マスク・ストレス【第23回】
辛酸なめ子『新・人間関係のルール』

ryomiyagi

2020/07/10

マスク着用は、あと何年?

 

これから人類は、いつまでマスクをつけ続けないとならないのでしょう……?

 

とくに夏は気温的に厳しいですが、この先、感染症との戦いが何年続くかわからず、先が思いやられます。医者に取材した人が、「聞いた話ですが、あと50〜60年はマスクし続けないとならないそうですよ」と教えてくれて、気が遠くなりました。

 

2月頃からマスクを付けはじめ、今では仕事相手の方もほとんどマスクです。

 

最初は、打ち合わせや取材などで、ずっとマスクを外さないままの方々の表情がわからなくて戸惑いがありました。相手が好意的なのか、反感を抱いているのか、今までしゃべっている時の口元で判断していたのかもしれません。

 

また、街の良識人的なおばさまやおじさまが向こうから歩いてきて、マスク姿でこちらを見られるだけで、何か非難されているような気持ちになったり……。良識者のまなざしへの潜在的な恐怖心が浮上してきます。

 

マスク警察?

 

最初は違和感があったのが、だんだん観念して新しい生活様式としてマスクを受け入れる気持ちになってきました。ただ、マスク価値観の違いでいさかいが起きることも。マスクをつけるつけないで彼と大喧嘩したという人の話も聞きました。

 

私も、苦しくてつい鼻だけ出すことが多く、そのことを注意されるとイラッとしてしまいます。命に関わる問題なので、苦しいときはマスク外呼吸の自由を認めてほしいです。

 

マスクは熱中症のリスクがあるだけでなく、マスク内で二酸化炭素濃度が濃くなることによる「高炭酸ガス血症」の危険もあるそうです。呼気の二酸化炭素をマスク内で吸っていると、血中二酸化炭素濃度が高くなり重症化すると呼吸困難や昏睡、不整脈など……。自分の吐いた息で自分がやられるとは切ないです。知人の友人がそんなに暑くない日にマスクでジョギングしていたら倒れてICUに入ったというのは、この症状でしょうか。

 

屋外だったり周りに人がいなければぜひマスクを外したいですが、最近はマスク警察がいるそうなので油断できません。それを助長しているのは、情報番組で街の様子を映して「マスクをしていない人もいます!」とか言っているマスコミなのだと思いますが……。

 

いまより5倍の表現力が必要?

 

マスク価値観の違いによる人間関係のいざこざ以外に、大きなデメリットはやはり相手の感情がわかりづらいことです。学校を取材した時、先生が、退屈しているのか興味を感じているのか、生徒の反応がわからない、と悩ましい心情を吐露されていました。むしろオンライン授業の方がマスクなしで顔の表情が見えます。

 

先日「とくダネ!」で、マスクをしたままで感情表現がどのくらい伝わるか、という興味深い実験をしていました。喜んでいる表情をしたつもりの男性が、友人に困惑の表情と受け取られたり、悲しみを表現したつもりの若い女性が、女友達に怒りや困惑の表情と受け取られていました。
若い女性は、マスクで感情が伝えにくいので、せめて前髪を薄くして眉毛の動きを伝えやすくしている、と臨機応変に対処していました。ただ、マスクをしていてどうせ見えないから笑わなくなった、というコメントも……。

 

しかし、口元だけでも笑えば目も笑っている感じになります。専門家の先生は、マスクを付けている時は、5倍の表現力が必要だと語っていました。上の歯が8本見えるくらい歯を見せて笑うと、マスクをしていても笑顔が伝わるそうです。声を1〜2トーン上げてゆったりしたテンポで話し、ジャスチャーをつけるといった感情表現がおすすめだとか。

 

飛沫感染の観点で、ついに声が小さい人間(飛沫が少ない)の時代が到来したと思っていたら、ジャスチャーやマスク下のエモーショナルな感情表現が必要という、前よりもハードルが高くなった感があります。

 

マスク・ストレスの反動?

 

そして最近感じているのは、マスクのストレスの反動です。息苦しさやコミュニケーションの不完全燃焼感を日々抱えているわけですが、マスクで抑圧されているぶん、外した時に噴出するものが……。

 

例えば、新幹線で出張帰りのビジネスマン4人が席を回転させマスクを外して宴会を始め、大声で盛り上がって、同じ車両で感染の危険を感じたという目撃報告も。

 

久しぶりの会食や飲み会でヒートアップする率が高くなっているのを感じます。先日も会食で「人間の意味とは?」というテーマで目の前で激しい論戦が繰り広げられていました。一番大声で話している人の前の大皿にある料理はとらない、ということでさり気なく自衛。

 

また、別の日にはお好み焼きの店でななめの席の男女のグループのおじさんが、酔って見苦しい感じになっていました。鉄板の上に飲み物をこぼしたり、脇をかいて匂いをかいだり、ゲップを連発したり、「明太子チーズ明太子」とわけのわからないオーダーをしてキャンセルしたり……。

 

さらに本当かどうか「君のことをプロデュースしたいな。オレは売れる曲しか書けないから。マックス松浦に連絡するよ」「宇多田ヒカルと親しくてこの前も電話したら周りの奴らに驚かれた」「ガッキーがうちの会社に来た」とか大声で喧伝していました。チラッと見たらドランクドラゴン塚地似のおじさんで業界人オーラはなく……。

 

同席の若い男女はスルーしていましたが、お酒で妄言が出ていたのでしょうか。これも日頃マスクし続けているフラストレーションのせいかもしれません。

 

会話にえげつなさが増している?

 

他人事ではなく、マスクが習慣になってから、友人との集まりで会話のえげつなさが増しているように思います。ふだん清潔を強いられているので、背徳感や不潔なもの、猥雑さに惹かれるようになっているのでしょうか。

 

先日も、美大の友人数人とホテルのラウンジで打ち合わせがてらお茶していたら、そのうちの一人の女性が霊能者にアドバイスされた話で盛り上がりました。なんと男性霊能者に「あなたの運命の相手は、陰毛がすごい濃くて毎日石鹸で洗うことに苦悩している男性です。あなたのあそこの周波数と彼のあそこの周波数が引き寄せ合っています」と言われたそうで……。しかも実際は陰毛ではなく別のあられもない表現でした。

 

自然と大きな声になって、陰毛の話を連発していたら近くのマスク姿で打ち合わせ中のスーツ男性たちがチラッと見てきたり、店員さんの迷惑そうな視線を感じました。途中からマスクをつけましたが遅かったようです。自戒の念を込めつつ、今後も、マスクの影響について見守っていきたいです。

 

マスクがきっかけで人類は進化する?

 

反対にマスクをしていて良いことは何があるのでしょう。匿名性を保てるので、今、謝罪会見をする人はちょっと得かもしれません。そして、皆、目しか見えていないので、美醜でジャッジしなくなる、というのは良いことに入るでしょうか(イケメンを判別できないのは寂しいですが)。

 

顔の中で唯一見えている目の輝き具合で人の信頼度や意欲を測ることができます。

 

コロナ禍の人類は、人の目から性格や心理を読みとる、という能力がアップしそうです。また、声のトーンで感情を察知したり……耳も鋭敏になっている気がします。顔の下半身が見えていないことで、新たな洞察力やスキルを得られることを期待します。

 

後世の人に、あの時人類はマスクがきっかけで進化した、と思われるように精進したいです。

 

今月の教訓
マスクを外した時も、節度を失わないことを心がける。

 

新・人間関係のルール

辛酸なめ子(しんさんなめこ)

1974年東京都生まれ。埼玉県育ち。漫画家、コラムニスト。女子学院中学校・高等学校を経て、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。恋愛からアイドル・スピリチュアルまで幅広く執筆。著書に『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)、『大人のコミュニケーション術』(光文社新書)、『辛酸なめ子と寺井広樹の「あの世の歩き方」』(マキノ出版)など多数。
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