「談志の孫弟子世代」が熱い【最終回】著:広瀬和生
広瀬和生『21世紀落語史』

bw_manami

2019/09/26

21世紀早々、落語界を大激震が襲う。
当代随一の人気を誇る、古今亭志ん朝の早すぎる死だ(2001年10月)。
志ん朝の死は、落語界の先行きに暗い影を落としたはずだった。しかし、落語界はそこから奇跡的に巻き返す。様々な人々の尽力により「落語ブーム」という言葉がたびたびメディアに躍るようになった。本連載は、平成が終わりを告げようとする今、激動の21世紀の落語界を振り返る試みである。

 

談志亡き後、志の輔、談春、志らくといった立川流の人気真打はますます存在感を強めていった。

 

渋谷・パルコ劇場での正月1ヵ月公演で2011年に究極の名作『大河への道』を発表した志の輔は、下北沢の本多劇場で『怪談牡丹灯籠』全編を語る公演、赤坂ACTシアターでの『忠臣蔵』全段を解説してから『中村仲蔵』を演じる公演などを定着させる一方、2013年オープンの六本木EXシアター、2017年オープンの銀座・観世能楽堂、2019年オープンの東京建物BrilliaHALLといった新たな会場で次々に企画公演を行なうなど、落語界のトップランナーとしての勢いは増すばかり。2015年には紫綬褒章を受賞した。建物の改築で2016年をもって休止していたパルコ正月公演も2020年には復活する。

 

談春は『ルーズヴェルト・ゲーム』(TBS系/2014年)、『下町ロケット』(TBS系/2015年、2018年)といったテレビドラマや大野智(嵐)の主演映画『忍びの国』(東宝/2017年)への出演などで知名度をさらに高めたが、驚いたのは志らくの大ブレイク。昼のテレビ情報番組『ひるおび!』(TBS系)に2016年10月からレギュラーコメンテーターとなった志らくは月曜から金曜まで毎日出演、2017年度上半期テレビ出演本数ランキングの「ブレイクタレント」部門で1位に輝くと、様々なバラエティ番組に進出して「テレビで売れた芸能人」の仲間入り。2019年9月30日からは『昼おび!』の他に朝の情報番組『グッとラック!』でMCを務めることになった。

 

今や志の輔、談春、志らくの存在は「立川流」という枠組みを超越している。それはある意味談笑にも当てはまることで、着実に新規ファン層を獲得してきた今の談笑からは、かつてのマニアックな色合いは完全に消えている。志らくは「談志のDNAを継ぐ者」という自負を前面に出しているが、それはあくまでも「志らく個人のキャラ」であって、立川流という団体とは無関係。むしろ志らくは談志の「あとは勝手にしろ」という生前のメッセージを受けて「それぞれが独立すべき」とする立場で、立川流解散説を唱えることさえある。

 

だが、そんな流れに逆らうようにあえて「立川流」という括りを前面に押し出す動きを見せているのが、談笑に入門してわずか1年5ヵ月で二ツ目となった立川吉笑だ。

 

談志亡き後の立川流は「談志の孫弟子」世代が熱い。吉笑はその象徴的な存在だ。彼の「論理を弄ぶ新作落語」は他には類を見ないタイプの斬新なものであり、そのアクロバティックな着想をきちんと観客に伝えて笑いに転換する技術を持っている。2015年以降の「二ツ目ブーム」的な状況の中で吉笑が頭角を現わしたのは当然と言えるだろう。

 

落語そのものの面白さ以外での吉笑の最大の特徴は、各種メディアへの積極的なアプローチだ。2017年からNHKのEテレで不定期で放送されている「落語ディーパー!~東出・一之輔の噺のはなし~」にレギュラー出演している他、2018年10月から2019年3月には文化放送のナマワイド番組「SHIBA-HAMAラジオ」の水曜パーソナリティーを瀧川鯉八とのコンビで務め、雑誌では「中央公論」(中央公論新社)に『炎上するまくら』、「クイック・ジャパン」(太田出版)に『次世代落語家研究所』を連載。ニコ生配信のトーク番組『WOWOWぷらすと』のMC陣の1人でもあり、水道橋博士のメールマガジン「メルマ旬報」での連載『立川吉笑の現在落語論』は大幅な加筆修正を経て毎日新聞出版社より『現在落語論』(2015年)として書籍化。他にも様々なメディアに出没している。このバイタリティは凄い。

 

ちなみに吉笑のモットーは、「立川流は『前代未聞メーカー』であるべき」だという。自分のモットーにあえて「立川流」を持ってきているところに吉笑らしさがある。

 

吉笑の『現在落語論』は、「落語とは何か」「落語には何ができるか」を明解に論じた名著だ。落語を漫才やコントと同列の「笑いを表現する手法」と捉え、演者側からの技術論・方法論を軸にしているという点で非常にユニークであり、その論理展開にはまったく破綻がない。

 

その本のあとがきで、吉笑はこう書いた。

 

「寄席という絶対的な基盤がないにもかかわらず自分が帰属している場所としてたしかに存在する『立川流』というものに、どれだけ安心感を与えられているか。そして、そこに集う同志と呼ぶべき存在にどれほど助けられているか」

 

そうした吉笑の想いによって2017年1月に始まったのが、毎月17日に上野広小路亭で開催される「マゴデシ寄席」である。

 

2016年8月8日、当時「立川流」という括りで語られることも少なくなり、また立川流の落語家自身がそれを語ることも少なくなってきたと感じていた吉笑の音頭取りで「立川流が好きっ!」というトークイベントが新宿・LOFT/PLUSONEで開かれた。出演はMCの吉笑の他に志ら乃(志らく門下)、こはる(談春門下)、談吉(左談次門下/当時)、志の太郎(志の輔門下)、寸志(談四楼門下)。このメンバーで同年12月21日に深川江戸資料館で開かれた落語会が「立川流孫弟子の会立川流が好きっ!」で、2017年からの「マゴデシ寄席」毎月開催がその場で発表された。

 

吉笑曰く、自分自身を含めて立川流は皆、いわば独演会至上主義なところがあり、「自分の会で自分の表現を追究して観客を増やしていく」ことに力を注いでいるけれども、せっかく個性豊かなメンバーがいるのだから、定期的に一緒にやる場所を確保できれば、改めて「立川流」という存在をアピールできるはずだ、と思ったのだという。「自分ができる範囲で立川流という括りを残していこう、広めていこうと思って立ち上げた」と。

 

「マゴデシ寄席」とは別にトークイベント「立川流が好きっ!」も引き続き2017年4月、11月、2018年1月に行なわれ、2017年8月16日には国立演芸場で「落語会『立川流が好きっ!』」が開かれた。出演は2016年と同じく志ら乃、こはる、談吉、志の太郎、吉笑、寸志。「マゴデシ寄席」の情報は「立川流が好きっ!」のサイトで発信される仕組みだ。

 

なお吉笑は立川流の枠組みとは別に春風亭昇々、瀧川鯉八、玉川太福(浪曲)らと2017年に「ソーゾーシー」というユニットを立ち上げた。こちらは昇々から「新作落語の凄さをもっと発信していきたい」と持ちかけられたもの。気鋭の若手学者などをゲストに迎えての「吉笑ゼミ。」を続けていることも含め、こういうハイブリッドな動きに積極的なところも吉笑らしい。

 

「マゴデシ寄席」「立川流が好きっ!」とは別に、吉笑は「立川流の飛び道具」こしらとの二人会「伝統芸能鑑賞会」を2019年に立ち上げ、年内に3回実施。会場を変えながらの変則的な定例会として続けていくようだ。同じく2019年には落語プロモーター「夢空間」が「談志役場」と組んで「Y.TatekawaBlood~江戸の新風~」なる「談志の孫弟子世代」の落語会もスタート、この企画会議にも吉笑が参加し、顔付けは吉笑が決めているそうだ。

 

談志という求心力を失った立川流だが、吉笑を中心とした「談志の孫弟子世代」の動きによって、談志存命中とは全く異なる形での「団体としての実態」を獲得することになるのかもしれない。

 

 

ご愛読、どうもありがとうございました。
この連載は、加筆・修正の上、光文社新書の一冊として刊行予定です。

21世紀落語史

広瀬和生(ひろせかずお)

1960年生まれ。東京大学工学部卒。ハードロック/ヘヴィメタル月刊音楽誌「BURRN! 」編集長。落語評論家。1970年代からの落語ファンで、年間350回以上の落語会、1500席以上の高座に生で接している。また、数々の落語会をプロデュース。著書に『この落語家を聴け! 』(集英社文庫)、『落語評論はなぜ役に立たないのか』(光文社新書)、『談志は「これ」を聴け!』(光文社知恵の森文庫)、『噺は生きている』(毎日新聞出版)などがある。
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