人を惹きつける店を作る 浅川さんの、仕事への 向き合い方
小澤典代『日用美の暮らしづくり、家づくり』

bw_manami

2019/04/09

 普段、誰かと仕事に対する考え方などを話すことは、そうそうありません。社会人になって間もないときならいざ知らず、働いて随分と時間が経ち、それなりにキャリアを積み重ねてくると、仕事へのスタンスは自然と確立されていきます。でも、あれ? これでいいのかな、とか、ちょっと疲れたな、と感じるときだって人生にはあるものです。人間ですもの。

 

 そんなとき、信頼できる人や、生き生きと仕事に向かっている人の話を聞くことで、次なるステップの気づきを得たり、迷っていた背中を押してもらえることに繋がったりします。

 

 今回は、浅川あやさんに仕事についての質問をしてみました。以前にも触れましたが、あやさんは、漠然とではあってもやりたいことが決まっていた子どもだったのです。

 

「育った場所が田舎でしたから、自然のなかで毎日遊んでいて、それがホントに楽しかった。だけど、徐々にその場所が開発されていくのを見て、子どもながらに違和感を持っていたんです。何故、どこも同じような街にしなくてはいけないのか。どうして土をコンクリートで固めてしまうのか。そうした疑問が、自分のやるべき仕事の方向性を決めた理由のひとつだと思います」

 

 その疑問は、現在では、仕事と言うよりあやさんのライフスタイルに結びついていて、パーマカルチャーなど、自然に寄り添う暮らしへの関心に繋がっています。

 

「仕事としては、やりたいことが少しずつ変化したのも事実です。小さな頃は公園をつくる人になりたかったけれど、就職して設計に関することを手がけるうちに、図面を引いてものづくりをする楽しさに目覚め、家具づくりをしていたら、その周辺で使うものが気になりだし、暮らしにまつわる生活雑貨に興味が移っていきました。「日用美」を始めたのは、そうした経過で得たことの集大成のような感じです」

 

 その時々で変化していった仕事への興味。しかし、常に逃げることなく夢の実現に歩みを止めなかった意志の強さは、どんなときも一貫しています。

 

「それについては母の影響が大きいですね。今はリタイアしましたが、両親ともに実業をしていました。特に母は、ユニークでした。実家が養鶏所を営んでいたので、卵を生かした菓子作りを始め、菓子店も起業しました。経営について専門誌から取材をされるような、ものづくりへの戦略を持つ人でした。その母から、小学生の頃から経営のノウハウに関するカセットを聴かされていたんですよ。私が習い事をしていて、その送り迎えの車の中で(笑)。そして、なりたい自分になっている自分を想像しなさいと、いつも言われていました」

 

浅川さんのお母様

 

 大変そうでも楽しそうに仕事をしている母の姿を、子どもの頃から傍で見ていたあやさんは、その教えが本物の知恵であることを理解していたのでしょう。なりたいイメージをよく言葉にしていたと言います。

 

「そのときどきで、こういう場所に住んで、こういう仕事をする。と言っていて、ほぼそのとおりに、ゆるやかですけど夢に近づくステップは踏んでいたと思います。鎌倉に家と店を持つ、というのも周りに言っていましたね」

 

 美大卒業後、あやさんの最初の就職先は内装設計の会社で、博物館などの公共の内装設計やイベントの企画設計に携わっていました。景観をつくりたいと考えていた子ども時代があり、それに近い仕事場を選んだと思っていましたが、イベントなどでは期間限定で取り壊しになるデザインもあり、切なさを感じてしまったのだそう。

 

「時間とお金をかけてつくるものが、期間限定であることに何とも言えない淋しさを持ってしまった。自分の仕事として、もっと生活に近いデザインに携わって、長く使えるものをつくりたいと考えるようになりました。そこから、好きだったライフスタイルショップに就職したいと思ったんです。そのショップを運営する会社の製品である家具は、クオリティがずば抜けていて、衝撃を受けていましたから」

 

ライフスタイルショップに勤務していた頃に制作した図面
当時手がけたコーディネートや内装

 

 家具製作の図面を引くことは出来るあやさんでしたが、ショップで働くことになったら接客力も必要と考え、その会社にエントリーする前には百貨店で接客のアルバイトも経験しました。ただ夢を描くだけでなく、そうなるために、本来のやりたい仕事とは直接関係なくても、必要になるかもしれないスキルを得る努力も惜しみなくしてきました。そうした行動は、なかなか出来ないものです。特に若い頃には。

 

「母からは、無駄なことは何ひとつない、とも言われてきました。例えば、自分にとって嫌な人に出会う、面白くない出来事がある、そういうことも、そのときの自分に必要だから巡ってきている、と言われてたんです。その言葉は、今でも大切にしているし、役立っていると思います」

 

 店を開けていれば、いろいろなお客様が来る。接客は、人との繋がりを育んでいく仕事でしょう。責任を持つことを大事にしていると、あやさん。

 

「ものに関しても、人に関してもそれは同じです。逆に言えば、自分で責任を持てないことはしない。これは覚悟ですかね。ネットで欲しいものが殆ど手に入る時代、わざわざ店に足を運んでいただけることを有り難いと思います。経営に大切なこと、ですか? 愛ですね(笑)。いえいえ、真面目に。私のモットーは、店は小さく夢は大きくなんですよ。いわゆるやり繰り的なことは、自分の給料を含め、年間で赤字にならないような仕入れのバランスを考えます。無理はしない。それも責任を持つことに繋がっていますから」

 

 小さな商いのなかで、夢を大きく描く。夢の先にあるものが金銭的な成功よりも、人との繋がりの深さについてを求めている。そのシンプルで潔い考え方があればこそ、「日用美」ならではのスタイルが確立したのだとわかりました。

 

鎌倉にあった頃の日用美の店内
鎌倉にあった頃の日用美の店内

日用美の家作り

文/小澤典代

手仕事まわりの取材・執筆とスタイリングを中心に仕事をする。ものと人の関係を通し、普通の当たり前の日々に喜びを見いだせるような企画を提案。著書に「韓国の美しいもの」「日本のかご」(共に新潮社)、「金継ぎのすすめ」(誠文堂新光社)「手仕事と工芸をめぐる 大人の沖縄」(技術評論社)などがある。
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