ここだけの話ですが……。 秘密まで打ち明けられる傾聴術の極意【第6回】
辛酸なめ子『新・人間関係のルール』

bw_manami

2019/02/06

質問に答えない会話のゲーム

 

以前、あるヨガ教室の体験に行った時に、ウォームアップとしてふたり組になって質問し合うというプログラムがありました。

 

それも、ただの受け答えではなく、題して「質問に答えないゲーム」。

 

「今日はどこから来ましたか?」「ダイヤモンド」

「お昼は何を食べましたか?」「3時間半です」

 

というふうに、相手の質問と全然違う答えを言う、というもの。そうすることで「気づき」があるそうです。

 

私はこの機会に、初対面の女性を相手に、普段、面と向かった人には聞けない質問を次々繰り出しました。

 

「今日何回トイレに行きましたか?」「ネックレス」

「体重は何キロ?」「レストラン」

「貯金はいくらですか?」「電子レンジ」

 

えげつない私の質問に対し、微妙な表情を浮かべながら質問と無関係な答えを発する女性。何か気付きがあったかといえば、自分の人格的な問題かもしれません。共感性の低さ、優しさの足りなさなど痛感しました。

 

時々、有名人にインタビューをさせていただく機会がありますが、自分のしどろもどろぶりに毎回不甲斐なさを感じています。

 

出だしは相手をホメるようにしているのですが、感情表現が乏しいので相手に本心だと伝わらず……。緊張から挙動不審気味で語尾も「◯◯だったという……?」とはっきりしないので、相手が憐れんで、たくさん話をしてくださるという、そんな博愛精神に頼り切っていました。

 

しかし、いい大人になってこのままではまずい、と思っていたら、仕事で臨床心理学を学ぶ機会に恵まれました。

 

傾聴のテクニックを学ぶ

 

受講したのは聖徳大学の通信制のスクーリング。瀬戸山先生という、元大企業のOLだった知的な女性が講師として教えてくださいました。

 

「臨床心理学」とは心理学の一分野で、「心の問題や葛藤を抱えた人を心理学的アプローチで手助けする実践学」です。

 

その中で「傾聴」というテクニックを教えていただいたのですが、今後仕事などで人の話を聞くのにも役立ちそうな内容でした。

 

「傾聴」は英語だと「Active listneng」。相手が聞いてほしいと思うことを聞く。心、気持ちを聞く、という意味です。

 

人の話を聞くのは難しくて、決めつけたり、ジャッジしたり、価値観の押しつけや指示的な内容になったり、詰問調になってしまうと、相手は心を閉ざしてしまいます。

 

いっぽう、ここで教わった「傾聴」のテクニックは、「うなずいたり、相づちを打ったりする」「相手の言葉を繰り返す」「自分の言葉に言い換えて確認する」「相手の感情を言語化して明らかにする」「相手の話を要約して確認する」「共感する」「『具体的には?』『いつ?』など、開かれた質問をするように心がけて話を促す」「批判しないで聞く」「相手が言い終わるまで遮らずに聞く」「お説教やアドバイスは言わない」というもの。

 

一気に全てをやるのは初心者には難しいですが、人と会う前にこの項目を頭に入れておくだけで感触が変わりそうです。気が焦ってつい相手の言葉を遮ってしまいがちなので反省。

 

ちなみに、「傾聴」の時にNGなのは「背もたれにもたれる」「顎を上げる」「足を組む」行為。全身で相手を立てるような謙虚な姿勢がマストです。

 

ポイントは、基本「全肯定」

 

生徒何人かでグループになって「傾聴」の体験演習もありました。

 

テーマは失敗談。

 

生徒さん同士の対話を傍らで見学すると、今まで学んできただけあって聴き方が親身で心を開かせるのがうまいです。

 

「前髪を切りすぎたんです」という些細な話題に対しても、「どのくらい切ったんですか?」と興味を持っている感じで質問したり、「ショックで数日間家から出たくなくて……」と言われた時には「ショックだったんですね」と繰り返したり、時には一緒に笑ったりして相手の心を和らげていました。

 

別の方の会話では、自動車教習所で「『MTがマニュアル車でATがオートマ車』というところを、なぜか『アニマル車』と言い間違えた」というエピソードに対し、「うんうん」と前傾姿勢で相づちを打ったり、バカにするのではなく暖かく笑ったり、「でもわからないですよね~」と共感したりしていました。

 

私の失敗談も生徒さんに聞いていただいたのですが、最近、道で派手に転んで肘と膝から流血し、血まみれになったという話に対し、「えーっ、大変でしたね」「それは痛いですよ」と痛そうな表情でリアクションしてくださって心が癒されました。

 

うなずくタイミングも完璧です。さすが心理学のプロになろうとしている方々……と参考にさせていただきました。

 

一見どうでもいい話でも、それを出さずに熱心に体を傾けて聴きつつ、表情豊かに受け答えて、基本全肯定、というのがポイントのようです。

 

傾聴術をセレブ相手に試す

 

学んだ「傾聴」を実際にセレブの取材の時に心がけてみました。

 

「はいはい」と、息の含有を多めに真摯な相づちを打ちつつ、常に前傾姿勢で熱心さをアピール。今までは恥ずかしくて目をそらし気味だったのですが、目を見て相手をホメるようにしました。

 

「傾聴」という型を学んだことで、そのモードに切り替えることでちょっと違う人格になれたようです。

 

「衣装はショートパンツで」「ショートパンツなんですね」などと繰り返し、画面に映っていないところで努力していた話に対しては、「それは大変でしたね」と心情に寄り添い、「そうなんですね」「そうだったんですね」と相手を肯定する相づちを打ちまくりました。

 

すると、相手の方が「この話は今までインタビューで言ったことなかったんですが……」「これははじめて話すんですが……」と、秘密を打ち明けるようなエピソードを次々披露してくださいました。

 

傾聴、すごすぎです。

 

臨床心理学の効果を実感しました、と、自己満足的に成功の余韻に浸ってしまいましたが、そのセレブもプロなので、人の心をつかむテクニックに長けていたという説が。

 

「ここだけの話ですが……」とか言われると相手も感動して好意を持たずにはいられないです。会話とは「聞く力」と「話す力」のバトルなのかもしれません。

 

 

 

【今月の教訓】
相手を全肯定して話を聞く「傾聴」は精神的にもラクなので、会話に余裕が生まれます

 

新・人間関係のルール

辛酸なめ子(しんさんなめこ)

1974年東京都生まれ。埼玉県育ち。漫画家、コラムニスト。女子学院中学校・高等学校を経て、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。恋愛からアイドル・スピリチュアルまで幅広く執筆。著書に『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)、『大人のコミュニケーション術』(光文社新書)、『辛酸なめ子と寺井広樹の「あの世の歩き方」』(マキノ出版)など多数。
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