緑深き島の「幽体週間」、妖精たちと中空をたゆたう―ヴァン・モリソンの1枚【第80回】
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

bw_manami

2019/01/28

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

22位
『アストラル・ウィークス』ヴァン・モリソン(1968年/Warner Bros./米)

 

Genre: Folk Rock, Soul, Irish Trad, Jazz
Astral Weeks – Van Morrison (1968) Warner Bros., US
(RS 19 / NME 68) 482 + 433 = 915

 

 

Tracks:
M1: Astral Weeks, M2: Beside You, M3: Sweet Thing, M4: Cyprus Avenue, M5: The Way Young Lovers Do, M6: Madame George, M7: Ballerina, M8: Slim Slow Slider

 

こうした名盤リストではつねに首位を予想されるアルバムの筆頭にして最強横綱が、前回紹介したビートルズ『サージェント・ペパーズ』(67年)だった――はずなのだが、同作をわずか1ポイント差で辛くも破ったのが、このアルバムだ。

 

北アイルランドはベルファスト出身の、傑出したシンガー・ソングライターがヴァン・モリソンだ。その彼の2枚目のスタジオ・アルバムが本作。モリソンは灼熱のガレージ・R&B・クラシック「グロリア」(64年)などのヒットを放ったバンド、ゼムの一員としてデビュー。バンド脱退後はソロとして活動し、本作の前年には、ポップな「ブラウン・アイド・ガール」(67年)をスマッシュ・ヒットさせていた。すでに実績はあった。だがしかし、本作における彼の巨大な芸術的跳躍を事前に予想できた者はいなかったはずだ。とてつもない大ジャンプだった。

 

まず、全曲モリソン自身のペンによる楽曲のありかたが、これまでとは違った。具象ではなく、一種独特の神秘主義的傾向のもとで揃えられた連作歌集となっている。そこには、ケルトの文化的伝統の反映が見てとれた。虹やクジラや来世や天国のイメージが頻出するタイトル・チューンのM1には、本作の精髄が詰まっていると言っていい。またその筆さばきは「印象派の絵画のようだ」とも評された。

 

音楽性も聴き手を驚かせた。ストレートで現代的なロックやソウルから遠く離れた、清廉にして奥深い、アイリッシュ・トラッド音楽の影響大きいフォーク・ロックを土台に、ジャズ的な自由度があるサウンドのなかを、まさに緩急自在、伝承民話のなかの歌神と化したかのように、モリソンは歌った。そして、ここにある神秘性には「いわれがある」ことに、少数の者がまず気づいた。

 

世はサイケデリックの時代だった。ドラッグの力を借りては、思いつきのカルトに陶酔する者はあとを絶たず、その坩堝のなかにロックはあった。しかし自らのルーツに立脚することで、現世の「向こう側」へと突き抜ける方法を、モリソンは開発した。言うなればそれは、「ケルトの魂」を転写したソウル音楽の黎明だった。

 

発表当時、本作は売れなかった。1万5千枚しか売れなかった、との説もある。しかし、止まらず売れ続けた。2001年、本作はアメリカでの売り上げが50万枚に達し、ゴールド・ディスクに認定された。発売から33年が経過していた。

 

次回は21位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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