政治家のコミュニケーションスキル【第12回】
辛酸なめ子『新・人間関係のルール』

bw_manami

2019/08/12

コミュ力と人間関係力が最も必要とされるのは?

 

最もコミュ力や人間関係力が必要とされるのは政治家、それも選挙の立候補者ではないでしょうか。マンションの理事会でも身に余る私には絶対ムリだと思える仕事の一つです。

 

先日は参院選選挙が行われましたが、有名な候補者たちの活動がニュースでも流れていました。有権者に笑顔で駆け寄って両手で握手したり、一緒に盆踊りを踊ったり、子ども連れのお子さんの頬を撫でたり……。

 

候補者以外の政治家も、一日5~6カ所回って声を枯らして応援演説し、有権者にアピールするため、かけずり回らないとなりません。タレント候補にとっては、タレント活動の方が労力的にも収入的にも良いと思われるのではないでしょうか。よほど世の中を良くしたいという使命感がないとやり抜けません。

 

某地方都市の選挙に密着

 

先日、新聞の取材で某地方都市の選挙に密着するという貴重な機会をいただきました。政治には不勉強な私でしたが、やり手の女性記者にいざなわれるまま、選挙事務所や選挙カーを取材。そこでますます政治家のコミュ力を見せつけられました。

 

選挙事務所は野党と与党の二カ所伺い、それぞれ情勢によって空気の違いを体感。

 

リードしていて勝算がある野党の事務所は余裕が漂っていて、地元の人が野菜や手作りのケーキやお煎餅など差し入れを持ってきたり、テーブルに花が生けてあったりとアットホームな雰囲気。

 

事務局長の百戦錬磨風のおじさん(70代くらい)が「選挙をやってると人が信じられなくなる」とぼやきながらも、どこか余裕が漂っていました。大量の推薦状が壁に貼られていましたが、「皆両方に送るから、本心はわからない」とクールなコメントが。

 

「今まで何回も選挙に出たけど、怪文書なり何なり出す方は必ず負けた。そんなことはやっちゃいけない。必ずバチが当たる」という言葉が印象的でした。

 

選挙の神様は見ています。「選挙は昔で言えば国取り合戦みたいなもの」という言葉を聞くと、選挙への興味が高まります。

 

といっても日本人の未来を決める大切な機会なので、ゲーム観戦のように見ているわけにはいきませんが……。

 

ちなみに劣勢の方の事務所は、アットホーム感は薄く、パソコンが並んだオフィスのようでした。そして事務局長は厳しい表情で、「朝から怒ってるか、謝ってるか。これが選挙だよ」と吐露していました。

 

最初に行った事務所の候補者は、二世の方で地元の地盤が強くて、高齢者の支持も厚いようでした。「田舎のじいちゃんやばあちゃんはFacebookやTwitterを見ないし、本人がこんなところまで来てくれた、というFace to Faceな活動が大事」と事務局長が語っていたように、選挙カーで対象地域を回るのは結構重要なようです。

 

住人の身からすると、一方的に大音量が入ってきて仕事や安眠の妨げになると思ってしまいますが、この街ではわりと歓迎されているようでした。

 

究極のポジティブシンキング?

 

ただ、与党のテリトリーでは明らかに反応が薄く、住民の多くにスルーされたり、手を振るなどのリアクションも屋内からこっそりされたりするそうです。そんなアウェイ感にもめげずに、候補者は明るくポジティブに語り続けないとなりません。

 

候補者のHさんは人格者っぽい穏やかで育ちの良さそうな男性。ファンのマダムたちまでいて、演説スポットに来て「◯ちゃ~ん!」と手製のうちわを振って応援。政治家のファンになると、塩対応はなさそうで、握手もできるので魅力的です。一票はどんな握手券よりも重いです。政治の知識もつくし、老後は政治家の追っかけも楽しそうだと感じました。ただ選挙期間以外は塩対応かもしれませんが……。

 

演説後、しばらく候補者の選挙カーを追随し、応援演説の幹事長が同乗して同じ文言をエンドレステープのようにくり返すのも聞きました。

 

「◯ちゃんとは良い時も悪い時も一緒にやってきて……」

 

「いつも皆の心を和ませてくれました」

 

具体的なエピソードが聞きたかったですが、車は一瞬で通り過ぎるのでそこまでトークは発展させられないようです。

 

住宅街を高度なドライビングテクニックで走り抜け、ちょっとでも人の気配があるとすぐに話しかけます。住民は気が抜けません。選挙期間中、近所を歩いていてちょっとでも選挙カーの方を見ると「応援ありがとうございます!」と言われて恥ずかしいのを思い出しました。自意識過剰くらいがちょうど良いようで、選挙カーの候補者は目ざとく人を見つけては住民いじりしていきます。

 

「2Fから見えました! ありがとうございます!」

 

「おうちの中からありがとうございます!」

 

もしかしたら普通に生活しているだけかもしれませんが、全て応援と捉えるポジティブシンキング。動いているものは全て有権者に見えるようです。

 

「右から左からありがとうございます!」

 

だんだんいない人も見え始めているのではと思えてきますが、でも実際、熱心な高齢者の方など、家から出てきて激励してくれたりして、住宅街の細い道を回ることは無意味ではないようです。

 

コミュ力200%で叫び続ける

 

その日は休日でしたが、会社のビルがあったらその会社との縁について語りかけたり、スーパーがあったら買い物中の人に語りかけたり、とにかくずっとそんな調子で、たまにうぐいす嬢と交代する以外は、自分の名前を連呼していました。

 

私も1時間ちょっと、気配を消して選挙カーに乗らせていただきました。

 

そして自分なら30分でギブアップすると実感。

 

その候補者はろくにお昼も食べず、休憩もせずにずっと選挙活動しているようでした。笑顔で手を振り、いい人っぽい声で知らない人に話し続けるという苦行を一日中やるなんて……こんな大変な活動を経てやっと当選できたら、その辛さが吹き飛ぶほどの充実感やメリットを得られるのでしょうか……。

 

「農作業ごくろうさまでーす!」

 

「お散歩中ありがとうございます!」

 

時々手を振ってくれる人もいますが、若者の多くはスルーし、耳を塞いでいる子どももいます。

 

それでもめげずにコミュ力200%で叫び続ける候補者。

 

そして車から降りたら降りたで、止まっているタクシーに駆け寄って運転手さんひとりひとりに握手していました。人間がよほど好きではないと、そして全ての人の幸せを祈る博愛心がないと、こんなにオープンマインドになれません。

 

政治家は体力、経済力、コミュ力、人間力、いろいろなものが最高レベルでないとつとまらないと感じました。

 

ただもしかしたら、体力を消耗する選挙活動中、フレンドリーなキャラだと思わせて、実は握手して通りすがりの有権者のエネルギーを吸い取っているのかもしれません(以前友人が、某候補者と握手したら異様に疲れたと言っていました)。

 

政治家のパワーの源泉は市井の人々のエネルギー……。

 

政治家にはそのくらいのしたたかさが必要です。

 

【今月の教訓】
選挙の立候補者に求められるのは住民いじりのテクニック。街そのものが自分の講演会場のような感覚で……。

 

新・人間関係のルール

辛酸なめ子(しんさんなめこ)

1974年東京都生まれ。埼玉県育ち。漫画家、コラムニスト。女子学院中学校・高等学校を経て、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。恋愛からアイドル・スピリチュアルまで幅広く執筆。著書に『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)、『大人のコミュニケーション術』(光文社新書)、『辛酸なめ子と寺井広樹の「あの世の歩き方」』(マキノ出版)など多数。
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