地獄から来たノー・フューチャーが、ロック文化に大革命をもたらす―セックス・ピストルズの1枚【第82回】
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

bw_manami

2019/02/04

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

20位
『ネヴァー・マインド・ザ・ボロックス・ヒアズ・ザ・セックス・ピストルズ』セックス・ピストルズ(1977年/Virgin/英)

 

Genre: Punk Rock
Never Mind the Bollocks Here’s the Sex Pistols – Sex Pistols (1977) Virgin, UK
(RS 41 / NME 38) 460 + 463 = 923

 

 

Tracks:
M1: Holidays in the Sun, M2: Liar, M3: No Feelings, M4: God Save the Queen, M5: Problems, M6: Seventeen, M7: Anarchy in the U.K., M8: Bodies, M9: Pretty Vacant, M10: New York, M11: E.M.I.
※UKオリジナル盤は、上記全11曲収録のLPに加えて「Submission」を収録した7インチ・シングルが付録となっていた。

 

ささくれ立ったギターが、ぶっ壊れたチェーンソーみたいにあたり構わず衝突しては破壊する、この特殊仕様のロックが、パンクのイメージを決定づけた。セックス・ピストルズのデビュー作にして「たった1枚だけ」のスタジオ・アルバムが本作だ。

 

本作発表当時の彼らは、スキャンダルの渦のなかにいた。最大の震源となったのは、先行シングルともなった「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」(M4)だ。イギリス国歌と同じ「神よ女王を護りたまえ」との意味をタイトルにしたこの曲は、むき出しの「嫌みと侮蔑」だけを形にしている。女王は「人間ではない」と罵倒し、王制を「ファシスト体制」と呼んで愚弄、「イングランドの夢に、お前らに、未来なんてない!」と吐き捨てる。しかも「最悪」のタイミングで。なぜならばこの年、77年は、エリザベス女王の即位25周年(シルヴァー・ジュビリー)だったからだ。

 

当時12歳の僕はロンドン郊外の寄宿学校にいた。だからイギリスの「普通の」善男善女、とくに中年層や老人がいかに記念式典を楽しみにしていたのか、実感としてよくわかる。みんな笑顔で、街じゅうどこでも記念グッズやユニオン・ジャックの小旗を売っていた。そこに突然、音楽による「テロ攻撃」を仕掛けたのが彼らだった。

 

だから当然、轟々たる非難の声が巻き起こった。多くの「普通の」人々が彼らを憎み、忌み嫌い、ヴォーカルのジョニー・ロットン(のちにライドン)は右翼の暴漢に幾度も襲撃された。刃傷沙汰もあった。彼が「アナキストになりたい」と歌うM7も問題視され、ピストルズは公共の敵として叩かれ、シングル1枚出すたびにレコード会社をクビになる。しかし都合2社を経たあと発表された本作は、もろもろの「悪名」が絶好の宣伝となって、全英1位の大ヒットを記録してしまう。そして、音を立てて全世界のロックが、ポップ文化が革命の荒波に飲み込まれていくことになる。

 

大ヒットの理由は、簡単だ。「怒っている」若者は、彼ら以外にもいっぱいいたからだ。ジュビリーの陰で壊れかけていた当時のイギリスだけでなく、世界じゅうにいる「持たざる者」の渦巻く鬱屈そのものを武器として、世に解き放つ方法を彼らは提示した。ピストルズが定義したパンクの「心」とは、ソリッドで純粋なる「怒り」だった。甘さ・思いやり・穏やかさ・爽やかさ――といった、人の世に欠かせない潤いや栄養分など一切ない、非常事態下における戦闘用のロックンロールだった。

 

次回は19位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

この100枚がなぜ「究極」なのか? こちらをどうぞ

究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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