真夏の真っ白な浜辺に決して溶けない氷の塔を、スタジオの魔術で―ザ・ビーチ・ボーイズの1枚(後編)
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

4位
『ペット・サウンズ』ザ・ビーチ・ボーイズ(1966年/Capitol/米)

 

Genre: Pop Rock, Chamber Pop, Psychedelic Pop
Pet Sounds – The Beach Boys (1966) Capitol, US
(RS 2 / NME 26) 499 + 475 = 974
※5位、4位の2枚が同スコア

 

 

Tracks:
M1: Wouldn’t It Be Nice, M2: You Still Believe in Me, M3: That’s Not Me, M4: Don’t Talk (Put Your Head on My Shoulder), M5: I’m Waiting for the Day, M6: Let’s Go Away for Awhile, M7: Sloop John B, M8: God Only Knows, M9: I Know There’s an Answer, M10: Here Today, M11: I Just Wasn’t Made for These Times, M12: Pet Sounds, M13: Caroline, No

 

(前編はこちら

 

 しかもブライアンはこのとき、LSDをはじめドラッグ文化には十二分に親しんでいたのだから、なんと言うか「とても個性的な妄想を持ったものだ」と正直思う。童貞の引きこもりが、ちょっと想像を絶するほどの労力をかけて作り上げた、実寸大・手彫りのバベルの塔のような奇景を、本作から僕は思い浮かべる。

 

 ビーチ・ボーイズは元来保守的なバンドだ。ヴォーカルのマイク・ラヴが熱心な共和党支持者で、ロナルド・レーガン大統領夫人のナンシーが彼らの大ファンだった(だから呼ばれて幾度も演奏した)、といった観点からだけではない。彼らの歌で描かれた「ビーチ」とは、たとえば60年代初頭のアメリカ製ティーン映画のそれとほぼ同じ世界観のものだからだ。若くて外見のいい「白人だけ」がいるその浜では、黒人やヒスパニックやアジア人は、色どりとしてすこし(1、2%ぐらい)はいてもいいが、それ以上はねえ……といった、この馬鹿馬鹿しい「書き割りのビーチ」と、彼らの代表曲「カルフォルニア・ガールズ」の歌詞の底の浅さは、ほとんど相似形だ。

 

 それでもいい、という考えかたはもちろんある。だがこの「反動性」は、たとえばボブ・ディランやブルース・スプリングスティーンのようなロックとは水と油で、まったく相容れないものだ。しかし日本では、村上春樹を筆頭に、これらの全部を「同質で等価のもの」として並べるのが恰好いいと「誤解」する人が多く、音楽評論家もそんな人ばかりのようで……僕は不思議でしょうがない。だれも歌詞を聴けないのだろうか? 英語圏においては、僕はそんな人、ひとりも見たことないのだが。

 

 ただ本作は、「異形である」という一点において、ほかのビーチ・ボーイズ作品とは一線を画してはいる。この点が、発売当時のイギリスでの圧倒的な評価とセールスへとつながった。「映画みたいな『理想のビーチ』なんて、一度も見たことも聞いたこともありません!」と自ら告白してしまったような一面が本作にはあった。イメージ上で保守反動を突き詰めすぎて、ほとんどメルヘンの世界に突入した、とでも言おうか。D・W・グリフィスの諸作か、ディズニーの『ファンタジア』(40年)みたいな美を、このときのブライアン・ウィルソンは作り上げることができた。

 

次回は第3位。お楽しみに!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

この100枚がなぜ「究極」なのか? こちらをどうぞ

究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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