建具の納期
小澤典代『日用美の暮らしづくり、家づくり』

ryomiyagi

2019/11/13

家づくりは他者の力を借りてするもの。それは大手の建築会社であっても、個人経営の工務店であっても、セルフビルド以外は人に頼んでつくる作業であることに変わりはありません。そこには少なからず人に纏わる困難があることを知りました。
浅川邸の場合は、基本設計はあやさんと真さん夫婦で行い、設計施工監理を若手の設計士に依頼しました。

 

 

「どこに頼むか考えたときに、長い付き合いになるのだから近くの工務店が良いと思ったんです。そこで、この土地の販売担当をしていた不動産屋さんに相談しました」

 

紹介された工務店のなかで、金額的なこと、趣味が離れすぎていないこと、などふるいに掛けて選んだのが設計士のAさんでした。

 

「先ずは予算ありきですから、金額的に折り合いが付くところでないと無理なので、ゼネコンのような大手は最初から候補にありませんでした。
それに私たちは自分たちの思い描くカタチがあるので、口を出すタイプの施主。一般的に考えると、施工業者からは煙たがられるタイプだと思います(苦笑)。お願いしたAさんは独立して間もない方で、一緒に協力してプランを進めてくれることになりました」

 

しかし、経験の浅さは予期せぬトラブルを招いてしまうのが世の常です。設計士Aさんと浅川夫妻は、住宅の設計施工に関して経験不足であることは否めず、そのことで起こったであろうアクシデントが幾つかあるのです。本来、こうしたマイナス的要素は表立って語らないのがあやさんですが、敢えて公表するのは、自分たちと同じように家づくりを行いたいと考える人に役立てて欲しいとの思いがあります。

 

「一番困ったことは予定していた通りに工事が進まないこと。見込み違いが多くあって…。例えば建具なんですが、5月に発注していた木製サッシの窓や玄関扉が納期になってもきちんと届かなかった。予定では6月末が納期でした。9枚注文していたのに7月末の時点で3枚しか納品されなくて、Aさんが連絡しましたが、業者が雲隠れして音信不通になってしまったとのこと。これにはビックリ仰天しました。調べてもらったら体調不良もあったらしいのですが、割の良い仕事になびいてしまったようなんです。知人から聞いた話ですが、こうした事例はどうも稀ではないようなんですね、悲しいことですが」 

 

 

この業界にあると思われる悪しき慣習と言えそうな無責任な仕事の放棄。これは個人に仕事を頼んだゆえのリスクでもあるのかもしれません。つまり、依頼する側の力が大きければ、こうした事態に陥らぬよう厳しく監理することは比較的容易であると考えられるのです。

 

「その人とAさんとは10年ほどの付き合いがあったそうで、腕の良い職人さんであるから任せたいとの思いがあったのでしょう。これまでの付き合いがあるから、まさか裏切られるとは考えなかったんですね。でも、最初の納期に遅れが出た時点で、危機管理が必要でした。特別な仕上げを頼んでいるわけではありませんから、他の業者でも大丈夫なので、納期を優先するのが基本であると感じています」

 

仕事としてクライアントを優先するのは、どの職業でも同じこと。納期が遅れれば、家の完成が遅れる。その分、仮住まいの家賃もかさみます。クライアントである浅川家の負担は大きくなります。

 

「工事を進めるにあたり、スケジュール管理が大切だとしみじみ感じています。職人さんの入るタイミングと作業のボリュームをきちんと把握してスケジュールを立てることで、現場はスムーズに動き無駄な手間を省けます。それは仕上がりにも影響してくることなんです」

 

 

今はオリンピックを控え、建設業界は人手不足であると聞きます。そんななかで、予測できない事態が起こることはあり得ることなのかもしれません。

 

「でも、こうした不測の事態はAさんにとっても、私たちにとっても、勉強になったことは確かです。予算で言えば、大手の建設会社に頼んでいたら今の予算ではできません。この家づくりはチャレンジでもあって、そのなかでは無駄も間違いもあるけれど、真摯に向き合いながらひとつずつ前進し、完成させたいと思っています」

 

チャレンジである浅川家の家づくり。それは、あやさんにとっても大きな経験の場になりました。次回は、そこから得た学びや情報をより詳しく教えてもらうことにします。

日用美の家作り

文/小澤典代

手仕事まわりの取材・執筆とスタイリングを中心に仕事をする。ものと人の関係を通し、普通の当たり前の日々に喜びを見いだせるような企画を提案。著書に「韓国の美しいもの」「日本のかご」(共に新潮社)、「金継ぎのすすめ」(誠文堂新光社)「手仕事と工芸をめぐる 大人の沖縄」(技術評論社)などがある。
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