地球に墜ちてきたロックスター、ケレンと誠実の興行を開幕する―デヴィッド・ボウイの1枚【第89回】
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

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2019/03/01

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

13位
『ザ・ライズ・アンド・フォール・オブ・ジギー・スターダスト・アンド・ザ・スパイダーズ・フロム・マーズ』デヴィッド・ボウイ(1972年/RCA/米)

 

Genre: Glam Rock
The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders From Mars – David Bowie (1972) RCA, US
(RS 35 / NME 23) 466 + 478 = 944

 

 

Tracks:
M1: Five Years, M2: Soul Love, M3: Moonage Daydream, M4: Starman, M5: It Ain’t Easy, M6: Lady Stardust, M7: Star, M8: Hang On to Yourself, M9: Ziggy Stardust, M10: Suffragette City, M11: Rock ‘n’ Roll Suicide

 

宇宙から来たバイセクシュアルの異星人ロックスター「ジギー・スターダスト」をデヴィッド・ボウイが演じた。彼の最初の「ペルソナ」がこれだ。出世作となった5作目のスタジオ・アルバムは、まさに「一世一代の名舞台」、渾身の1枚だ。

 

ひとことで言うと、本作は世界初の「コンセプチュアルなグラム・ロック」だ。ジギーというキャラクターに沿ったテーマ設定で、すべての曲は書かれている。だから「地球にはあと5年しか残されていない」と不吉な予言がおこなわれるM1から本作は幕を開ける。SF的で、浮世離れした設定が歌われたナンバーが並ぶ。

 

テーマの解題を試みるのが人気曲のM4「スターマン」だ。子供たちにブギーを、福音を伝えにやって来た宇宙人を歌う。「ボウイのグラム」を堪能するなら、ミック・ロンソンの劇的なギターが光るタイトル曲のM9、ギター・ソロが秀逸なM3、ハードに疾走するM8やM10がお薦めだ。ショーホール風のM11もいい。

 

アルバム発表後のツアー、ボウイは当然、ステージ上で「異星人のジギー」として歌った。眉毛を剃って髪を真っ赤に染めて逆立たせ、山本寛斎ほかの「両性具有的」奇矯な衣裳に身を包んだ。そんな彼に、場内を埋め尽くした若い女性が悲鳴を上げ、涙を流しながら手を伸ばす光景がフィルムなどにおさめられている。彼女たちは、まるで救世主に触れようとするかのように、切実きわまりない表情をしていた。

 

おそらく彼女たちは孤立していた。学校でも家庭でも地元でも、どこにも居場所なんてなく、かりそめの「嘘」の共同体は、いつも彼女たちに一方的な屈従のみを強いた。「だがしかし」いま目の前にいる、「たったひとりで宇宙から墜ちてきた」男でも女でもないロッカーなら「友だちになれる」かもしれない――彼女たちが伸ばした指先に宿った「切迫」の正体とは、そのようなものだった。

 

ボウイの才能は、本作で「異端」を具現化した。これに触れて、聴き手は自らの異端性に気づき、屈従の日々から解放された。このような回路による「コミュニケーションの道具」としてのロックを創造し得たのは、本作のボウイが嚆矢だった。

 

出世作と言っても、当時本作は、全英5位、全米75位までしか上がらなかった。2016年までのトータル売り上げ枚数も「たったの」750万枚しかない。だがしかし「ロックを知る者」で、本作の威力を知らぬ者はいない。

 

次回は12位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

この100枚がなぜ「究極」なのか? こちらをどうぞ

究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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