「燃えつきる」すこし前、彼のギターが放った最後の烈火【第62回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

40位『エレクトリック・レディランド』ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス(1968年/Reprise/英)

Genre: Psychedelic Rock, Acid Rock, Blues Rock
Electric Ladyland – The Jimi Hendrix Experience (1968)Reprise, UK
(RS 55 / NME 103) 446 + 398 = 844

 

 

Tracks:
M1: And the Gods Made Love, M2: Have You Ever Been (To Electric Ladyland), M3: Crosstown Traffic, M4: Voodoo Chile, M5: Little Miss Strange, M6: Long Hot Summer Night,M7: Come On(Let the Good Times Roll), M8: Gypsy Eyes, M9: Burning of the Midnight Lamp, M10: Rainy Day, Dream Away, M11: 1983… (A Merman I Should Turn to Be), M12: Moon, Turn the Tides…Gently Gently Away, M13: Still Raining, Still Dreaming, M14: House Burning Down, M15: All Along the Watchtower, M16: Voodoo Child (Slight Return)

 

2連続でジミ・ヘンドリックスだ。アメリカ人(〈ローリング・ストーン〉)は、前回ご紹介したデビュー作『アー・ユー・エクスペリエンスト』のほうを、本作よりも上位に置いていた。イギリス人(〈NME〉)はこっちが上だった。そんなねじれ現象のなか、僅差(1ポイント差)で本作が上位に入った。僕の意見では、これは正しい。彼が生前に残した3枚のスタジオ・アルバムのうち、最後の1枚にあたる本作が、最も多彩かつ豊潤な充実作である、と考えられるからだ。

 

アルバム・デビュー後のヘンドリックスは、なによりも、ライヴで人々をノックアウトし続けた。なかでも名高いのが67年、史上初と言っていい規模の野外ロック・フェスティバル、モンタレー・ポップ・フェスでの名演だ。「ギターでこんな音が出るのか!」「しかも、燃やすのか!」と、観客の度肝を抜いた。そうして時代を象徴するスーパー・ロックスターとなった彼が、巨大なプレッシャーのもとで心血を注いだのが本作。LPレコード2枚組のダブル・アルバムとして発表された。

 

まず、彼の代表曲のひとつ、ワウ・ワウ・サウンドのM16が圧巻だ。後年いろんなアーティストにカヴァーされたM3も、アタックの強いロック・ソングの名曲だ。アール・キングのカヴァーであるブルース・ロックのM7も、当然熱い。

 

が、カヴァーと言うなら、「見張り塔からずっと」との邦題で知られるボブ・ディランのナンバー(M15)がまず絶品だ。ディラン本人もこのヴァージョンを激賞し、ほぼ同じアレンジでライヴ演奏したこともある。ディランを敬愛していたヘンドリックスだったのだが、期せずして、彼のアレンジャーおよびヴォーカリストとしての才能が発揮されたのがこのトラックで、時代を象徴する1曲ともなった。そして、このクライマックスに至る直前、アナログならC面にあたる、フリー・ジャズや前衛音楽的アブストラクトな曲群(M10~12)も、面白い効果を発揮している。

 

本作を最後に、ヘンドリックスは69年にバンドを脱退(だからエクスペリエンスは解散)。同年8月のウッドストック・フェスティヴァルでは、ロック史上屈指のスペクタクルとだれもが認める「超・絶技」で、アメリカの国歌「星条旗よ永遠なれ」を演奏した。翌70年9月18日に彼は急死する。享年27。エクスペリエンスでのデビューからわずか4年程度の活動だった。

 

次回は39位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

この100枚がなぜ「究極」なのか? こちらをどうぞ

究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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