大統領の「ファンク前」、蒼き叫びがハーレムの夜にこだました―ジェームス・ブラウンの1枚【第67回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

35位
『ライヴ・アット・ジ・アポロ、1962』ジェームス・ブラウン(1963年/King /米)

Genre: Soul
Live at the Apollo, 1962 – James Brown (1963) King, US
(RS 25 / NME 125) 476 + 376 = 852

 

 

Tracks:
M1: Introduction to James Brown and The Famous Flames (by Fats Gonder), M2: I’ll Go Crazy, M3: Try Me, M4: Think, M5: I Don’t Mind, M6: Lost Someone, M7: Medley: Please, Please, Please / You’ve Got the Power / I Found Someone / Why Do You Do Me / I Want You So Bad / I Love You, Yes I Do / Strange Things Happen / Bewildered / Please, Please, Please, M8: Night Train

 

彼の初めてのライヴ・アルバムが本作だ。「とてつもない」情熱が燃え盛り、情念がほとばしる、まさに「ゴッドファーザー・オブ・ソウル」の異名どおりの、ジェームス・ブラウンのすさまじいパフォーマンスが、これでもかと盛り込まれた1枚だ。

 

なかでも圧巻は、M7のメドレーだ。頭とお尻を「プリーズ、プリーズ、プリーズ」で挟んだ、後年のライヴでもお馴染みのこの構成は「ダイナマイト!」と言うしかない。このアルバムの大ヒットにて、ブラウンは「ソウルの天下」を獲った。

 

本作に収録されているのは、ニューヨークはハーレムのアポロ・シアターでのステージだ。収録は、なんとブラウンの「自費で」おこなわれた。なぜならば、所属レーベルであるキングが、ライヴ盤の制作に難色を示したからだ(旧曲ばかりのライヴ盤は売れない、と彼らは言った)。しかも、この当時のブラウンのキャリアは(いまとなっては、信じがたいことだが)かなり行き詰まっていた。

 

前出の「プリーズ、プリーズ、プリーズ」(56年)は彼のデビュー曲であり、ヒット・シングルでもあった。しかしそのあとが続かず、このころは、ジリ貧と言っていい状態にまで追い込まれていた。そこでブラウンの天才性が(別名、野性のカンが)発動した。「ライヴならば、俺は負けない!」と、彼は確信していたからだ。その確信が正しかったことは、M2が鳴り出した瞬間にわかる。

 

この時期のブラウンは、コーラス&ダンス・グループのザ・フェイマス・フレイムズを率いていた。その模様は今日、映像でも確認できる。『T.A.M.I. ショウ』(64年)や『スキー・パーティー』(65年)などの、つまりあの、極細パンツを穿き、まるで重力がないみたいに「滑るように」ステップを踏む「あのJB」がここにいるわけだ。幼き日のマイケル・ジャクソンが、食い入るように見つめた「あのJB」のことを僕は言っている。ムーンウォークほか、彼のパフォーマンスの至るところにブラウンの巨大な影響があることは、ジャクソン自身がよく語っていた。

 

意外なところでは、ストゥージズと並ぶ「パンクの祖父」系ガレージ・バンド、MC5のウェイン・クレイマーがJBの大ファンで、自分たちのライヴ前にはLSDを決めながら本作をよく聴いていたそうだ。だからファンクだけでなく、パンクですら「JBがいたから」生まれたのかもしれない。

 

次回は34位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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