仲間たちのキャニオンに響きわたる、彼女と名曲のつづれ織り―キャロル・キングの1枚【第73回】
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

29位
『タペストリー』キャロル・キング(1971年/Ode/米)

Genre: Pop, Rock, Folk
Tapestry – Carole King (1971) Ode, US
(RS 36 / NME 82) 465 + 419 = 884

 

Tracks:
M1: I Feel the Earth Move, M2: So Far Away, M3: It’s Too Late, M4: Home Again, M5: Beautiful, M6: Way Over Yonder, M7: You’ve Got a Friend, M8: Where You Lead, M9: Will You Love Me Tomorrow?, M10: Smackwater Jack, M11: Tapestry, M12: (You Make Me Feel Like) A Natural Woman

 

彼女の名を知らずとも、曲名がわからずとも、一聴すれば「ああ、あれか」と認識できるナンバーが、あなたにもあるはずだ。それほどの伝播力を持つ、名曲中の名曲と言うしかないナンバーが「これでもか」と詰め込まれたアルバムが、本作だ。

 

シンガー・ソングライターとしてのキャロル・キング、2枚目のスタジオ・アルバムが本作だ。すでに彼女は、職業作曲家として大成功していた。夫で作詞家のジェリー・ゴフィンと組んだ〈ゴフィン=キング〉印は、ニューヨークは「ブリル・ビルディング」発のソングライター・チームのなかでも最強コンビのひとつとして、60年代の膨大なヒット曲にその名を刻んでいた。他者が歌うレコードの。

 

そんなキングが、自ら歌うソロ・アーティストとして世に放った超特大のヒットが本作だ。全米1位を15週連続、その後306週にわたってチャート・イン。72年のグラミー賞では主要4部門を制覇。だから当然「千万枚クラブ」入りして、今日までに2500万枚売れたと見なされている。優秀な作曲家であるだけではなく、詞も書けるし、なにより彼女の歌声のしなやかな強靭さ、真っ直ぐな「その佇まい」が、新しい時代の自立した女性の理想像と合致して――もう大変なことになった。

 

がっちりしたロックのM1もいいが、M3は普通、聴けば泣くだろう。M7も涙腺直撃だ。つらいときは私を思い出して、と歌われる。「ただ私の名を呼ぶだけでいい。どこにいても駆けつけるから/冬でも春でも夏でも秋でも、呼んでくれさえすれば」と歌うこの曲は、ご近所の友人でもあるジェームス・テイラーによるカヴァーが、本作とほぼ同時に全米1位を獲った(そのほか、無数にカヴァーされた)。

 

そしてなんと言っても、M12だ。キングの、いや70年代以降の多くの女性にとっての、ある意味テーマ・ソングとなったと言えるのがこのナンバーだ。これは彼女がアレサ・フランクリンに提供したヒット曲のセルフ・カヴァーだった。

 

本作のジャケット写真は、ロサンゼルス郊外のローレル・キャニオンにあるキングの自宅で撮影された。彼女の「ナチュラルな」感じ、この髪形とジーンズに裸足、それから猫も、人気を呼んだ。こうしたライフスタイルに世界の多くの人々があこがれた。そして実際、「キャニオン系」からはつねに新しい音楽が、たとえばイーグルスの超特大ヒットなども、このすこしあとに生まれた。

 

次回は28位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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