暮らしの店を生業とする人の、お買いもののルールとは?
小澤典代『日用美の暮らしづくり、家づくり』

橋本晶子さんのすず竹のかご キッチンでもテーブルでもスッキリと置けるよう楕円に作っていただきました

 

持っているものやファッションの傾向で、その人の輪郭が、ほぼわかったりする。だから私は、ものを頼りにして人を見ていることが多いと思います。浅川あやさんに親近感を持ったのも、趣味嗜好が自分に近いと感じたからです。あやさんが営んでいた鎌倉の店「日用美」には、欲しいものがたくさんあって、純粋にお買いものが愉しめました。

 

お買いもの。この言葉の響きが嫌いな女性は、ほとんどいないのではないでしょうか。お買いものには、必要だから買うものと、持っていると嬉しいから買うものがあります。いずれにしても、何か新しいものを自分の暮らしに取り入れることは、いつだってワクワクするものです。

 

ちょっと前に、ものを持つことに対して、少なからずマイナスなイメージを与えるムーブメントが注目を集めました。必要でないものは処分して、身軽になって生活しよう。というのが、その考え方の基本であると思います。至極真っ当で正論です。確かに、使わないものを持ち続けることはスペース的にも問題があり、収納に余計なエネルギーを費やす原因になります。

 

でも、人はそんなに簡単にものごとを割り切れるわけではない。使わなくても思い出と繋がっていたり、持っていることでホッとする、なんて場合もあります。だから、ものを所有することについて、個人的には、生活上の効率より、そうした気持ちを優先する人に好意を持ったりします。

 

ただ、ものを買うという行為については、今一度真剣に考えたい。大量生産されるものが余ってしまい、ゴミとなっている現状を変えるには、私たちの消費行動が大きく影響するからです。ものを売る立場でもあるあやさんは、買いものについて、どんなふうに思っているのでしょう。

 

「実際に買うかどうかは別として “お買いもの” は大好きです。好きなものに出会えるのは嬉しいし、楽しいですよね。見つけたものを手に入れて、使い方などいろいろ想像をするとウキウキしてしまいます。最近は、仮住まいということもあり、日用品以外のものは買ってないんですけれど、時間の余裕があるときに、ゆっくりお買いものをするのが好きです」

 

あやさんは引っ越しを機に、持ちものの選別を行いましたが、自分なりのルールを決めて決行。結果、処分したものはあまり多くはなかったそうです。

 

「なかなか捨てられないタイプではありますが、洋服は5年着なかったら、雑誌は5年見なかったら処分することにしています。だけど迷ったら取っておきます(笑)。器などの生活雑貨に関しては、好みが決まっているし、必要なものしか手元にないので処分することは考えていません」

 

さすがに暮らしの店を生業とする人。生活雑貨に対する目には、もう迷いはないようです。しかし、あやさんだって、そこに至るまでには紆余曲折があったはず。それを踏まえ、買いものや、もの選びについてもアドバイスをもらいました。

 

「お店に入ったらじっくりゆっくりものを見て、気に入ったものがあれば、どんなふうに使いたいかを想像して欲しいです。そして店主や店のスタッフに、どこでつくられたものか、どんな人がつくっているかなど、ものの背景について聞くことをお薦めします。店側は、つくり手の代弁者でもある。ただ売るだけでなく、お客様にものについての情報をお伝えすることは重要な仕事です。背景を知らないものより、知って使う方が何だか嬉しいし、大切に出来ますよね。そうすることで無駄な買いものもしなくなります」

 

濵田正明さんの粉引面取カップ(左:10年以上使い続けている私物 右:新品) 湯呑みは小さめが好き
栗久さんの曲げわっぱ丸二段お弁当箱(左:10年以上使い続けている私物 右:新品) 小さなお櫃としても使ってます
渡辺隆之さんの土鍋 汁物、煮物も美味しくできる。表面に釉薬がかかっていないので火の跡が残るところが好き

 

ものを持つことの喜びは、愛着が持てるか否かです。愛着の理由は人それぞれでしょうが、心を動かされる物語がものの背景にあると、恋に落ちるような感覚を得られることがあります。本気で好きになった相手と、ずっと一緒に居たいように、ものに対しても同様の気持ちが働くのは事実です。

 

「確かにものの魅力は、風合いや使い勝手が良い、だけではないですね。つくり手や背景にある事柄を知ると無意識に大切にしているんです。その人のことを思うことで繋がりを感じたり。買うことで、応援できると思ったり。そうした気持ちが持てることも、買いものや所有することの醍醐味。息子の楽も、知っている作家さんの器を『これは、○○さんがつくったんだよな~』と言いながら、眺めていることがあります。だからでしょうか、小さなときから陶器を使わせていますが、乱暴に扱うことはありませんでした」

 

左から 渡辺隆之さんの小鉢 祖母が使っていた砥部のくらわんか碗 大坪妙さんの汁椀 青木郁美さんの長方角皿
すず竹のお弁当箱におにぎり、サーモスのスープジャーにお味噌汁を入れて出かけるのが我家の定番

 

暮らしをともにする、ものという存在。できるだけ自分にフィットする、よきパートナーのようなものと巡り会えますように。

日用美の家作り

文/小澤典代

手仕事まわりの取材・執筆とスタイリングを中心に仕事をする。ものと人の関係を通し、普通の当たり前の日々に喜びを見いだせるような企画を提案。著書に「韓国の美しいもの」「日本のかご」(共に新潮社)、「金継ぎのすすめ」(誠文堂新光社)「手仕事と工芸をめぐる 大人の沖縄」(技術評論社)などがある。
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