連載最終回、でも日用美の家づくりは終わらない。
小澤典代『日用美の暮らしづくり、家づくり』

ryomiyagi

2020/08/10

 

2018年10月にスタートしたこの連載も、今回が最終回となります。浅川あやさんの家づくりの記録として、建築の進捗状況とともに、あやさんの暮らしの機微をお伝えしてきました。

 

鎌倉でも家づくりの経験がある浅川さん夫婦ですが、ここでお伝えした二宮の家づくりは、市街化調整区域を含む土地であることや、経験の浅い建築士との二人三脚で建設が進められたことなど、最初からチャレンジの要素が多いものづくりとなりました。

 

当初の予定からはかなり遅れてしまいましたが、自分たちの思い描く夢の実現でもあった理想の家は遂に完成しました。

 

「いろいろありましたが、その分、嬉しさも格別です。完成した家に初めて一歩を踏み入れたときの感動は、きっと一生忘れないと思います。これからも気がついた部分など、あちこち手を入れることになるのだろうし、そうすることが楽しみでもあるんですよね。だから、私にとっての家づくりはまだまだ続きます(笑)。むしろ、スタートラインに立った感じですね」

 

何かつくっていることが最大の喜びであるあやさんにとっては、この家は恰好の遊び場でもあるのかもしれません。

 

 

そして、あやさんの表現の場である「日用美」のオープンも目前に迫っています。コロナ禍にあることや、店舗となる古い洋館の建築基準を満たすための工事などもあり、初夏にはオープンさせる筈だった予定を、少し後ろにずらすことにしたのです。

 

「今は、秋のオープンを目指し準備中です。焦って不充分な態勢で始めるよりも、やりたいカタチがしっかり伝わるように、商品の構成も含め、じっくりと練っていきたいと思っています」

 

 

鎌倉の「日用美」の大ファンであった私は、少し気になっているのです。前のイメージから大きく変わってしまったらどうしょう・・・と。

 

「大丈夫です!! 私が好きな世界観は変わっていませんから。以前は、家と仕事が平行にあったと感じているんですね。別々とは言わないまでも、どこか分けて考えていた。これからは、自分の生活と仕事がしっかり結びついていることを大事にしたいんです。だから、食に纏わるものを中心として扱うことになると思います。的を絞った商品構成にすることで、より深くものを見つめられるし、お客様にも背景を伝えやすい。そのひとつの取り組みとしてワークショップにも、もっと力を注いでいきたいんです」

 

 

新居にはアウトドアダイニングがあり、そうした活動にも積極的にこの場が使われる予定。今も一日の大半をここで過ごし、あれこれ作業をしているあやさん。この場所は、家と外と店を繋ぐ役割も持っています。気軽に人々が集えて、気ままに過ごすことが出来る空間。人と人が一緒に過ごすことで何か新しいモノやコトが生まれていく。そんな楽しい企みを、あやさんは考えているようです。

 

「そして、食をテーマにするにあたり、やってみたいことがあるんですね。母が生業とし、つくっていた卵を使った菓子。そこには母の思いや仕事としての矜恃があって、それを受け継ぎたいとも考えているんです。同じものをつくるのではなく、私なりのやり方で御笑味いただけたら嬉しい」

 

あやさんが受け継ぐ、ということに殊更熱心であることは、この家づくりの記録をしている期間、ずっと、私のなかで光のように感じられていた考え方でした。古い家を受け継ぐ、元々あった樹木を利用する、子どもの習い事にも地元に伝わる伝統文化を取り入れる、昔からの慣わしを大事にする。つまりそれは、自分ひとりではなく、多くの人と時間がつくりあげたものを大切にすることです。あやさんは、それが豊かさであると知っているから、自身の暮らしの中心にしているのだと思います。

 

この思いや、人と関わりながらものづくりをする素晴らしさ(ときには困難も含め)を、一冊の本にまとめることが出来ました。web連載では伝えきれなかったこと、日々のことから、家づくりの具体的なノウハウやお金の話まで。あやさんが伝えたいことを綴ってみました。

 

家を建てる予定がない人にも、暮らすことへのアドバイスとなる事柄が詰まっています。手に取っていただき、参考にしてもらえたら幸いです。

 

 

最後に、約2年間お付き合いいただき、ありがとうございます。また、どこかでお会いできる日まで。

 

小澤典代

日用美の家作り

文/小澤典代

手仕事まわりの取材・執筆とスタイリングを中心に仕事をする。ものと人の関係を通し、普通の当たり前の日々に喜びを見いだせるような企画を提案。著書に「韓国の美しいもの」「日本のかご」(共に新潮社)、「金継ぎのすすめ」(誠文堂新光社)「手仕事と工芸をめぐる 大人の沖縄」(技術評論社)などがある。
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