「プチ落語ブーム」を支えた二ツ目の活躍【第73回】著:広瀬和生
広瀬和生『21世紀落語史』

bw_manami

2019/08/08

21世紀早々、落語界を大激震が襲う。
当代随一の人気を誇る、古今亭志ん朝の早すぎる死だ(2001年10月)。
志ん朝の死は、落語界の先行きに暗い影を落としたはずだった。しかし、落語界はそこから奇跡的に巻き返す。様々な人々の尽力により「落語ブーム」という言葉がたびたびメディアに躍るようになった。本連載は、平成が終わりを告げようとする今、激動の21世紀の落語界を振り返る試みである。

 

ビジネス誌から女性誌に至るまで、様々な雑誌からの「落語特集」のための原稿を依頼されることが急に増えたのが2016年~2017年頃だった。ジャニーズのアイドルグループHey!Say!JUMPが出演するバラエティ番組「スクール革命!」(日本テレビ系)の2016年11月20日放送分では「今ブームの落語が見られる 寄席の楽しみ方」なる特集が組まれ、僕も八乙女光に寄席鑑賞の手ほどきをするガイドとして出演した。

 

ちなみに、この「スクール革命!」出演時に驚いたのは、打ち合わせで制作スタッフの1人に「寄席に行くには服装は自由なんですか?」と真面目に訊かれたこと。「落語って、一般的にはまだそんな程度の認識なんだ」と愕然としたのもさることながら、「これくらい落語に興味がない人も巻き込む状況が来てるのか」という新発見でもあった。もっとも、本当に「ブーム」が来てるのであればこういう質問が出てくることもないはずで、「一部でジワジワ来てる」という程度の「プチ落語ブーム」だったわけだが。

 

マスメディアを巻き込む形になったのは2016年だったが、その少し前から「落語界に新しい風が吹き始めている」という空気を感じている関係者はいた。2016年1月発行の書籍『らくごころ~落語心~』(ぴあ)の背には「今、演芸が面白い!」というタタキ文句が躍り、編集部による「まえがき」の冒頭にはこう書かれていた。

 

「首都圏を中心に、演芸界に新しい風が吹き始めている。2015年現在で噺家の数は全国で800名を超えて、過去最高の人数となった。若手たちは多くのライバルたちとしのぎを削りながら芸を磨いている」

 

ここで「落語界」ではなく「演芸界」という書き方をしているのは、間違いなく「講談師・神田松之丞の台頭」を念頭に置いているからだ。この本の企画には落語家写真の第一人者として知られ芸人たちから信頼の厚い橘蓮二氏が関わっており、橘氏の撮影した高座写真が豊富に掲載されているが、巻頭のカラーグラビアには立川志の輔、春風亭昇太、笑福亭鶴瓶といった全国区の人気者と並んで神田松之丞の写真が大きくフィーチュアされている。つまり、2015年の企画段階で既に松之丞人気はそこまで高まっていたということだ。

 

ちなみにこの本の副題は「十人のキーパーソンに訊く演芸最前線」。鈴本演芸場の席亭・鈴木寧氏や演芸プロデューサーの木村万里氏、らくごカフェ主宰・青木伸広氏、「渋谷らくご」キュレーターのサンキュータツオ氏、北沢タウンホールや成城ホールで様々な企画を提供し続けていた統括兼プロデューサー(当時)の野際恒寿氏といった関係者へのインタビューで構成された内容で、全体を貫くトーンは「若手の台頭で新しい波が来ている」というものだった。

 

「プチ落語ブーム」前後の動きをまとめてみると、次のようになる。

 

●2013年9月、芸協の二ツ目ユニット「成金」発足、11月正式スタート。メンバーは柳亭小痴楽、瀧川鯉八、桂宮治、春風亭昇々、春風亭昇也、春雨や雷太(現・桂伸三)、神田松之丞他

 

●2014年4月~9月、フジテレビ系列で深夜バラエティ『噺家が闇夜にコソコソ』放送。(司会)立川談春、今田耕司、壇蜜。(出演)桃月庵白酒、春風亭一之輔、立川談笑、林家彦いち、春風亭ぴっかり☆他)

 

※このレギュラー化に先立ちパイロット版が2013年12月29日深夜に放送されている。

 

●2014年11月、渋谷区円山町のライブスペース「ユーロライブ」で「渋谷らくご」(シブラク)スタート。落語初心者の若者でも気軽に足を運べる落語会を標榜し、キュレーターにサンキュータツオ(米粒写経)を起用。

 

●2015年12月28日、TBSが立川談春『赤めだか』テレビドラマ版を放送。談春の入門から二ツ目昇進までを描き、談春役で二宮和也、談志役でビートたけし、志の輔で香川照之、志らく役で濱田岳が出演。

 

●2016年1月、雲田はるこ氏が「ITAN」(講談社)で連載中(当時)の女性漫画『昭和元禄落語心中』がテレビアニメ化。MBS他『アニメイズム』B2枠での放送で、同年4月まで第1期放送、第2期は2017年1月~3月。テレビアニメ化が発表されたのは2014年12月のこと。2010年に連載開始した原作は「ITAN」2016年6月7日発売号で完結している。

 

●2016年3月、NHK総合テレビで特番「超入門! 落語 THE MOVIE」初放映。落語家の口演に合わせて役者が登場人物を口パクで演じるバラエティ番組。同年7月、二度目の特番放送があり、10月から週一のレギュラーとして2017年2月まで放送。番組ナビゲーターは濱田岳。2017年10月に再開し、2018年3月まで放送された。

 

●2016年4月30日桂歌丸が『笑点』を5月22日の放送をもって勇退することを発表。次期司会者、新加入メンバーが誰かマスコミで話題に。

 

●2016年5月22日、春風亭昇太が『笑点』新司会者に。5月29日、林家三平が『笑点』新メンバーとして初登場。

 

●2016年10月より立川志らくがTBS系「ひるおび」のレギュラーコメンテーター(月~金:午前の部)として出演開始。2017年上半期テレビ番組出演本数ランキングの「ブレイクタレント」部門で1位に輝く。

 

●2017年1月、「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で2010年より連載していた尾瀬あきら氏の落語漫画『どうらく息子』が完結、コミックス最終巻は6月発売。

 

●2017年6月、書籍『落語の入り口』(フィルムアート社)出版。表紙イラストは雲田はるこ氏。雑誌の落語入門特集を拡大したような方向性の書籍で、雲田はるこ氏のインタビューも収録。

 

●2018年10月12日から12月14日までNHK総合テレビでドラマ版『昭和元禄落語心中』放送。岡田将生、竜星涼、山崎育三郎、成海璃子他が出演。

 

この中で、『どうらく息子』というのは26歳で落語の世界に入門した若者が主人公の青年漫画で、徹底した取材に基づき極めてリアルに「落語の世界の現実」を描いた作品。その本格的な内容は落語ファンに好評だった。完結の段階で主人公はまだ二ツ目。

 

『どうらく息子』は2014年9月発売の第1集から2015年3月発売の第7集まで、コンビニ用の廉価版が毎月発売され、そこには僕が二ツ目をインタビューで紹介する「この二ツ目も聴け!」というコーナーが連載された。紹介したラインナップは次のとおり。

 

第1回:鈴々舎馬るこ

第2回:三遊亭粋歌

第3回:立川笑二

第4回:柳亭こみち

第5回:林家たけ平

第6回:立川志の春

第7回:古今亭駒次(現:駒治)

第8回:春風亭ぴっかり☆

第9回:桂宮治

 

「この二ツ目も聴け!」は、『どうらく息子』の主人公が前座から二ツ目に昇進したことを記念する企画だったが、こういう企画が成立するくらい、2014年の時点で既に「二ツ目の活躍」は顕著になっていたということだ。

21世紀落語史

広瀬和生(ひろせかずお)

1960年生まれ。東京大学工学部卒。ハードロック/ヘヴィメタル月刊音楽誌「BURRN! 」編集長。落語評論家。1970年代からの落語ファンで、年間350回以上の落語会、1500席以上の高座に生で接している。また、数々の落語会をプロデュース。著書に『この落語家を聴け! 』(集英社文庫)、『落語評論はなぜ役に立たないのか』(光文社新書)、『談志は「これ」を聴け!』(光文社知恵の森文庫)、『噺は生きている』(毎日新聞出版)などがある。
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