タクシーコミュニケーション【第17回】
辛酸なめ子『新・人間関係のルール』

ryomiyagi

2020/01/14

タクシー運転手から渡されたメモ

 

タクシーでのやりとりはコミュニケーションが苦手な身にとっては難しいです。何人かで同乗していて、運転手さんと会話をしてくれる話し好きの人がいればいいですが、一対一だと話しかけられたら感じよく答えなければと気を使います。

 

あるタクシー会社ではドライバーから客に話しかけないように指導しているとか。客が眠い場合を考えてというのと、会話からトラブルに発展するのを防止するためだそうです。

 

タクシーに乗りなれない客としては、完全に無言の運転手さんだと逆に何か気分を害したのかと気になってしまいます(止めた場所がまずかったのか、など)。

 

ベテランの運転手さんになると客が話したくないか話したいのか察せられるそうですが、初対面の他人同士なのでそこまで空気を読むのは難易度が高いです。

 

先日、Twitterで流れてきたあるタクシー運転手さんの話題が斬新でした。

 

バンドのボーカル&ギターの平野さんという男性のツイートだったのですが、12月にタクシーに乗ったら、運転手さんに「私、この仕事してるからたくさん話持ってるんで、よかったらこの中から気になる話選んでください」とメモを渡され、そこには話題のリストが書かれていたそうです。

 

Twitterにメモ画像が上げられていましたが、「税金の無い国」「相続税の無い国」「年金支給額(世界の)」「議員報酬だけではマイカーは買えない」「戦争の原因」「ハプスブルグ家」「東京国際フォーラムの建設費」「1万円札の原価」「免疫力アップ」「オゾン層の破壊」「地球温暖化」「病院は選べ」「宇宙人はいるか」「死後の世界」「ホタテ」など、気になる項目の数々が。

 

その男性は「免疫力アップ」を選んだそうです。

 

もし自分が選ばせていただくとしたら……「ハプスブルグ家」「宇宙人はいるか」「死後の世界」あたりでしょうか。

 

ちょうど先日、タクシー運転手をしながら、地球環境の破壊と宇宙への脱出法について調べている人の本を読んだばかりでした。

 

まさか同じ人ではないと思いますが、実は話してみれば知識豊富な(そして独自の理論を持った)運転手さんが多いのかもしれません。

 

「洗脳系」「説教系」「怖い話系」「下ネタ系」「感じ悪い系」「慇懃系」「癒し系」……タクシー運転手を分類する

 

これまで自分を通り過ぎていった運転手さんについて思い出してみます。タクシー運転手さんを分類するとしたら「洗脳系」「説教系」「怖い話系」「下ネタ系」「感じ悪い系」「慇懃系」「癒し系」などにわかれるでしょうか。

 

「慇懃系」は、ドアを開けてくれたり最初に挨拶をしてくれたり、室温が快適か確認したり、丁寧で紳士的な理想の運転手さんです。

 

こちらから話しかけない限りは放っておいてくれます。ありがたい存在ですが、客側の精神状態や波動が良くないと引き寄せられない気がします。

 

逆に「感じ悪い系」タクシーは、こちらが弱っていたり運気が下がっている時に遭遇する率が高いです。何年か前、低迷気味だった時に小田原で乗ったタクシーはひどかったです。

 

話しかけても「は?」と三回くらい聞き返され、間違った場所に連れて行かれた上、そのままメーターも止めず、料金が加算していきました。

 

また、昔都内で遭遇したタクシーも、乗った瞬間から「右折しにくいから、ここで乗らないでくれる?」と、60代くらいの男性にいきなり怒られ、15分間ずっと「ドア開けちゃったからしかたないけど、次からは渡って向こうから乗ってくれる?」などとイヤミを言われ続け、さらに仕事の愚痴まで聞かされました。

 

こちらが「私がいたらなくて申し訳ありませんでした!!!」と謝りギレして叫んで応酬したら、「わかった、もういいから……」と観念したように言われました。なんとなく勝った気がしましたが、未熟だった頃の思い出です。

 

「癒し系」タクシーは、猫に好かれて困る、と話していた優しそうなおじさんや、待ち時間の間トイレットペーパーで作った桜の花を見せてくれたおじさんなど。一期一会が良い思い出になります。

 

最近長崎で乗ったタクシーでは運転手のおじさんが延々と犬のかわいさ自慢をしていました。

 

「毎日一緒に寝て起きてメロメロです」「わざと目の前で犬のぬいぐるみをかわいがってみせると、ぬいぐるみに嫉妬したりしてめちゃくちゃかわいいです」と、写真を見せて犬愛を語ってくれました。

 

トークがうまい運転手さんの場合は、自然とこちらも話に乗って相づちを打てます。

 

最近はなかなか遭遇しませんが「下ネタ系」の運転手さんも、話が面白いとつい聴き入ってしまいます。過去に沖縄で遭遇した運転手さんは、出身地の夜這いの風習を教えてくれました。

 

「中学くらいになると、仲間と連れ立って夜這いに行ったもんさ。子どもだからかわいいもんで、おっぱい触っただけで逃げ帰ったよ」と、コンプラ的にアウトかもしれない話を聞かせてくれたのが記憶に残っています。

 

「説教系」も忘れ難いです。ちょっと前に大分県の火祭りに行った時のこと。神社で火の粉を浴びせられ続ける祭で、あまりの恐怖で帰りのタクシーで思わず「もう神様を信じられなくなりました」と漏らしたら、「そんなことは言わないでください……」と諭されました。今となってはいい思い出です。まじめな人柄が垣間見えます。

 

タクシーの運転手さんが突然問題を出して、答えられなかったら軽く説教された、というパターンもありました。

 

茂みの近くで「この植物なんだかわかる?」と聞かれて、同乗者の女性が「ネギ?」と答えたら「女性らしくちゃんと覚えて! これははまゆう」と怒られていました。

 

新しい知識が増えるのはありがたいので、時々博学な運転手さんに遭遇したいです。

 

ただ、眠い場合は睡眠学習的に、タクシー運転手さんの話がインプットされてしまいます。前述のバンドマンが遭遇した運転手さんも、夜遅くに「税金の無い国」「病院は選べ」といったテーマで一方的に話を聞かされたら洗脳されそうです。

 

過去に鹿児島で遭遇したのは、話し好きの女性運転手さん。こちらが眠いのに構わず、西郷隆盛の知識(「おいどん」の語源など)を延々と解説してくれました。

 

眠い時にタクシー運転手さんの話を聞くと洗脳される危険が。反応が鈍い私に業を煮やしたのか、最後の方は「女は業が深いからおなごって言うんですよ」「埋葬する時男よりも女は10センチ深く埋めないとなりません」と、男尊女卑が入った怖い話をしてきたのが未だに記憶に残っています。

 

怖い話が好きな運転手さんもいます。和歌山県に出張した合間、景勝地に案内してくれた運転手のおじさんは海辺の絶景ポイントを指差し「あそこにハシゴが見えるでしょ。まあ何かは言わないけど。消防が登り降りするハシゴね。こういう景勝地はやっぱり……。わかるでしょ」と意味深な表情で語っていました。その話を聞いて肩が重くなったような……。

 

一番スリル感じたのは、出雲でひとりで出張の合間に乗ったタクシー。観光地にくわしい運転手さんで「このタクシーで運が良かったですね。神様が結んでくれるのも良縁。人の縁が大事です」などと言われ、神社を次々案内してくれたのは良いのですが、買うお守りを指示されたり勝手に袋を開けられたり介入が激しかったです。

 

そして、縁結び運がほしくてひとりで出雲に来ている淋しい女と思われたみたいで、最終的に「私は50なんぼです。私も一人なんですけど……」とアプローチが……。「すみません、空港行ってください」とだけ答え、後は気まずい沈黙が漂いました。

 

こうやって振り返ると、普通の生活では接点がなさそうな人々と、短い時間ながら忘れ得ぬ交流ができたのは、なかなか得難い体験だったかもしれません。

 

タクシー料金の元を取ってもさらに余りがあるような……。世の中に偶然はないので、運転手さんの話の内容には、その時の自分に大切なメッセージが含まれているのかもしれません。会話をシャットダウンせず、有益な情報や豆知識を引き出していきたいです。

 

今月の教訓
心をオープンにしてタクシーに乗ると、有益な情報がもたらされるかもしれません

 

 

新・人間関係のルール

辛酸なめ子(しんさんなめこ)

1974年東京都生まれ。埼玉県育ち。漫画家、コラムニスト。女子学院中学校・高等学校を経て、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。恋愛からアイドル・スピリチュアルまで幅広く執筆。著書に『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)、『大人のコミュニケーション術』(光文社新書)、『辛酸なめ子と寺井広樹の「あの世の歩き方」』(マキノ出版)など多数。
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