永遠のセンシティヴがあの青のなかに沈む―ジョニ・ミッチェルの1枚【第77回】
究極の洋楽名盤ROCK100

bw_manami

2019/01/18

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

25位
『ブルー』ジョニ・ミッチェル(1971年/Reprise/米)

Genre: Folk
Blue – Joni Mitchell (1971) Reprise, US
(RS 30 / NME 63) 471 + 438 = 909

 

 

Tracks:
M1: All I Want, M2: My Old Man, M3: Little Green, M4: Carey, M5: Blue, M6: California, M7: This Flight Tonight, M8: River, M9: A Case of You, M10: The Last Time I Saw Richard

 

ソングライターとして、シンガーとして、個性的なギターの名手として、そのほかいろいろ(絵もうまい。自画像をカヴァー・アートによく使う)、とにもかくにも「突出した才能の塊」として世を騒がせていたジョニ・ミッチェルの第4作がこれだ。ローレル・キャニオンという芸術家村に住まう「妖精の女王」が彼女だった。

 

ニール・ヤングのほぼ同期生としてカナダからあらわれたミッチェルは、順調なキャリアを積んでいた。とくに70年発表の前作『レディース・オブ・ザ・キャニオン』は評判となった。あのフェスを総括するように歌った「ウッドストック」もヒットした。映画『いちご白書』(70年)のテーマ曲「ザ・サークル・ゲーム」のセルフ・カヴァーも収録、言うなれば「時代の映し鏡」とも言える成功作だった。

 

ところが、本作はその数段上を行った。小鳥がさえずりながら空を舞うような、自由闊達なメロディー・ライン。それを支える、本人いわく「ジョニのキモコード(weird chords)」(彼女は50種類にわたるオープン・チューング・ギターを使い分けていた)。これらが相俟って、まるでジャズのアドリブ器楽奏のように「言葉」が羽ばたき、宙を踊るのだ。本作はリリースの瞬間から批評家の絶賛を集めた。

 

傑作が生まれた背景には、「キャニオン」内部の入り組んだ人間関係の影響もあった、という。本作制作中のミッチェルは、ジェームス・テイラーとの困難な恋愛関係に終止符を打つのだが、それは彼のシングルが全米1位を記録したころでもあった。これはキャロル・キング「ユーヴ・ガット・ア・フレンド(邦題「きみの友達」)」のカヴァーだった。こんな一連の体験が、本作収録曲の多くには反映されている。

 

たとえば「リヴァー」(M8)は、愛の喪失とクリスマスの情景が重ね合わされた1曲だ。寂寥感を真空パックしたようなこの名曲は、幾度カヴァーされたことか。記憶に新しいところでは、イギリスのシンガー、コリーヌ・ベイリー・レイの名唱がある。これはジャズ・キーボードの巨匠、ハービー・ハンコックがミッチェル曲のカヴァーだけでまるごと1枚作ったアルバム『リヴァー:ザ・ジョニ・レターズ』(07年)収録の1曲だった。ミッチェル本人も参加したこの1枚は、08年度グラミー賞のアルバム・オブ・ザ・イヤーを獲得。ジャズ・アルバムが同賞を受賞するのは、なんとあのボサノヴァ名盤『ゲッツ/ジルベルト』(65年)以 来、史上二度目の快挙でもあった。

 

次回は24位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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