交流戦の名勝負、ここに決着。 千賀と今永の投げ合いから見えた球界のトレンド
お股ニキ(@omatacom)の野球批評「今週この一戦」

bw_manami

2019/06/18

 

◆交流戦最大の山場(個人的に)

 

「今週この一戦」と名付けられている本連載で、この試合を取り上げない訳にはいかない。

 

先週14日(金)に福岡のヤフオク!ドームで行われたソフトバンク対横浜DeNA。千賀対今永という、球界屈指の投手による一戦だ。今回は予定を急きょ変更して、この試合の所感を書いてみようと思う。

 

ソフトバンクの先発は千賀滉大、対するDeNAは今永昇太。ともに今季、支配的な投球を披露し、リーグを代表する投手だ。NPBは中6日のローテーション、つまり週1での登板なので、登板予定が読みやすい。そのため個人的にも、交流戦が始まる前から「最大の山場」と勝手に位置づけていた。

 

この試合に入る前の両者の成績は、以下の通りである。

 

千賀滉大
11試合 80.0回 防1.46 105三振 四死球30 被打率.191

 

今永昇太
11試合 80.1回 防1.90 85三振 四死球31 被打率.191

 

ほぼ互角と言っても良い。

 

2人は高速、高品質のストレートを軸に、フォーク・チェンジアップやスラッターを武器とする両リーグ最高の投手である。オフの自主トレではコウノエスポーツアカデミーで共に汗を流し、拙著『#お股本』の読者でもありSNSでフォロワーくださっているなど、共通点も多い両投手の熱い投げ合いが見られた。

 

 

試合は「ハイレベルな投手×狭いヤフオクドーム」らしい展開となり、タイムリーヒットは1本もなく得点のほとんどがホームランによるものだった。両チームとも二桁三振を記録し「三振かホームランか」という、4月に今永が菅野(巨人)に負けた試合と似た展開になった。千賀、今永の降板後も高橋純平や松田遼馬、三嶋やエスエスコバーら球速150キロを超える豪腕リリーフが続々と登板した。

 

◆エアポケットにハマった千賀

 

 

初回からストレートは158キロ~159キロを計測し、順調な立ち上がりを見せた千賀。2回は筒香に四球を与えるも併殺で切り抜け、3回も2アウトまでスイスイとアウトを重ねる。横浜側にもこれは打てない……といった雰囲気が流れ初めていたが、ここで千賀がエアポケットにハマる。

 

9番の柴田に対して、置きにいった2球目。アウトコースを狙った150キロのツーシームがインコースに甘く入り、まさかのホームラン。伏兵の一発に、千賀は僅かに動揺を見せた。その後も相手打線を抑え続けるものの、これまでより神経質な投球となり、球数以上に精神的なスタミナも消耗したに違いない。そのことが、後の展開につながる。

 

なお、身長167センチと小柄な柴田ではあるが、実際にはパンチ力も秘めている。必要以上に大きな反動をつけたり身体を入れ過ぎなくても、千賀から打ち込む力を持っている(しかも、ヤフオクドームのホームランテラスではなくスタンドまで)。

 

その後の打席でも千賀からヒットやヒット性のライナーを放ち、守備力には定評のある柴田にとって、打撃面のターニングポイントとなった可能性がある。自分で(あるいは周りが)タイプを決めつけすぎず打っていくことを期待したい。

 

その後、松田宣浩のソロホームランで1対1の同点で迎えた6回。この試合の分岐点が訪れる。

 

先頭の3番宮崎、4番筒香の連打でピンチを迎えると、5番のロペスには追い込みながらツーシームがすっぽ抜けて死球を与え、ノーアウト満塁のピンチ。6番の佐野は三振に仕留めるも、やや球威の落ち始めたストレートがレフトポールギリギリのファールになるなど、危険な兆候が出始めていた。

 

そして、『#お股本』でも登場する7番打者のネフタリ・ソトを迎えた。

 

今季のソトはトップの作り方やタイミングのとり方にやや難があって三振が多く、この日も2打席連続で三振を喫していた。一方でホームランは相変わらず打っていて、前日まで3試合連続でホームランを放っていた。そして、その全てがアウトハイのストレートだった。

 

初球、真ん中のフォークをファールにした後の2球目。試合後のインタビューで「外に外すはずだった」という155キロのストレートが抜けてアウトハイに入ったところを、ソトが独特の振り遅れたように見えるスイングでライトポール際にフラフラと打ち上げた。すると打球はスタンドイン。千賀は今季30打数被安打3と圧倒していた満塁のピンチで、プロ入り後初めて満塁ホームランを喫した。

 

これで試合の行方は決したと言っていい。打たれた瞬間、千賀はマウンド近くで膝をついてうなだれ、しばらく立ち上がることができなかった。そこしか打てないコースにピンポイントで投げてしまい、痛恨の一球となった。

 

その様子を見ていた今永も、自分が打たれたかのような悲痛な表情をしていたのが印象的だ。同業者の投手だけに千賀の痛みがわかったのだろうか。いつ自分がその立場になるかわからないという戒めともなったに違いない。

 

◆「球の速い変化球投手」千賀vs.「本質的速球派投手」今永

 

千賀はジャイロ回転のフォークやスラッターが得意なタイプに多い、やや軸の傾いた軌道のため、スピードの割にはこの日の柴田やソトのようにホームランを打たれることもあり、実は球速で圧倒しつつ変化球を振らせる「球の速い変化球投手」とも言える。器用にいろいろな変化球を投げ分けることができる。また、ストレートは球速が速すぎるので打者から見ると、ホップするのを感じる前にボールが着弾してしまう面もある。

 

今後はさらにストレートの質を上げることが出来たら、文字通り無敵となれる。要所での制球力や精神力を高め、配球を磨き、さらなる高みを目指してほしい。

 

一方、平均球速146キロの今永は、153キロを超える千賀と比較するとスピードこそ遅いが、ストレートの「質」はより高い。2500回転を超える高回転の、バックスピンでホップするような軌道で多くの空振りやポップフライを奪い、指標でも両リーグトップである。

 

今永のようなストレートの質が高い「本質的速球派投手」は、フライが多くなる。千賀相手に連打は難しく、狭いヤフオクドームでホームランを狙う戦略をとるために、ソトをセカンドのポジションで起用した。相手打線がゴロを打つ割合が低いと踏んだ、ラミレス監督の合理的な起用が当たったと言えるだろう。

 

超一流投手を崩すには下位打線の意外な一発などが必要になると『#お股本』でも記載した通り、DeNAは柴田のホームランで千賀を揺さぶり、守備のリスクが小さいと判断しセカンドで起用したソトが決勝のホームランを放った。

 

バントを決めてタイムリーヒットを打った=打線が繋がったと言った単純な戦術ではなく、下位打線から圧力をかけた面も含めて、打順論や戦術が現れた一戦だったと言える。

 

ソフトバンクも昨年の終盤から打撃が伸びている甲斐拓也が、千賀が満塁ホームランを打たれた直後のイニングでソロホームランを放ち、文字通り女房役として千賀を援護した。

 

 

◆松田宣浩の「前さばき」

 

最後に触れておきたいのが、この日今永から2本のソロホームランを放った松田宣浩である。松田は「前テギュン打法」で知られるように、ポイントを前においてやや前さばきで長打を放つ選手である。さらに今季は振り回すだけでない「8割の力感」も会得しており、非常に勝負強い。

 

今永のスラッターとチェンジアップのような、ピッチトンネルから変化するボールを打つには変化しきる前に、少し前で捌いてしまうのもひとつの手ではないかと書いた『#お股本』の推論の通り、前さばきでスラッターとチェンジアップをホームランにした。

 

今永はホップ型高回転フォーシームにスラッターとチェンジアップ、時折カーブでカウントを稼ぐスラットカーブ理論+チェンジアップの「王道ピッチ」で松田と甲斐のソロホームラン3本による3失点に抑え、両リーグ最高の投手の対戦を制した。ストレートの質が高いと、配球面が楽になるし、苦しいカウントでもストレートで攻めることが可能となるから有利だ。

 

いずれにせよ、エンターテインメントとしての見所と現代野球のトレンドが詰まった、ハイレベルな至高の一戦だった。

 

今週の用語
「ネフタリ・ソト」→P65
「ストレートの質」→P77
「千賀滉大」→P94
「前さばき」→P147
「下位打線の意外な一発」→P218
気になる人は『セイバーメトリクスの落とし穴』で要チェック!

お股ニキ(@omatacom)の野球批評「今週この一戦」

お股ニキ(@omatacom)(おまたにき)

野球経験は中学の部活動(しかも途中で退部)までだが、様々なデータ分析と膨大な量の試合を観る中で磨き上げた感性を基に、選手のプレーや監督の采配に関してTwitterでコメントし続けたところ、25,000人以上のスポーツ好きにフォローされる人気アカウントとなる。 プロ選手にアドバイスすることもあり、中でもTwitterで知り合ったダルビッシュ有選手に教えた魔球「お股ツーシーム」は多くのスポーツ紙やヤフーニュースなどで取り上げられ、大きな話題となった。初の著書『セイバーメトリクスの落とし穴』がバカ売れ中。大のサッカー好きでもある。
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