灰は灰に、塵は塵に、そして不燃の真実一路が蘇る【第58回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

44位
『フューネラル』アーケイド・ファイア(2004年/Merge/米)

Genre: Indie Rock, Chamber Pop, Art Rock
Funeral – Arcade Fire (2004) Merge, US
(RS 151 / NME 13) 350 + 488 = 838

 

 

Tracks:
M1: Neighborhood #1 (Tunnels), M2: Neighborhood #2 (Laïka), M3: Une année sans lumière, M4: Neighborhood #3 (Power Out), M5: Neighborhood #4 (7 Kettles), M6: Crown of Love, M7: Wake Up, M8: Haiti, M9: Rebellion (Lies), M10: In the Backseat

 

ある種のシンデレラ・ストーリーを実現したのが、彼らのデビュー・アルバムである本作だ。たとえばそれは、こんなストーリーだ。

 

なんの奇抜さもない、まさに真実一路の「インディー」ロック・バンドが、ファンだけではなく、メディアや批評家、あるいは先達の音楽家から賞賛され、愛されて、本来の美質をなにも損なうことなく、さらに上へ上へと伸びていく……無条件にいい話だから、ほとんどの場合、実現しない。言い換えると、そんな「いい話」もないままに、90年代の大活況から一転して熱的死へと近づきつつあったのが、この時代の北米シーンだった。ほぼ唯一、このアーケイド・ファイアを例外として。

 

カナダはケベック州、モントリオール出身の男女混合7人組の彼ら最大の魅力は、その無垢な「音楽愛」だ。たとえばM7「ウェイク・アップ」。彼らはこの曲を、デヴッド・ボウイといっしょに演奏したことがある。05年、TV番組の主催するイベントでのステージだった。ギターを弾きながら、シリアスな表情でリード・ヴォーカルをつとめるボウイのすぐ側に、喉も裂けよとコーラスする若きメンバーたちがいた。ヴァイオリンやアコーディオンなど、あらゆる楽器を手にした、やけに人数が多いバンドがいた。このときアーケイド・ファイアは、(お返しとして)ボウイ畢生の名曲「ライフ・オン・マーズ」や「ファイヴ・イヤーズ」も共演した。そしてこのパフォーマンスが「感涙必至」だとして、音楽ファンのあいだで話題となった。

 

ボウイだけではない、U2も「ヴァーティゴ・ツアー」(05年から06年)ではたびたび彼らをオープニング・アクトに起用した。ケベックのショウではアンコール時にステージに呼び入れ、ジョイ・ディヴィジョンの「ラヴ・ウィル・ティア・アス・アパート」をみんなで歌った。

 

こんな夢物語を実現させたのも、本作だ。セルフ・プロデュースで、アメリカ南部の老舗インディー・レーベル、マージ・レコードからリリースされた。お葬式、という意味のアルバム・タイトルは、制作時にメンバーの周辺で9人もの近親者が物故したゆえだ、と言われている。アメリカーナの香りもうっすら漂う、「誠実」だけを絵に描いたような、手作りのインディー・ロックは、とくに「すれっからしの耳」を持つ者の心をこそ打った。このあとも、彼らの快進撃は続いていく。

 

次回は43位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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