ロックンロールは「発見」された――7分でわかるロックの歴史(前編)【番外編・コラム】
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

bw_manami

2019/03/11

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

 できうるかぎり簡潔に、ロックンロール音楽の歴史をここでまとめてみたい。「名盤」をより一層楽しむには、じつは、歴史を知るのが手っ取り早い。クラシック・カーを買ったなら、新オーナーの悦楽行為の最初のひとつに、その一台の「来歴」や「背景」を知ることが挙げられるはずだ。それと同じだ。

 

 とはいえ僕は、レビュー本編のほうでは、歴史にはさわり程度しか踏み込めなかった。個々のアルバムの内容に言及することが第一義だったからだ。つまりあっちでは、連続TVドラマか大河小説の登場人物、キャラクターの紹介をおこなったようなものかもしれない。ゆえにこれから、その「ストーリー」の全体像を、あらすじをご紹介したい。この稿が読者のあなたの、個々の名盤へのより深い理解へとつながるなら、僕は嬉しい。

 

 それでは、いってみよう。ロックの歴史が始まったのは、1950年代からだ。ここからざっくりと歴史を下ってみると、こんなふうに見ることができる。

 

 50年代、ロックンロールが「発見」される。60年代には「再発見」されて、大きく「成長」する。70年代は、それがさらに「発展」し、「巨大化」する。80年代は「爛熟」だ。そして90年代に「終わる」。一端幕を閉じる。20世紀中盤に端を発したロック音楽は、折り目正しくも、20世紀のうちに、その歴史の更新を停止する。

 

 もっとも「その後」も世にロック音楽はある。あると言えばある。ただし、90年代いっぱいまでの時間の流れのなかにあったものとは、もう本質的に違う。

 

 たとえば、21世紀のいまもキリスト教は世界じゅうで信仰されているが、現在のそれはイエス・キリストが地上にいた時代、あるいは、愛弟子の12使徒が存命だった時代の教えとは、あらゆる点で小さくない差異があるはずだ。ロック音楽も同様だ。おそらくはロックも、いまここから時間が経てば経つほどに、このキリスト教の例にも近しく、大きく変質していくことになるだろう。

 

 逆に言うと、「いま現在はまだ」12使徒の何人かは地上にいるかのような状態が、21世紀初頭のロック音楽界だとも言える。60年代から活躍する、いま70代のロッカーたちの意気軒昂な姿が、そのなによりもの証しだ。このことからも僕は「名盤」の存在をしっかりとつかまえ得る、最後の機会が現在なのではないか、と考えている。

 

 ではキーワードに沿って、それぞれの時代を見ていこう。50年代は「発見」だ。つまりロックンロール音楽とは、だれか特定の人物が「発明」したものではない。いつの間にか「すでにあったもの」を発見したに等しい形で、それは世にあらわれてきた。

 

 ロックンロール(Rock & Roll)という言いかたそのものは、古くからアメリカ人の口語のなかにあった。「盛り上がろうぜ」「派手にやろうぜ」みたいな意味の、あまり上品ではない言いかただ。たとえば、60年代以降を舞台とするアメリカ製の戦争映画やアクション映画では、登場人物の掛け声としてこれがよく使用される。仲間といっしょに敵陣に突撃していく際に「ロックンロール!」と叫ぶ、というふうに。

 

 50年代初頭、この口語を音楽にあてはめた人がいた。アメリカはオハイオ州のラジオDJ、アラン・フリードだ。黒人が演奏するリズム・アンド・ブルース(R&B)のなかで、白人の10代の若者に受けそうなものを彼はラジオでプレイしたのだが、フリードはこれらの音楽に「ロックンロール」という名を与えた。これが広まった。

 

 フリードが「新しい名前」を必要としたのには理由がある。当時のアメリカでは、いまとは比較にならないほどの露骨な黒人への蔑視意識や政策が、社会の隅々にまで満ちていた。ゆえに、いかに魅力的な音楽だろうと、それを「(支配者層の子女である)白人の若者に聴かせる」ためには、ひと工夫が必要だった。それが「ロックンロール」という、新しいラベルだった。なぜならR&Bとは、ついこのあいだまでは、白人社会から「レイス(Race=人種)音楽」などと差別的に呼ばれていたものと地続きなのだから、たしかに、この「ひと工夫」は必要不可欠なものだった。

 

 そこでフリードが思いついたこの「アイデア」が、自律的に転がり始める。ロックンロールとしか呼びようがない音楽を作る人々が、続々と登場してくる。

 

 最初のスーパースターは、もちろん、エルヴィス・プレスリーだ。「黒人のように歌える」白人シンガーとして、「ロックンロール」の天地を開闢した。ゴスペルとヒルビリー音楽の素養がある彼が、ブルースのカヴァーなどから編み出した独特な音楽は「ロカビリー」と呼ばれ、爆発的にヒットした。ちなみに、「エルヴィス・プレスリー登場!」との邦題で知られるRCAからのデビュー・アルバム(56年、原題はElvis Presley)が、ロックに「アルバムの時代」を招来した最初の1枚だ、とよく言われる。

 

 プレスリーに続き、オリジナル・ロッカーたちが次々にヒットを飛ばした時代は、しかしすぐに幕を閉じる。58年のプレスリー陸軍入隊、59年のバディ・ホリーたちが死んだ飛行機事故など、いろいろな事件が重なって、まるで一過性の流行だったかのように、ロックンロールの人気はこのころ急降下していく。一度終わる。(後編へ続く)

 

 

次回も番外編として、コラム「7分でわかるロックの歴史(後編)」を掲載いたします。お楽しみに!

 

この100枚がなぜ「究極」なのか? こちらをどうぞ

究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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