宿命のひとひねりで、こんがらがってブルーになって―ボブ・ディランの1枚【第91回】
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

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2019/03/08

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

11位
『ブラッド・オン・ザ・トラックス』ボブ・ディラン(1975年/Columbia/米)

 

Genre: Folk Rock
Blood on the Tracks – Bob Dylan (1975) Columbia, US
(RS 16 / NME 36) 485 + 465 = 950

 

 

Tracks:
M1: Tangled Up in Blue, M2: Simple Twist of Fate, M3: You’re a Big Girl Now, M4: Idiot Wind, M5: You’re Gonna Make Me Lonesome When You Go, M6: Meet Me in the Morning, M7: Lily, Rosemary and the Jack of Hearts, M8: If You See Her, Say Hello, M9: Shelter from the Storm, M10: Buckets of Rain

 

 ボブ・ディランのアルバムのうち、当ランキングで最高位に位置する1枚がこれだ。意外だと思う人もいるかもしれない。〈NME〉リストでの順位が高かったから、こうなった。イギリス人の考える「ディランの最高位の1枚」が本作だということだ。発表時に賛否渦巻いたアメリカとは違い、英メディアやロック・ファンは当初から本作に好意的だった。「ディランの(幾度目かの)大復活作なのだ」と。

 

 邦題を「血の轍」とする本作は、彼の15枚目のスタジオ作だ。60年代の彼の隠遁期明け、たとえば邦題「見張り塔からずっと」を収録していた『ジョン・ウェズリー・ハーディング』(67年)以来の傑作との呼び声が(とくにイギリスで)高かった。なぜならば、この直前のディランは(幾度目かの)迷走期だったからだ。

 

 デビュー以来、長年所属していたコロムビアを離れたディランは、アサイラム・レコードに移籍する。同レーベルから74年に発表した2枚のアルバムでは、どちらもザ・バンドがバッキングをつとめていた(1枚目の『プラネット・ウェイブズ』の1曲を除く)。しかしこれらは、僕の耳には、大味な失敗作としか聞こえないものだった。あの67年のデモ流出音源では、両者の相性はよかったのに……。

 

 そしてディランは、古巣コロムビアへの復帰作となる本作にて、ザ・バンドではなく、セッション・ミュージシャンを雇って録音をおこなう。レコーディングは難産で、ニューヨークだけではまとまらず、ミネアポリスに「転地」して、なんと現地のローカル・プレイヤーまで起用して作業は進められた。しかし、これが吉と出た。

 

 たとえばM1「ブルーにこんがらがって」との邦題の人気曲、これだけで彼が長き眠りから「蘇生」したことがわかる。言うなれば、バックバンドはもちろん、シンガーとしての自分も含めて、すべてをコントロールする「総監督ディラン」がくっきりとした顔を見せた1枚が本作だった。離婚など、私的な体験を「チェーホフのように」昇華した、人生の深みを感じさせる収録曲の数々も高く評価された。

 

 結果、本作は全米1位、全英で4位を獲得。このあとに続くスタジオ・アルバム『デザイア(邦題「欲望」)』(80位、76年)と合わせて、セールス的な面での彼の最高潮の時代がやってくる。そして本作からの流れが、「総監督ディラン」が率いる、あのローリング・サンダー・レビューへとつながっていく。

 

 

次回はトップ10に入る前にちょっとひと呼吸、番外編として、コラム「7分でわかるロックの歴史(1)」を掲載いたします。お楽しみに!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

この100枚がなぜ「究極」なのか? こちらをどうぞ

究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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