だって俺らみたいなろくでなしは、ベイビー、生まれながらのかっ飛び野郎だから―ブルース・スプリングスティーンの1枚【第76回】
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

bw_manami

2019/01/14

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

26位
『ボーン・トゥ・ラン』ブルース・スプリングスティーン(1975年/Columbia/米)

Genre: Rock
Born to Run – Bruce Springsteen (1975) Columbia, US
(RS 18 / NME 85) 483 + 416 = 899

 

 

Tracks:
M1: Thunder Road, M2: Tenth Avenue Freeze-Out, M3: Night, M4: Backstreets, M5: Born to Run, M6: She’s the One, M7: Meeting Across the River, M8: Jungleland

 

もし明日宇宙人が地球にやって来て「ロックンロールとはどんなものか?」とあなたに聞いたならば、エルヴィス・プレスリーのデビュー作(56年)と、本作のタイトル曲を聴かせればいい。これがわからなければ、ロックはわからない。

 

「明日なき暴走」との邦題を与えられたこのナンバーは、たとえばコンサートでは、冒頭2秒のドラムロールの瞬間に観客の涙腺が決壊する。続く、分厚いサキソフォンにバッキングされたギター・リフ、ここで雄叫びだ。でかいでかい、鳴り止まぬ地響きみたいな大音声と、「ボス」のファースト・バースが正面衝突する……。

 

本作は、ブルース・スプリングスティーンの一大出世作にして、70年代後半以降のアメリカン・ロック、そのメインストリームの方向性を決定づけた、まさに金字塔と呼ぶべき1枚だ。ここまでのスプリングスティーンは、レコードが売れなかった。ボブ・ディランの系譜を継ぐ都会の詩人(という見方も、間違ってはいないのだが)として売り出されたために、デビュー作以来、どうもレコードでは本領を発揮できない、そんなきらいがあった。その逆に、盟友のEストリート・バンドを従えて繰り広げられる、灼熱のステージの評判は、年々高まるばかりだった。

 

そんな彼が、「ついに」ライヴの強みをレコーディング・スタジオで再現することに成功し始めたのが、通算3枚目のアルバムとなる本作だった。邦題で並べてみよう。「涙のサンダーロード」「凍てついた十番街」「夜に叫ぶ」「裏通り」――ここまでが、アナログ盤のA面だ。そしてあなたは、LPを裏返す。針を落とす。そしてドラムロール、「明日なき暴走」だ! 「彼女でなけりゃ」「ミーティング・アクロス・ザ・リバー」、そして「ジャングルランド」も入っている……本作は、スプリングスティーン初の全米トップ10入り、最高位3位を記録した。

 

スプリングスティーンが指向した方向性の、ほとんどのところが本作では見事に成果を出していた。たとえばそれは、50年代のエルヴィスのマンブリング(口のなかでもぐもぐ言うような歌いかた)、ロイ・オービソンの朗々と伸びる声、60年代以降のフィル・スペクターの「音の壁」、デュアン・エディの甘くもワルいギター・サウンド、そして「ディランが具象派の短篇小説家になったような」詞の世界――これらをすべて合わせ持った、きらめくようなロックンロールだった。

 

次回は25位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

この100枚がなぜ「究極」なのか? こちらをどうぞ

究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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