手仕事の魅力、日用美でワークショップを開催する理由。
小澤典代『日用美の暮らしづくり、家づくり』

bw_manami

2019/06/25

 

ここ数年でワークショップを開催する店が増え、もはやそれが、買いものよりもショップを訪れる楽しみになっている、という人も少なくない状況です。確かに、何か買いものをするときに、そのものの成り立ちや背景を知ることはものを深く愛する手立てになりますし、つくる体験をすることで、更にものづくりの大変さや歓びを実感できたりもします。それは、暮らしを豊かに彩ることのヒントだったり、日々を営む楽しさの発見に繋がります。体験とは、もしかしたら一番価値のあることなのかもしれません。

 

鎌倉で「日用美」を営んでいるとき、浅川あやさんは頻繁にワークショップを開催していました。私もハンドクリームづくりに参加したことがあり、自分好みの香りに調合できるのがとても嬉しく、機会があれば、また参加したいと思っています。

 

「ワークショップをやってみて感じているのは、同じアイテムをつくっていても、それぞれ違うものが出来上がる、という楽しさです。違っていていい、それが当たり前ということに気づけるんですよね。それに、日常に使うものを自分でつくると、メンテナンスや、修理が必要なときに自分で直すことができるようになるのも魅力です」

 

これまで「日用美」で開催したワークショップのラインナップは、ハンドクリーム、シューズ、羊毛の栞、モビール、など多岐に渡っています。「日用美」はライフスタイルショップですから、暮らしに関係のあるものはすべて取り扱い品の範疇に入ります。そのなかで敢えてワークショップとして選ぶものには、どんな理由があるのでしょう。

 

鎌倉在住のアロマセラピスト、つたえさとみさんのWSでつくったアロマハンドクリーム。その時々の悩みに合わせてアロマの調合をしていただくこともできます。自然界にあるもので体調を整えることは、人間にとっても自然なことだと思います。

 

「つくり手の考え方に、私自身が影響されたことが大きな理由です。アロマを調合したハンドクリームづくりを担当した、つたえさとみさんには、いつもはアロマオイルやアロマミストをお願いしています。それぞれの体調や悩みに合わせ調合できるのがいいんです。古来からあった精油で体調を整えることは無理のないことだと感じますし、むやみに薬に頼らないのは真っ当だと思います。「てのひらワークス」の小林智行さんは義肢装具製作に携わった経験をお持ちで、歩きやすく身体を健やかに保つ靴づくりを行っている人。足元を支える靴が身体に及ぼす影響は多大で、見た目の良さだけではない、装着する道具としての完成度に着目しました。栞を担当した「petitricot」は羊毛を染めて糸を紡ぎ、織のボタンをつくる方。鎌倉在住で、海や山など自然を感じさせる一枚の絵のような作品に惹かれました。マエダカオリさんは葉山に暮らすガラス造形作家。ビーチコーミングで集めた素材を使いモビールをつくります。それらは海のゴミでもあるのですが、アートピースになれば宝ものに変わる。こうして改めて考えると、それぞれ手仕事や工夫をすることで、暮らしに対する気持ちを豊かにしてくれる作用を持つものを選んでいたと感じます」

 

てのひらワークス小林智行さんのサンダル義肢装具製作に携わった経験を活かし、歩きやすく、身体を健やかに保つ靴づくりをしています。
petitricot(プチトリコ)の織り栞羊毛を染めて糸を紡ぎ、織りのボタンを製作しています。小さな一つの絵のような美しさです。鎌倉在住で山登りが大好きな方なので、海や山など自然を感じる作品が多いです。
ガラス造形作家、マエダカオリさんのモビールビーチコーミングで集めた素材でモビールつくりWSをしました。彼女の作品の中にはビーチコーミングで集めたガラスや陶器、流木を使って製作しているものもあります。ゴミも見方を変えれば宝物。それを使うアートワークは素敵です。

 

人が、他のいきものと大きく違っているのは、手を動かしものをつくれること。そのことで脳が発達し考える力が備わり、何かを思い描く想像力を持つことができるようになったと言われています(他のいきものが何も考えていないとは言い切れませんが・・・)。だから、ものをつくることは大切。大袈裟かもしれませんが、人としての勘のようなもの、つまり、些細な機微を受け取る力も、手を動かすことで培われる気がしてならないのです。

 

「その感覚、わかる気がします。昔は、家のなかで手仕事が受け継がれていましたよね。縫いものにしても、木を削るにしても、親から子に教えられてきた手技があり、それをとおしてわかり合えてきた部分も、きっとあったのではないでしょうか。私たちの世代は子どもの頃から既製品が多くて、親もあまり手づくりをしていない。便利にはなったけれど、何か失われた感じがするのは確かで、だからこそ、また一から始めなくてはならないと感じるのだと思います。ワークショップが人気を集めるのも、無意識ではあっても、そうした失われた感覚が根底にあるのかもしれませんね」

 

そして何より、手仕事は表現と繋がっています。アーティストと呼ばれる人々は自分の存在を知らせる術として、手を動かしものづくりをしている。画家は絵筆を使い、音楽家は楽器を使い自己を表現します。感じていることを伝えたくて、生きているとは、そういうことだと。

 

「よく、ものづくりをする人に話しを聞くと、手が止まらないと言います。衝動に突き動かされるって言いますね。私も時々、息子の持ちものを縫ったり刺繍したりしますが、針仕事のいいところは、何か考えながらでもできるし、何も考えずに没頭することもできる。結局は自分のためにしていることなんだなぁと。近頃では、手づくりのものを拵えると『またやったの! 』と、息子から言われたりしています(笑)」

 

なるほど、手仕事は人のためではなく、自分のためにあると気づかされました。押し売りしてはいけないのですね。だけど、そこには誰かに対する愛情があることも、また間違いない事実であるはずです。

 

ごかんのもりのクリスマスの時、プレゼント交換用に楽と一緒に作った、ごかんの野菜のすごろく
日用美の家作り

文/小澤典代

手仕事まわりの取材・執筆とスタイリングを中心に仕事をする。ものと人の関係を通し、普通の当たり前の日々に喜びを見いだせるような企画を提案。著書に「韓国の美しいもの」「日本のかご」(共に新潮社)、「金継ぎのすすめ」(誠文堂新光社)「手仕事と工芸をめぐる 大人の沖縄」(技術評論社)などがある。
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