第12回「ASKAさん」
山口ミルコ『バブル』外伝

BW_machida

2020/12/02

会社を辞め、乳ガンを経て振り返った、自らの会社人生。そのストーリーを軸にして、「バブル」という同時代を駆け抜けた異業種の女性たちの、声にならない声を綴った『バブル』(9月17日発売・光文社刊)。名物編集者だった著者が、本編には書けなかったこと、書かなかったこと、<記憶>のなかの大切な人たち、場所、ことがらについて。

 

 

 

「会社をやめるなんて、ありえない!」
本気でそう思っていた、20代・30代の私。
そして「ありえない!」退社をすることになる40過ぎまで、会社が大好きだった。
「ありえない!」ことは、起こる。「ありえる!」のである。

 

大統領選挙のあとにも、もめ続けているアメリカ。
このさい、国を分けちゃえば?
「そんなのありえない!」
いや、私の退社だってあったのだからありえなくない。
私たちが認めている世界の国境線は、第一次~二次世界大戦によるもの。
たかだか100年くらいのあいだの常識を前提に私たちは日々生きているのであるが、これがいつひっくり返ってもちっともおかしくない。
もしもひっくり返ったら、ものすごくびっくりしちゃうけど、それがまたその後の常識になっていく。
世界にとって何がいちばんいいかは、いつもわからないのである。あとになってみなければ。

 

ASKAさんの最新DVD+CD『ASKA premium ensemble concert -higher ground-2019-2020』が届いたので、このところクルマの中で聴いている。
おととしのちょうど今頃、ASKAさんにインタビューをした。そのもようは婦人公論.jpでいまも読めるのでよかったらどうぞ。

 

『バブル』の「金融ビッグバン」の章に書いたが、平成時代の半ばに、当時C&Aで活動されていたASKAさんと折々ご一緒していた。時は流れ、C&Aお二人はいまそれぞれの道へ。
インタビューはちょうどASKAさんが活動を再開されるタイミングで、オーケストラをバックにした素晴らしいライブの合間におこなわれた。

 

あのときASKAさんは私に、「ありえない!」という感じでこうおっしゃったのである。
「おれね、抗ガン剤をやってこんな元気になったひと見るの、ミルコが初めてだよ」
私は手術・抗ガン剤・放射線・ホルモン剤……というガン治療のフルコース、を受けている。そうした人物に見えないほど元気な私にASKAさんはおどろかれ、再会を喜んでくださった。

 

ガンはオセロみたいだと、ASKAさんはいう。
白だったのが黒に――黒のオセロ……こいつはジャイアンのようだからね、白を黒にどんどん変えていく。「いや、ちょっと待て。白に戻ろうよ」、そんなせめぎあいが白と黒のあいだに起こる。自分のからだって本来は自分でマネジメントできるはずなんだけど、いつのまにか白がぜんぶ黒に変わってしまっている――
ASKAさんがしてくれたその話を、私はことあるごとに思い出すのだが、いったん黒が優勢になっていた自分の体内を、私はこの十年のあいだにまたひっくり返して白にしたんだなと思った。
「ありえない!」は「ありえる!」。
数々の苦難を克服し再始動したASKAさんもまた、「ありえない!」を体現した人だ。その堂々たる証である今回のライブ盤『ASKA premium ensemble ~』を聴きながら、新しい仕事場へ向かう。

 

『バブル外伝』……三カ月にわたり、毎週ありがとうございました。
ここでいったん『バブル』のことは置いて、次の仕事に取り組むことといたします。
『バブル外伝』の続きはもう少し時間が経ってから、また書きたいと思います。  
みなさまに良い「ありえる!」がたくさん起こりますように! ――山口ミルコ

 

バブル
山口ミルコ / 著

illustration:飯田淳

ミルコの『バブル』外伝

山口ミルコ

(やまぐち・みるこ)
1965年東京生まれ。専修大学文学部英文学科卒業後、外資系企業勤務を経て、角川書店雑誌編集部へ。「月刊カドカワ」等の編集に携わる。94年2月、幻冬舎へ。幻冬舎創業期より編集者・プロデューサーとして、芸能から文芸まで幅広い出版活動に従事。書籍編集のほか雑誌の創刊や映画製作に多数かかわり、海外留学旅行社の広報誌の編集長等をつとめた。2009年3月に幻冬舎を退社。フリーランスとなった矢先、乳ガンを発症。その経験をもとに闘病記『毛のない生活』(ミシマ社、2012年)を上梓、作家デビュー。以降、エッセイ、ノンフィクションを執筆するほか、大学等で編集講義をおこなう。
公式HP:https://yamaguchimiruko.tanomitai-z.com/
Twitter:@MirukoYamaguchi
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