ハーパー、マチャドではなくブラントリー、ルメイヒューを選んだアストロズとヤンキースの慧眼
お股ニキ(@omatacom)の野球批評「今週この一戦」

bw_manami

2019/10/01

 

昨年も停滞したMLBのFA市場。20代のスーパースター、ブライス・ハーパーとマニー・マチャドも例外ではなく、その契約は2月下旬にスプリングトレーニングが始まっても決まらなかった。

 

最終的には10年3億ドルを超える超大型契約でハーパーはフィラデルフィア・フィリーズと、マチャドはサンディエゴ・パドレスと契約を結んだものの、両者とも金額に見合うような圧倒的な成績は残せずチームもポストシーズン進出を逃した。

 

一方で、今季世界一に最も近いのが一昨年の王者である「最強」ヒューストン・アストロズと、「悪の帝国」ニューヨーク・ヤンキースだ。

 

資金力と人気、確かなチーム力を誇る両チームが今シーズンの新戦力に選んだのは、ハーパーやマチャドではなかった。アストロズはマイケル・ブラントリー(クリーブランド・インディアンスからFA)と12月に、ヤンキースはD.J.ルメイヒュー(コロラド・ロッキーズからFA)と1月に早々と2年契約を結んだ。これが大当たりの補強となっている。

 

今回は、この2人によってチームがそれぞれどう変わったかを解説したい。

 

◆タレント揃いのアストロズ打線の「ラストピース」

 

データ分析による育成や目の肥えたドラフト戦略によってホゼ・アルトゥーベやアレックス・ブレグマン、カルロス・コレアやジョージ・スプリンガーなどの圧倒的な右打者を複数、センターラインや内野に揃えるアストロズ。そんな圧倒的なタレントを「つなぐ」バランサーがブラントリーである。

 

インディアンス時代から左の中距離打者、アベレージヒッターとして故障がなければ打率3割、20本塁打程度が期待できたブラントリー。そんな彼のことを、アストロズは何年も前から追いかけてきたのだという。FAとなると真っ先に交渉し、契約。

 

データや理論を重視し、フライボール革命とハードヒット、バレルを狙うチームはブラントリーのコンタクト能力やバランスを得て、リーグで最も三振をしないチームとなった。

 

アストロズの守備は、投手陣の奪三振数がメジャー最多で三振を当然のように奪えるうえに、相手に応じてシフトを適切に多用し、ホップする回転効率の高いストレートではフライを打たせ、変化球ではゴロを打たせてシフトの網にかけるのが特徴だ。

 

攻撃と守備は表裏一体であり、打撃はその逆をすれば良い。「三振は恐れないが三振はせず」、浅いカウントではハードヒットをし、時には相手の守備シフトの裏をついたり、逆方向への打撃やコンタクト中心の打撃で安打を狙う。

 

そうした役目を果たすのがコンタクト能力に優れたブラントリーなのである。ブラントリーは3番や4番に入って右の若い強打者たちの間に入って打線をつなぐ「バランサー」の役目を果たし、ただ長打を放つだけではなくシフトの裏をつく打撃や逆方向への打撃も適切に使い分けられるようになった。

 

彼の存在で完成度の高まったアストロズ打線は、かつてベーブ・ルースらが所属した1927年の「史上最強」と言われるヤンキース打線に次ぐ最強クラスの打線となり、死角は見当たらない。

 

◆レッドソックスへの「完敗」を糧に変わったヤンキース

 

一方、ヤンキースもレギュラーショートのディディ・グレゴリウスがトミージョン手術の影響で前半戦は出場できず内野手の補強が急務であったところ、ルメイヒューを獲得した。

 

コロラド・ロッキーズ時代の2016年には打率.348でナ・リーグの首位打者に輝いたこともあり、セカンドを本職とするもののファーストもこなせる。アベレージを残せる中距離打者かつゴールドグラブ賞の経験もあるユーティリティプレーヤーの獲得は、チーム本塁打が300本を超え、二桁本塁打の打者が14人を超える「ホームラン量産打線」の貴重なスパイスとなった。

 

1番打者として.330近い打率を残して2度目の首位打者争いを演じるだけでなく、ヤンキースの史上最長記録になる28試合連続ホームランを放ったシーンも印象的だった。得点圏打率は4割を超える勝負強さを発揮して、アストロズのアレックス・ブレグマンやエンゼルスのマイク・トラウトらとともにア・リーグのMVPの候補ともなっている。

 

ボールが飛び、誰もが長打を狙いホームランを打てる現代だからこそ、ブラントリーやルメイヒューのような「バランサー」「中距離打者」「アベレージヒッター」の価値が高まる。

 

彼らの存在は打線を「点」から「線」にし、得点力の源泉となる。ただ打ち上げたりホームランを狙ったりするのではなく、15~20度の打球角度を中心とした穴のない打撃や状況に応じたバッティングをできるのが真の王道である。これは拙著『セイバーメトリクスの落とし穴』でも予測したことである。

 

ただ振り回して長打を狙うだけでなく、ハードヒットを狙いつつ常に出塁してつながる。昨年、こうした攻撃を実践するレッドソックスに完敗して感銘を受けたヤンキースの中心選手アーロン・ジャッジは「必要以上に振り回さずコンタクトや逆方向への打撃、チームバッティングをキャンプで意識して練習している」との内容を語っていたが、ヤンキース打線はまさにその通りとなっている。超長距離打者のマイク・スタントンが故障で長期離脱しても、かえってつながりが増したくらいで、穴を全く感じさせなかった。

 

◆ソフトバンクとDeNAの失速にも「バランサー」不在の影響が

 

ブラントリーやルメイヒューのような中距離打者やアベレージヒッターの重要性が高まるのは、アメリカの流れを追随する日本も同様だ。ほとんどの選手が長打を狙う環境だからこそ、こうした選手が成績を残すことは当然であり、また打線をつなぐ鍵ともなる。

 

今季、2年連続でリーグ優勝を逃した福岡ソフトバンクホークス。パ・リーグ最多183本のホームランを放ちながら打線につながりを欠き、チーム得点はリーグ4位に終わった。この低調には、当然だが主砲の柳田悠岐、そしてチームのバランサーである中村晃の離脱が大きかったと言える。

 

長打と高打率の両立が可能で四球も選べる「最強」の柳田と、優れたコンタクト能力を生かしたしぶとい打撃で相手投手を疲弊させつつ四球を選べる中村晃は、右の積極的な打者が多いチームにおいて貴重すぎる存在だ。彼らの不在が、四球を減少させバントの多用とソロホームランの増加、ひいては得点力の低下に至ったのは間違いない。

 

横浜DeNAベイスターズでも、元首位打者の宮崎敏郎が似たような役目を果たす。筒香やロペス、ソトと言った長距離打者が多いチームにおいては、宮崎のようなアベレージヒッターの存在が不可欠となる。宮崎のようなタイプは、ある意味においては「打率3割、30本」を狙うよりも、筒香の後ろやロペス、ソトらの間で「打率.330、15本」を打ってくる方が相手からすればいやらしく感じるだろう。DeNAが最後は息切れしてしまったのには、宮崎が有鉤骨の骨折で離脱した影響も大きい。

 

選手の流動性が乏しい日本球界では、アストロズやヤンキースのようにFAで手軽にブラントリーやルメイヒューのような選手を補強するのは難しい。

 

コンタクトを重視した打撃とその指導は日本の得意分野でもあり、優秀なバランサーを自前で育成できたら長く活躍し、影から打線を支える貴重な存在となる。

 

表面上のチーム成績やOPSなどだけではない、真の「打線のつながり」にはこうした選手の存在が不可欠と言えるだろう。

お股ニキ(@omatacom)の野球批評「今週この一戦」

お股ニキ(@omatacom)(おまたにき)

野球経験は中学の部活動(しかも途中で退部)までだが、様々なデータ分析と膨大な量の試合を観る中で磨き上げた感性を基に、選手のプレーや監督の采配に関してTwitterでコメントし続けたところ、25,000人以上のスポーツ好きにフォローされる人気アカウントとなる。 プロ選手にアドバイスすることもあり、中でもTwitterで知り合ったダルビッシュ有選手に教えた魔球「お股ツーシーム」は多くのスポーツ紙やヤフーニュースなどで取り上げられ、大きな話題となった。初の著書『セイバーメトリクスの落とし穴』がバカ売れ中。大のサッカー好きでもある。
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