「最後のロックスター」の打ち上げ花火、異端が本流を食い破る―ニルヴァーナの1枚(前編)
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

5位
『ネヴァーマインド』ニルヴァーナ(1991年/DGC/米)

 

Genre: Alternative Rock
Nevermind – Nirvana (1991) DGC, US
(RS 17 / NME 11) 484 + 490 = 974
※5位、4位の2枚が同スコア

 

 

Tracks:
M1: Smells Like Teen Spirit, M2: In Bloom, M3: Come as You Are, M4: Breed, M5: Lithium, M6: Polly, M7: Territorial Pissings, M8: Drain You, M9: Lounge Act, M10: Stay Away, M11: On a Plain, M12: Something in the Way
※M12のあとに「Endless, Nameless」という隠しトラックが収録されていた。

 

 リリース時の爆発力だけで言うなら、マイケル・ジャクソンの『スリラー』(82年、36位)にも匹敵する。90年代初頭の米英を覆ったオルタナティヴ・ロックの大流行、いわゆる「グランジ」ブームの発火点となったのは、この1枚だ。本作の大ヒットが、文字通り、物理的に、商業音楽界の「風景を一変」させた。

 

 米ワシントン州はシアトル周辺の「インディー」シーンを根城としていたバンド、ニルヴァーナのセカンド・アルバムであり、メジャー・デビュー作となったのが本作だ。売れに売れた。発売後約1カ月の91年の11月には早くもプラチナム認定、翌92年の1月にはマイケル・ジャクソンのアルバム『デンジャラス』を押しのけて、ビルボード・チャート1位の座まで奪取してしまう。これは、一大事件だった。

 

 たとえばM1「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」。すさまじい勢いでシングルが売れた。91年の暮れにニューヨークにいた僕は、このありさまを目撃した。MTVが2時間に1回以上の頻度でMVをオンエアしていた。あらゆるレコード店にポスターが貼られていた。あり得ないことが起きていた。当時の米メインストリームでは「ロック・バンド」は完全に流行遅れの「はず」だったからだ。

 

 80年代の終盤からこの当時まで、米ポップ音楽シーンを覆っていたものをランダムに記していくと――まずはシンセポップ、当時のマドンナに代表される希釈されたダンス音楽、日本では「ブラコン」と呼ばれたソフトでスウィートなR&B、それからボーイ・バンド――これらすべてを、ニルヴァーナは粉砕した。このアルバムで蹴散らして、木っ端微塵にした。そして荒々しく、生々しいロックを復権させた。彼らの傍らで互角に渡り合えたのは、当時、黄金時代を迎えつつ あったヒップホップ勢のみだった。

 

 鍵となったのは、まずはギター・サウンドだ。最重量級のヘヴィメタルもかくやというほどの音圧のディストーション・ギターが、キャッチーきわまりない「リフ」を鳴らす。「ベイ・シティ・ローラーズとブラック・サバスの合体」と呼ぶ声もあった。ドラムスのアタックも「マッシヴ」だ。のちにフー・ファイターズのフロントマンとして成功するデイヴ・グロールは、優秀なドラマーでもあった。メロディアスなベースは、クリス・ノヴォセリックだ。そして、ヴォーカルにしてギターのカート・コベイン――なかでも、彼の「声」の迫力を、僕は特筆したい。

 

(後編に続く)

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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