「六代目圓楽襲名」【第60回】著:広瀬和生
広瀬和生『21世紀落語史』

21世紀早々、落語界を大激震が襲う。
当代随一の人気を誇る、古今亭志ん朝の早すぎる死だ(2001年10月)。
志ん朝の死は、落語界の先行きに暗い影を落としたはずだった。しかし、落語界はそこから奇跡的に巻き返す。様々な人々の尽力により「落語ブーム」という言葉がたびたびメディアに躍るようになった。本連載は、平成が終わりを告げようとする今、激動の21世紀の落語界を振り返る試みである。

 

三遊亭楽太郎は2010年2月28日放送の『笑点』で六代目圓楽襲名披露口上を行ない、3月1日から正式に六代目となった。

 

1950年2月8日生まれの楽太郎が五代目圓楽に入門したのは1970年4月。入門40年で還暦を迎える2010年春に襲名が行なわれることは2008年8月8日にマスコミ発表されている。この日程は五代目と相談して決めたものだ。本来は五代目も披露口上に並ぶ予定で、襲名後は「五代目と六代目の2人の圓楽がいる」という形になるはずだったが、五代目が前年に亡くなったため、それは叶わなかった。

 

六代目襲名披露興行は、3月3日の高知県立県民文化ホールを皮切りに、12月まで全国で80ヵ所以上を廻る大々的な規模で行なわれた。東京では3月15日に新橋演舞場において桂歌丸、三遊亭小遊三、笑福亭鶴瓶、立川志の輔、春風亭小朝らを迎えての襲名披露落語会が開かれている。(僕自身は同日に東京芸術劇場中ホールで開かれた「柳家喬太郎独演会」に行ったので観ていない)

 

『笑点』メンバーである六代目圓楽がホール規模で大々的に全国を廻るのは当然だが、特筆すべきは東京の寄席の定席でも襲名披露興行が行なわれたこと。通常、圓楽一門会は寄席の定席には出られないが、「東京かわら版」2010年3月号のインタビューによると、六代目圓楽は「寄席で披露目をやらせてほしい」と鈴々舎馬風(落語協会会長)及び桂歌丸(落語芸術協会会長)に掛け合い、両会長が理事会に諮ったところ、芸協では満場一致で賛同を得たということで、芸協の興行の中での圓楽襲名披露が行なわれた。(つまり落語協会では却下されたということだ)

 

上野鈴本演芸場には芸協は出演できないため、寄席での六代目圓楽襲名披露興行は3月下席の新宿末廣亭(夜の部)、4月上席の浅草演芸ホール(昼の部)、4月中席の池袋演芸場(夜の部)で行なわれた他、国立演芸場では4月中席前半5日間での変則興行となった。(国立の定席は昼のみ)

 

その中で僕が足を運んだのは3月24日の新宿末廣亭。平日の夜にもかかわらず大盛況だった。いずれにしても披露目というのは楽しいものだが、普段は寄席に出ない圓楽が出演するという「特別興行」感が、ひときわ心浮き立つお祭りムードを盛り上げていた。当日の出演者と演目は以下のとおり。

 

柳亭小痴楽『浮世床(将棋)』
ぴろき(ギタレレ漫談)
三遊亭竜楽『手紙無筆』
桂枝太郎『自家用車』
Wモアモア(漫才)
桂歌春(漫談)
三笑亭夢之助(漫談)
北見伸&ココア(マジック)
三遊亭鳳楽『町内の若い衆』
桂歌丸『粗忽長屋』
〜仲入り〜
六代目三遊亭圓楽襲名披露口上(桂歌丸・三遊亭小遊三・三遊亭鳳楽・桂歌春/司会・桂米助)
東京ボーイズ(歌謡漫談)
三遊亭小遊三『やかん』
桂米助『猫と金魚』
ボンボンブラザース(曲芸)
三遊亭圓楽『薮入り』

 

あの強烈な個性を持つ五代目圓楽の後だけに、通常ならば先代の印象が強く残り、なかなか「新しい圓楽」には馴染みにくいところだが、何しろ毎週『笑点』で「圓楽さん」と連呼されるのだから、あっという間にその名は浸透した。これほどスムーズな襲名も珍しい。

 

寄席での披露目を大成功させた圓楽は、それから7年後の2017年6月、五代目圓楽一門会に所属しながら客員として落語芸術協会に入会、寄席の高座に上がるようになった。この入会は圓楽個人としてのもので、弟子たちは圓楽一門会所属のままだ。

 

ちなみに芸協は2017年11月から新宿末廣亭での興行に圓楽党や上方、立川流などからのゲストを入れるようになった。これは2011年に社長に就任した真山由光氏が芸協に要請してきたことがようやく聞き入れられたもので、圓楽の芸協入りと直接の因果関係はないが、「芸協のあり方」として捉えると、同じ流れにあるのかもしれない。

 

「大銀座落語祭」の項でも触れたが、圓楽は自らプロデュースする「博多・天神落語まつり」を2007年に開始、規模を拡大しながら毎年開催している。この功績は大きい。

 

派手に打ち上げて落語ブームに火を付けた小朝の「大銀座落語祭」とは異なり、「博多・天神落語まつり」はマスコミ向けにアピールする性格のものではない。あくまで地元に密着したご当地イベントだ。それでいて、出演者の顔ぶれを見ると「よくぞこれだけ集めたものだ」というくらい、東西の人気者が一堂に会している。肝心なのは、それを「毎年続けている」ということだ。これができるのは圓楽だけだろう。

 

2019年5月末には圓楽プロデュースによる初の「さっぽろ落語まつり」も開催。これまた志の輔、鶴瓶、花緑、米團治等々、東西の人気者が顔を揃えたラインナップだ。

 

協会の壁を越えたイベントを着実に続けている当代圓楽は、「現代に通用する古典落語」を確立した五代目とはまた別の形で、落語界に大きく貢献している。

21世紀落語史

広瀬和生(ひろせかずお)

1960年生まれ。東京大学工学部卒。ハードロック/ヘヴィメタル月刊音楽誌「BURRN! 」編集長。落語評論家。1970年代からの落語ファンで、年間350回以上の落語会、1500席以上の高座に生で接している。また、数々の落語会をプロデュース。著書に『この落語家を聴け! 』(集英社文庫)、『落語評論はなぜ役に立たないのか』(光文社新書)、『談志は「これ」を聴け!』(光文社知恵の森文庫)、『噺は生きている』(毎日新聞出版)などがある。
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