憤激の預言者「公共の敵」が最終戦争のカウントダウンをする―パブリック・エネミーの1枚【第88回】
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

bw_manami

2019/02/25

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

14位
『イット・テイクス・ア・ネイション・オブ・ミリオンズ・トゥ・ホールド・アス・バック』パブリック・エネミー(1988年/Def Jam/米)

 

Genre: Hip Hop
It Takes a Nation of Millions to Hold Us Back – Public Enemy (1988) Def Jam, US
(RS 48 / NME 17) 453 + 484 = 937

 

 

Tracks:
M1: Countdown to Armageddon, M2: Bring the Noise, M3: Don’t Believe the Hype, M4: Cold Lampin’ with Flavor, M5: Terminator X to the Edge of Panic, M6: Mind Terrorist, M7: Louder Than a Bomb, M8: Caught, Can We Get a Witness?, M9: Show ‘Em Whatcha Got, M10: She Watch Channel Zero?!, M11: Night of the Living Baseheads, M12: Black Steel in the Hour of Chaos, M13: Security of the First World, M14: Rebel Without a Pause, M15: Prophets of Rage, M16: Party for Your Right to Fight

 

彼らなくして、90年代のヒップホップ大攻勢はなかった。N.W.Aが西海岸で暴れていたのとほぼ同時期に、道なき場所に道を切り開き、無数のロック・ファンを「ヒップホップに引き込んだ」先駆者のひとつが、このパブリック・エネミーだ。

 

衝撃的なデビューを飾った前年の勢いそのままに、ナショナル・チャートに食い込むまでの大きな躍進を見せたのが、2枚目のスタジオ・アルバムである本作だ。彼らのデビューが「衝撃」だった理由は簡単だ。これほどまでに戦闘的な態度の黒人アーティストを「アメリカの大衆」はこれまで見たことがなかった、からだ。

 

パブリック・エネミーについて、こんなふうに評されることがある。「ランDMCとザ・クラッシュの合体」だと。つまり、ハード・ロッキンでファンキーなビートと、政治的・社会的不公正に「戦いを挑む」主張の合体だ。だから「公共の敵ナンバー・ワン」と名乗るシングルで彼らはデビューする。それは「白いアメリカ」が作り上げたいびつな秩序に、虚飾にまみれた良識に、正面から戦いを挑むものだった。

 

ステージで彼らの背後に立つ、まるで武装した私兵のようないでたちで、60年代の急進的政治組織ブラックパンサー党を思わせる「ダンサー」チーム、S1Wの存在も目を引いた。プロ格闘家のような巨体にしてスクラッチの達人でもあるDJの名は「ターミネーターX」。大きな時計を金の鎖で首からぶら下げたMCはフレイヴァー・フレイヴ。そして、メインMCにしてすべてを指揮する総帥がチャックD――こんな顔ぶれが鳴らしたのが、「画期的に新しい」ヒップホップだった。

 

たとえば、細かくチョップした有名曲や効果音を随時ビートに叩き込む手法。キャラクターの違う2人の掛け合いが、立体的なニュース・ショウのように機能するところ。まるで存在そのものを「メディア化」したかのごときそのユニークさに、黒人以外も多く含む聴き手が敏感に反応した。M2、M3などがとくに人気を呼んだ。そして本作は、全米で彼ら初めてのプラチナム・アルバムとなるヒットとなった。

 

次なるアルバムで、ついに彼らは、エルヴィスもジョン・ウェインも白人向けの愚物だと切って捨てる、あの「ファイト・ザ・パワー」を世に送り出す。同曲はスパイク・リー監督の『ドゥ・ザ・ライト・シング』(89年)のテーマ曲となり、映画のヒットも相俟って、さらなる波紋を全世界へと広げていくことになる。

 

次回は13位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

この100枚がなぜ「究極」なのか? こちらをどうぞ

究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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