“自分のペースで暮らす”と 日々はもっと豊かに楽しく なるのかもしれない。
小澤典代『日用美の暮らしづくり、家づくり』

bw_manami

2019/08/13

夏は、一年のなかで特別な季節という思いを抱いている人は少なくないはずです。子どもたちにとっては、夏休みという自由を満喫できる大きな時間があり、大人になっても、その記憶のせいでしょうか、8月のカレンダーを目にするだけで心が騒ぎます。夏を、二宮の新居で迎えようとしている浅川あやさんにとって、今年の夏はいつにも増して特別なものになりそうです。

 

「家づくりもラストスパートに差し掛かっていますが、息子が夏休みに入っているので、一緒に楽しめる、夏ならではの行事は疎かにしたくないと考えています。二宮に来てからは自然塾のみんなと「うみっこ」と名付けた会で、週に一度は海での遊びを楽しんでいます。一日遊んで浜で焚き火をして、そこで持ち寄ったものでゴハンもつくる。わざわざ大袈裟な計画を立てたり、道具を揃えたりしなくても、その場にあるもので気軽に楽しむことを大切にしています。それが愉快で、とても贅沢に思えるんです」

 

 

 
毎日を、自分たちの力で無理なくできる範疇で愉しむ。それは夏に限ったことではなく、あやさんが大事にしている暮らしの基本です。今は、何でも人任せに出来るシステムが成り立っている時代。お金を払えば、家事など生活に必要な事柄の殆どを他者に賄ってもらうことが出来ます。ラクチンで、時間の節約になるのかもしれません。でも、そうすることが本当の楽しさに繋がるかと言えば疑問です。暮らしのなかにある些細なことに楽しさの種はあります。自ら動き、工夫し、手がけることで発見できる豊かさがあるのは事実です。それは芽を出し、やがて成長して、思いもよらなかった幸福感をもたらしてくれるのではないでしょうか。

 

「春の終わり頃に梅の実がなって、どこからともなくいい香りが漂ってくるとソワソワしますね。そろそろ夏の準備だなって。息子が大好きな梅シロップや梅干しづくりは家事のなかでも格別な楽しみなんです。それが出来上がる頃に夏が訪れる。そうしたサインのようなものが日々のなかにあることは、自分なりの歳時記を持っているようで嬉しくなります」

 

 

あやさんの食卓は、特別なものではありません。暮らし全体に於いても、まったく手を抜かないかと言えば、そうではないのです。以前、時短について質問したとき「忙しいですから、けっこう時短については考えています」という答えが返ってきました。家事の捉え方にメリハリがあり、そこにセンスの良さを感じます。手を抜くことを悪いこととは考えず、どう工夫することが自分らしく快適なのか、何かを犠牲にすることなく、楽しみながら生活を回していく術を真剣に考えた結果が毎日に生かされています。

 

「例えば、毎日の食卓では、できるだけ季節の野菜や果物をいただくようにしています。夏野菜などは、そのままでご馳走になるから嬉しいですよね。息子は瑞々しいキュウリが大好きで、味噌をつけてポリポリ食べてます。毎日手間暇かけ、凝った料理をつくることが最善とは考えません」

 

 

テーブルコーディネートに精を出すより、気に入ったお茶碗を大事に使う。品数を増やすために冷凍食品を用意するより、新鮮な野菜をそのまま食べる。あやさんのルールには一本筋が通っています。つまり、見栄えではなく心が満足することを優先する。その取捨選択の基準に共感を持つのは、経験から得た確かな実感があるからです。

 

「経験を積み重ねることは何よりも価値のあることだと思います。夏は海や川で遊ぶ機会が多くなりますが、ただ楽しいだけではなく危険とも隣り合わせ。自然は気持ちよさを与えてくれるけれど、油断すると怪我をしたり命に関わる事故にも繋がります。そうした怖さを知ることも知恵になる。日々のなかで身につけられること、体験から学ぶことを大事にしていきたいと考えています」

 

 

 

ゆっくりと焦らずに、自分に合ったペースとルールで楽しさをつくりあげていく。頭で考えるだけではない体験から得た生きたアイディアが、暮らしにも家づくりにも息づいています。

日用美の家作り

文/小澤典代

手仕事まわりの取材・執筆とスタイリングを中心に仕事をする。ものと人の関係を通し、普通の当たり前の日々に喜びを見いだせるような企画を提案。著書に「韓国の美しいもの」「日本のかご」(共に新潮社)、「金継ぎのすすめ」(誠文堂新光社)「手仕事と工芸をめぐる 大人の沖縄」(技術評論社)などがある。
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