「美しき首」とあの街の地下世界を、ただ青い月だけが照射した【第60回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

42位
『マーキー・ムーン』テレヴィジョン(1977年/Elektra/米)

Genre: Rock, Proto-Punk, Art Punk, Post-Punk
Marquee Moon- Television (1977) Elektra, US
(RS 130 / NME 29) 371 + 472 = 843
※42位、41位の2枚が同スコア

 

 

Tracks:
M1: See No Evil, M2: Venus, M3: Friction, M4: Marquee Moon, M5: Elevation, M6: Guiding Light, M7: Prove It, M8: Torn Curtain

 

ラモーンズと同様の意味では、彼らの音楽はパンク・ロックではない。しかしこの、ニューヨーク・シーンの闇の奥に咲く月見草のような彼らのデビュー作は、「アート・パンク」と呼ばれることがある。また、実質的には「プロト」パンクであったにもかかわらず、同時に「ポスト」パンク・バンドたちの里程標として信奉される、なんていう離れ業をも成し遂げた。

 

たとえば、相撲道のようにパンク・ロックにも「心・技・体」があったとするならば、「技」の頂点を形成するのがこのアルバムだ(ちなみに、ラモーンズはもちろん「体」一発だ)。技芸の「技」だ。アートと文学によって人の精神を「現実世界の果て」にまで飛翔させる想像力の翼をロック音楽に与えた本作は、このバンドに永遠の居住地を与えた。それは、詩人の王国だった。

 

ヴォーカル&ギターのトム・ヴァーレインの姓、これは芸名で、日本では堀口大學の和訳で知られる19世紀フランスの象徴派詩人、ヴェルレーヌからとったもの(英語読み)だ。ランボオを彷佛させるような詞もある。この文学性とギターがテレヴィジョンの屋台骨だ。もうひとりのギタリストであるリチャード・ロイドとヴァーレインの掛け合い、インタープレイが賞賛を集めた。水晶のペン先で素描されたかのような、情緒的かつ、透徹した緊張 感の高さ、重音奏法も駆使したその幻惑性に、聴く者のことごとく が魅了された。いや、取り憑かれることになった。

 

10分近くに及ぶタイトル曲M4が、とにかくすさまじい。次点が、アグレッシヴな「パンクの貌」をより直接的にのぞかせたM1、アルペジオに脳を支配されるM2、尖りまくったM3もいいし、スケールの大きなバラッドのM6も素晴らしい。商業的な成功と言うよりも、本作は一部特定の「アーティ」な人々から、絶大なる支持を獲得した。ヴェルヴェット・アンダーグラウンド以来の、そして、それに次ぐ「地下世界のカリスマ」としての名声を、テレヴィジョンはこのたった1枚で確立した。しかし、二度とここまでの高みに到達し得るアルバムを生み出すことはなかった。

 

スリーヴ写真は、同じニューヨーク・シーンで活躍していたロッカー、パティ・スミスの恋人だった写真家ロバート・メイプルソープが撮った。あの街にあったアートの坩堝の痕跡が刻印された1枚が本作だ。

 

次回は41位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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