士の恋愛として処理する。店はあくまで場所を提供しているに過ぎないという解釈である。日本はここのカテゴリに入る。大いなる矛盾ではあるが、そうやって成り立っている。

 

社会は存在して現実に稼働している。

 

ちなみに日本人からすると性に開放的なイメージのあるアメリカだが、実は世界でも有数の売春禁止国である。街頭に立つ娼婦は取り締まりの対象だ。

 

例外としてネバダ州だけは合法だが、先ほど述べたような管理された売春が主流。そのため非合法に売春しているグループが摘発されるとセンセーショナルに報道されるし、人身売買としてかなり重い罪となる。

 

私が取材のとき特にチェックするのは、裏社会と関わりの深いイメージがある非合法の売春である。非合法の売春街には多くの情報が集まってくるからだ。

 

まず、そこを仕切っているグループがいるし、そういうところに来る客には面白いネタを持っている人もいるし、彼らの相手をする女の子たちは必然的に事情通になっていく。しかも、売春街が危ないのかといえば、私の感覚ではそんなことはない。

 

売春街を仕切っている連中にしてみれば、女は商品で、買いに来る男は客である。そこで無法者をのさばらせるはずもない。

 

だから私は売春街のことは、「管理された異世界」ぐらいに認識している。もちろん多少の危険もなくはないが、そんなことを言っていたら取材にならない。

 

取材者の目線からすると、メリットはさらにある。女の子と一定時間密室にこもることになれば、いやおうなしに会話が生まれる。そこで情報収集もできるということで、多用する手段になっている。

 

プレイのほうは、年齢を重ねていることや、出演しているテレビ番組への影響を考慮して遠慮することもあるが、金払いだけはケチらないようにしている。「プレイしていないからディスカウントしろ」などとは言ったためしがない。こうした世界に生きる女の子たちを評価するのが金であることを、経験上把握しているからでもある。

 

シリア難民が集まった場所

 

前置きが長くなったが、セックス産業における危険な思想について紹介していこう。

 

まずは2015年に旅したギリシャでのこと。首都・アテネに入ったのは、当時もいまも世界を揺るがせているシリア難民の取材をするためだった。

 

同じくギリシャのレスボス島からアテネに渡ってきた人々は、最終目的地をドイツに定めていた(私の取材ルートも同様に定めた)。経由地となる国々は、自国に留まられないように次の国へとパスさせていく。ギリシャの次はマケドニアだ。その国境までギリシャはバスを仕立てていた。私は、バスの発着場になっているという市内の公園を訪れた。

 

中心部にある公園には多くの難民たちがいた。性別は男のほうが多いが、年齢層はバラバラ。それでも共通したところがある。

 

男たちには性欲があるということ。

 

そのことに気がついたのは、公園での取材にひと区切りをつけて場所を移動しようと思っていたときのことだった。

 

何組かのグループが公園の裏手から奥の道へと向かって動いているのが目に入った。男たちは何かを探している様子だった。気になったのでついていくと、なんの変哲もない路地裏にたどり着いた。それで直感的にわかってしまった。売春街だと。

 

根拠になったのは通りに面したドアの直上に設置されたランプ。それも赤だ。何かのシンボルだとしたら売春宿に違いない。

 

実は事前に売春の情報を集めようとリサーチをかけていたのだが、日本語の情報ではまったくヒットしなかった。

 

その場にいても仕方ないので、何人かのグループが入ったドアを観察して、自分もどこかに入ろうとしたときだった。

 

「#$%&#$%&!!!」

 

多分ギリシャ語なんだろうが、あいにく未習得の言語だったこともあって何を言ってるかわからない。じゃあ、ほかに習得している言語があるのかといえば、そんなことはないのだが、問題はそこではない。叫び声の主が女性で、おまけに裸だったこと。

 

思わず目が釘付けになった。こればかりは男の本能である。仕方がないのだ。

 

ともかく、これでこの場所が売春街であることは確信できた。赤いランプの灯っているドアを適当に選んで入ってみることにした。

世界危険思想

丸山ゴンザレス(まるやま・ごんざれす)

1977年、宮城県生まれ。考古学者崩れのジャーナリスト・編集者。無職、日雇労働、出版社勤務を経て、独立。著書に『アジア「罰当たり」旅行』(彩図社)、『世界の混沌を歩くダークツーリスト』(講談社)などがある。人気番組「クレイジージャーニー」(TBS系)に危険地帯ジャーナリストとして出演中。
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