地下室のジョニーが船酔いの水夫と、ジングル・ジャングルの朝に―ボブ・ディランの1枚【第75回】
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

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2019/01/11

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

27位
『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』ボブ・ディラン(1965年/Columbia/米)

Genre: Folk Rock, Folk
Bringing It All Back Home – Bob Dylan (1965) Columbia, US
(RS 31 / NME 73) 470 + 428 = 898

 

 

Tracks:
M1: Subterranean Homesick Blues, M2: She Belongs to Me, M3: Maggie’s Farm, M4: Love Minus Zero/No Limit, M5: Outlaw Blues, M6: On the Road Again, M7: Bob Dylan’s 115th Dream, M8: Mr. Tambourine Man, M9: Gates of Eden,M10: It’s Alright, Ma (I’m Only Bleeding), M11: It’s All Over Now, Baby Blue

 

ボブ・ディランが初めて「エレクトリック(電気楽器を使う)」バンドをバックに歌ったアルバムがこれだ。60年代後半に大きく盛り上がった「フォーク・ロック」という音楽スタイルは「ここから本格化した」と言われる。初の全米トップ10入り、全英1位を記録した、彼の5枚目のスタジオ・アルバムが本作だ。

 

とはいえ、彼のこの「転向」は、当時、幾度も幾度も非難された。おもに潔癖性的なフォーク・ソング・ファンが「ディランは不純になった」と見なした。電気楽器は不純だからだ。かつての、すでに終わった文化である、50年代の「ロックンロール」で使われていたのが電気楽器だったから……だがしかし、時代は動いていた。

 

64年の8月、ディランは初めてビートルズの面々と顔を合わせる。即座に化学反応が起きて、ビートルズ側はレノンが大変貌。そしてディランは、より「エレクトリック指向」が強まった、と言われる。つまり「終わった文化」どころか、まさにここから、この両者が「まったく新しいロック」を創成していくことになる。

 

本作の、アナログ盤ならA面にあたるM7までが「エレクトリック」なディランだ。B面が弾き語りをベースとしたアレンジだった。軍配は――難しいところだが、鬼気迫るM11の熱演ゆえ、ここでは「まだ」アコースティック編のほうが上、だったかもしれない。またザ・バーズのカヴァーが全米1位となった、つまり「フォーク・ロックの時代」を世界に宣布したM8も、ここでは弾き語りで収録されている。

 

とはいえ、M1のグルーヴも、すごい。速射砲のようにシュールな言葉群が叩き出され、バッキングのリズムと噛み合って、ぐいぐいと「進んでいく」この感じは、たとえば今日で言えば、エド・シーランあたりの曲づくりの始祖と言うべきものだ。「言葉」のリズム、そして韻こそが真の「グルーヴ」を生む。どの言葉も、フレーズも、最短距離で耳に飛び込んで来る。英語が理解できる人であれば、この歌がいかに「とんでもない」ものか、一瞬でわかるはずだ。M3も大人気曲だ。「新しい翼」を得たディランが、乗りまくっていることが伝わってくる。

 

ここを起点として、翌66年にかけて、彼は名作を連打していく。ディランが踏み出す新たな一歩が、そのままロックと社会全体に大きな波紋を広げていく、という「奇跡の季節」が、ここから始まる。

 

次回は26位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

この100枚がなぜ「究極」なのか? こちらをどうぞ

究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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