自然と共に暮らす。だからこそ味わえる春の歓び
小澤典代『日用美の暮らしづくり、家づくり』

bw_manami

2019/04/23

四季のある日本に暮らす喜びのひとつは、その時々でしか愉しむことの出来ない、季節の行事を行うことだと思います。特に、冬から春に移り変わるときのそれは、ことさらに嬉しいもの。寒さから解放され、辺りには光が溢れて、未来に向かう気持ちが他のどの季節より膨らみます。

 

浅川あやさんは、幼い頃から四季折々の行事を大切にしてきました。

 

「生まれ育った北九州に足立山という小高い山があり、実家はその山へ向かう道沿いにありました。桜並木が続いていて、家の窓からも桜を見ることは出来ましたが、散歩がてらに山の麓まで歩き、家族でお花見をした日々は今も大切な思い出です」

 

その、幼い頃の記憶に刻まれている遊びの数々は、あやさんの感性を育んだ基盤とも言えるものです。

 

二宮に春を告げる吾妻山の桜

 

「芽吹いた草や花を摘んで、輪っかにして草相撲をしたり、土筆を摘んだりして、それが遊びだったんですね。自然が与えてくれる豊かな環境のなかで遊べたことは、とても良かったと思っています。祖母が山菜を摘みに行って、それで料理をしてくれた。暮らしのなかに、普通に四季を愉しむ行事があったのだと思うと、ホントに感謝したい気持ちになります」

 

そして現在も、あやさんの自然と共に暮らす基本は変わっていません。家族を支える家事にも春ならではの仕事があります。

 

「最近は味噌づくりをしたり、もう少ししたら、梅干しや梅シロップ、梅酒を仕込んだりする梅仕事をします。筍掘りも春ならではのものですね。仕事とは言え、こうした家事はリクリエーションでもあるから、息子と一緒に楽しんでやっています」

 

 

掘り出したばかりの瑞々しい筍

 

二宮に引っ越してからは、地域の人たちの集いにも積極的に参加しているそう。そこで得たコミュニケーション術を聞いていると、無理がなくて素敵だと思えます。人はそれぞれで、暮らしのペースや経済的な事情も違っていて当然です。みんなが同じように振る舞わなければならないお付き合いは、ときに負担になることだってあります。

 

「必要以上にお金を介さない集まりが多いんですよ。小さなコミュニティだからこその思いやり、気配りが有り難いです。押しつけがましくないのが、二宮の人づきあいの魅力でもあります」

 

そうした気軽なお付き合いのなかで参加しているのが、二宮自然塾。

 

「自然塾が主催する「てまひま部」で、食べられる春の草花を摘んで、その場で頂きました。週に1回は「うみっこ」という海遊びにも参加しています。海で焚き火をして夕飯をつくってみんなで食べたり、この地域ならではの自然の恵を分け合うようなイベントです。そうそう、今年は初めて小田原の知人の家でも沢庵を漬ける作業に加わえてもらいました。大根の種蒔き、収穫、干す作業、漬けること、その工程を出来る人がやればよくて、出来上がりをみんなで分けるんです。その、ゆるーい感じがとても心地いい。」

 

立派な大根をたくわんに。出来上がりが待ち遠しい。

 

そうしたご縁から繋がった地元の人から、餅つきにも呼んでもらったり、息子の楽君は、お囃子会にも入会して「箱根駅伝」の沿道での応援にも参加したそう。

 

「お囃子は年間を通して練習するんです。地域に根ざした伝統文化に触れられること自体がとても贅沢だし、子どもにとっては、その体験を肌で感じられるのが何よりですよね。受け継ぐことの大事さを感じて欲しいと思います」

 

恒例行事の餅つきには老若男女が参加する
清々しい空気の中、お正月のお囃子

 

新しい土地での暮らし、先ずは自ら飛び込んでみること、行動してみることが大切だと、あやさんを見ていると思います。人生をより良くするには、結局のところ、正直に欲することから始めるしかない。そして、その為の努力はいつだって必要だから。

日用美の家作り

文/小澤典代

手仕事まわりの取材・執筆とスタイリングを中心に仕事をする。ものと人の関係を通し、普通の当たり前の日々に喜びを見いだせるような企画を提案。著書に「韓国の美しいもの」「日本のかご」(共に新潮社)、「金継ぎのすすめ」(誠文堂新光社)「手仕事と工芸をめぐる 大人の沖縄」(技術評論社)などがある。
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