住まいの形が見えてくる“棟上げ”の日のこと。
小澤典代『日用美の暮らしづくり、家づくり』

 

予定していたスケジュールよりも、3ヶ月ほど遅くなってしまった棟上げ。5月のある日、浅川さん一家は特別な感慨を持ってその日を迎えることになりました。市街化調整区域に住まいと店舗を建設するには、開発のための申請に時間がかかること、古い家屋を生かすには、クリアしなければならない問題も多いことは以前の記事でもお伝えしたとおりです。

 

「それに加え、予期していなかったことが出てきたり、思っていた以上に大変なことも多かったのですが、やっとこの日を迎えられて、柱が立つのを見たときは感無量でした」

 

ここまで辿り着くのに1年半を費やした棟上げまでの日々。自分の思い描く理想の家をつくる。あやさんの夢である、家づくりというものづくり。それは請け負ってくれる方々との連携があってこそのこと。設計士であり現場監督でもある方や、大工さんや鳶の方々、その人たちに支えられていることを、あやさんは、上棟式のこの日、改めて実感したようです。

 

作業を見守る浅川夫妻

 

「上棟式というのは、昔から家の棟が立ったお祝いとして行われるもので、現場で働く方々に感謝し、これから先の工事と建物の無事を願う神事なんです。こうした行事はきちんとやりたいと考えていましたが、生憎の天候で、本当ならご近所の方々への挨拶も兼ねて、餅蒔きもしたかった・・・。」

 

雷も鳴るような雨の一日、そのなかで、決められた作業を終えなければならない現場で働く方々の都合も考慮し、簡略化した方法でお祝いを行うことに。

 

「式は行わず、用意したお弁当を振る舞い、お酒とお菓子を持ち帰っていただくことにしました。施主としては、働く方々へ感謝を伝えることが一番だと思います。この場所で、一緒に思い入れを持って仕事をしてくれる方がいる。それはホントに有り難いことです。何でもそうですが、思い入れを持ってつくると、細かなところに、その愛情が表れるものだと思うんです」

 

降りしきる雨の中、みるみるうちに柱が立ち、家の形が見えてきた
運び込まれた板には「浅川様邸」の文字が

 

あやさんの言葉からは、ものづくりの真髄が感じられます。些細なことにも手を抜かず、愛情を持ってつくられたものには、何かが宿って、それによって守られたり癒されたりします。「神は細部に宿る」と、建築家ミース・ファンデル・ローエも言ったそうですが、そうした気持ちを持ってつくることは、完成度に大きく関わってくるのは確かなことでしょう。そこで、家づくりに於いて、あやさんが最も大切に思う細部とは何かを聞いてみました。

 

「家が出来上がったとき、その表層的な部分より、表からは見えない構造や設備であると思っています。工法の選び方にも関わることですが、その家で、どういう暮らしをしていきたいかを決めることが重要で、その為の構造はどれが最適か、どんな設備が必要なのかが決まります。その時点で、専門家である設計士や大工さんに相談をし、納得のいくまで話し合うことが大切ですね」

 

自分たちの要望を細かなところまで伝えること、その優先順位を決めておくことも大事だそうです。予算があり、期限もあるから、取捨選択できる潔さも持たなければいけません。浅川さん一家が大切にしているのは、外と中の境界線が曖昧であること。それは、自由度の高い暮らし方に繋がります。そして、無理のない範囲で資源を循環させること。あやさんの、環境に対する高い意識の表れでもあります。大きく捉えると、浅川家の家づくりの中心にあるのはこの二つでしょうか。家族にとって重要なことがハッキリしているからこそ、こだわりも見えてくる。他の誰でもない、自分たちにとっての気持ちよい暮らしを追求する姿は、見ていて清々しく、素直に応援したくなります。

 

「二宮の守り神は龍神さまだって聞いてますよ。だからこの土地で何か節目を迎えるときに、雨が降るのはいいことの印なんですって」

 

よく訪れるパン屋さんで、オーナーの奥様から、そう声をかけられていたあやさん。それは、彼女がこの場所に既に受け入れられ、愛されている証なのだと感じ嬉しく思いました。

 

浅川さんが用意したお弁当は月に一度だけ二宮町で販売されるお弁当屋さん「菜と根や」特製。季節の食材をふんだんに、いろどりも美しい
雨を受けた山の青さは目に痛いほど

 

撮影/石黒美穂子

日用美の家作り

文/小澤典代

手仕事まわりの取材・執筆とスタイリングを中心に仕事をする。ものと人の関係を通し、普通の当たり前の日々に喜びを見いだせるような企画を提案。著書に「韓国の美しいもの」「日本のかご」(共に新潮社)、「金継ぎのすすめ」(誠文堂新光社)「手仕事と工芸をめぐる 大人の沖縄」(技術評論社)などがある。
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